165 / 224
短編集 【L'Oiseau bleu】
遠きに在るものでなく、直ぐ其処の日常に 14
しおりを挟む
目が覚めると、ベッドの上だった。素肌に当たるシーツが滑らかで心地いい。
「……あ……たかい」
まだ半覚醒の頭でそんなことを考える。
なんだか、とても安心する。温かくて、心地よくて、また意識は微睡に沈んでいきそうになった。
「……起きなきゃ……」
そう思ったのは、今日何か予定があったからではない。ただ、一青と紅二に朝からちゃんとしたものを食べてほしいと思っただけだ。
けれど、眠い。
頭の芯がぼーっとして、身体は泥のように重い。力が入らない。
もう少しだけ。
そう思った時だった。
「いいよ。まだ。疲れてるだろ?」
頭の上から聞こえてきた声に翡翠ははっとして身体を起こした。
「……あ……一青……」
その顔が見えた途端、ぐい。と、引き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。素肌の感触。翡翠も、一青も何も身に着けてはいない。
「おはよう。目覚めちゃった? 今日は紅二も龍臣さんのところから直接学校行くそうだから、急がなくていいよ?」
逃さない。と、意思表示のようにぎゅ。と、翡翠を抱きしめたまま一青が耳元に内緒話をするみたいに言う。吐息が耳にかかって、くすぐったくて、翡翠は、ん。と、小さく呟いて身を竦めた。
「ごめんな? また、無理させた」
一青の言葉に昨晩のことを思い出す。無理は。したかもしれない。もちろん(?)一度でなんて終わるはずがなくて、声が枯れて、涙でぐしゃぐしゃになって、もう出ないってくらい何度もイかされて、殆ど意識がなくなるまで抱かれた。
すごく、幸せだった。
「……や……じゃないから。いい」
だから、翡翠は正直にそう答えた。答えてから、猫の子のように一青の胸にすり寄る。
身体のあちこちに所有を主張するように情事の跡が残っている。あんまりの行為の激しさに腰から下が鉛みたいに重い。けれど、翡翠自身も、部屋も全部綺麗にされていて、どこも不快なところなんてなくて、どんなに大切に扱ってくれているのかわかって、もう、それだけで十分だと思えた。
「翡翠。俺を甘やかし過ぎ」
そんなことを言いながらも、長い指で翡翠の細い髪を梳いてから、ちゅ。と、髪にキスしてくれるから、甘やかしてるのは一青のほうだ。と、翡翠は思う。きっと、こんなに甘やかされ続けたら、ダメになってしまう。
その証拠にもう、このまま時間が止まればいいとか、ずっと二人だけの世界にいられたらいいなんて、少女漫画のような思考回路になっている。いわゆる恋愛脳というやつだ。少女漫画の主人公としては少し、いや、かなり、大幅にむさ苦しいのにも関わらず。である。先が思いやられた。
「あれ?」
一青の腕の中でその温かさに包まれながら、窓の方へ視線を送ると、ブラインドの隙間からは日差しが注いでいる。それが妙に眩しくて、翡翠は目を細めた。
「え? ……ちょっと待って?」
この窓からの朝日はこんな角度だっただろうか。ふと、思い至った疑問に時計を見上げる。
11時。
「ええっ!?」
がばっ。と、起き上がると背中に鈍い痛み。腰が抜けたみたいに動けない。
「翡翠?」
いきなり起き上がった翡翠に一青は驚いた顔をしていた。それから、背中を丸めて蹲った翡翠の顔を心配そうに覗きこんできた。
「え? 11時ってお昼じゃん。どうして起こしてくれなかったんだよ」
おかしいとは思っていた。
一青はかなり寝起きが悪い。仕事のある時は早い時間でも起きるには起きるのだが、目覚ましは常時4つ使っているらしい。放っておけばお昼を回っても起きてこないと、紅二が愚痴っていた。
もちろん。目覚ましが鳴ったなら、翡翠が起きないわけがない。一青と違って翡翠は音にはかなり敏感な方だ。けれど、翡翠が起きるような音は何もならなかった。
と、言うことは。だ。
一青が先に起きて、しかも寝起きの不機嫌な顔をしていない時点で今、何時頃なのかは想像がついたはずだ。
「や。よく寝てたし」
しれ。っと、言い放つ伴侶に力が抜けた。いくら紅二を学校に送り出す必要がないとはいえ、正式な同居(同棲?)二日目からヤりすぎて寝坊するなんていいのだろうか。翡翠は悩むけれど、一青は気にもしていないようだった。
確かに今日は何もないけれど。
と、言い訳がましく心の中で呟く。
けれど、呟いてから、また、はっとした。
「待って……あの。水上さん……は?」
確かに紅二は出かけている。けれど、昨日からこの家にはもう一人住人が増えたのだ。
「虎鉄さんなら、2階にいるけど? 基さんがもうすぐ来るから交代で荷物まとめに帰るって。さっきLINE入ってた」
驚くほどあっさりと一青が答えた。今日初めてこの家で朝を迎える客人の朝食の用意すらしないで寝コケていたなんて恥ずかしすぎる。と、いうよりも、二人して起きてこないとか、あからさま過ぎないだろうか。
いや。それよりも。だ。
「……あ……たかい」
まだ半覚醒の頭でそんなことを考える。
なんだか、とても安心する。温かくて、心地よくて、また意識は微睡に沈んでいきそうになった。
「……起きなきゃ……」
そう思ったのは、今日何か予定があったからではない。ただ、一青と紅二に朝からちゃんとしたものを食べてほしいと思っただけだ。
けれど、眠い。
頭の芯がぼーっとして、身体は泥のように重い。力が入らない。
もう少しだけ。
そう思った時だった。
「いいよ。まだ。疲れてるだろ?」
頭の上から聞こえてきた声に翡翠ははっとして身体を起こした。
「……あ……一青……」
その顔が見えた途端、ぐい。と、引き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。素肌の感触。翡翠も、一青も何も身に着けてはいない。
「おはよう。目覚めちゃった? 今日は紅二も龍臣さんのところから直接学校行くそうだから、急がなくていいよ?」
逃さない。と、意思表示のようにぎゅ。と、翡翠を抱きしめたまま一青が耳元に内緒話をするみたいに言う。吐息が耳にかかって、くすぐったくて、翡翠は、ん。と、小さく呟いて身を竦めた。
「ごめんな? また、無理させた」
一青の言葉に昨晩のことを思い出す。無理は。したかもしれない。もちろん(?)一度でなんて終わるはずがなくて、声が枯れて、涙でぐしゃぐしゃになって、もう出ないってくらい何度もイかされて、殆ど意識がなくなるまで抱かれた。
すごく、幸せだった。
「……や……じゃないから。いい」
だから、翡翠は正直にそう答えた。答えてから、猫の子のように一青の胸にすり寄る。
身体のあちこちに所有を主張するように情事の跡が残っている。あんまりの行為の激しさに腰から下が鉛みたいに重い。けれど、翡翠自身も、部屋も全部綺麗にされていて、どこも不快なところなんてなくて、どんなに大切に扱ってくれているのかわかって、もう、それだけで十分だと思えた。
「翡翠。俺を甘やかし過ぎ」
そんなことを言いながらも、長い指で翡翠の細い髪を梳いてから、ちゅ。と、髪にキスしてくれるから、甘やかしてるのは一青のほうだ。と、翡翠は思う。きっと、こんなに甘やかされ続けたら、ダメになってしまう。
その証拠にもう、このまま時間が止まればいいとか、ずっと二人だけの世界にいられたらいいなんて、少女漫画のような思考回路になっている。いわゆる恋愛脳というやつだ。少女漫画の主人公としては少し、いや、かなり、大幅にむさ苦しいのにも関わらず。である。先が思いやられた。
「あれ?」
一青の腕の中でその温かさに包まれながら、窓の方へ視線を送ると、ブラインドの隙間からは日差しが注いでいる。それが妙に眩しくて、翡翠は目を細めた。
「え? ……ちょっと待って?」
この窓からの朝日はこんな角度だっただろうか。ふと、思い至った疑問に時計を見上げる。
11時。
「ええっ!?」
がばっ。と、起き上がると背中に鈍い痛み。腰が抜けたみたいに動けない。
「翡翠?」
いきなり起き上がった翡翠に一青は驚いた顔をしていた。それから、背中を丸めて蹲った翡翠の顔を心配そうに覗きこんできた。
「え? 11時ってお昼じゃん。どうして起こしてくれなかったんだよ」
おかしいとは思っていた。
一青はかなり寝起きが悪い。仕事のある時は早い時間でも起きるには起きるのだが、目覚ましは常時4つ使っているらしい。放っておけばお昼を回っても起きてこないと、紅二が愚痴っていた。
もちろん。目覚ましが鳴ったなら、翡翠が起きないわけがない。一青と違って翡翠は音にはかなり敏感な方だ。けれど、翡翠が起きるような音は何もならなかった。
と、言うことは。だ。
一青が先に起きて、しかも寝起きの不機嫌な顔をしていない時点で今、何時頃なのかは想像がついたはずだ。
「や。よく寝てたし」
しれ。っと、言い放つ伴侶に力が抜けた。いくら紅二を学校に送り出す必要がないとはいえ、正式な同居(同棲?)二日目からヤりすぎて寝坊するなんていいのだろうか。翡翠は悩むけれど、一青は気にもしていないようだった。
確かに今日は何もないけれど。
と、言い訳がましく心の中で呟く。
けれど、呟いてから、また、はっとした。
「待って……あの。水上さん……は?」
確かに紅二は出かけている。けれど、昨日からこの家にはもう一人住人が増えたのだ。
「虎鉄さんなら、2階にいるけど? 基さんがもうすぐ来るから交代で荷物まとめに帰るって。さっきLINE入ってた」
驚くほどあっさりと一青が答えた。今日初めてこの家で朝を迎える客人の朝食の用意すらしないで寝コケていたなんて恥ずかしすぎる。と、いうよりも、二人して起きてこないとか、あからさま過ぎないだろうか。
いや。それよりも。だ。
11
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる