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短編集 【L'Oiseau bleu】

遠きに在るものでなく、直ぐ其処の日常に 11

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 もう、一青のソレは信じられないくらいに固くなっていた。そ。と、指先で触れるだけで、びく。と、反応を返す。ゴムは翡翠がつけて。とのお願いを断る理由も、断りたい意志ももなかったから、翡翠は恐る恐る下げたスウェットから現れたソレに、びくびくしながらも、壊れ物でも触るようにそっと触ったのだ。

 脈打つ拍動が聞こえるようだ。
 熱くて、男らしい。
 初めての時もその後も夢中過ぎてこんなふうにまじまじと見てはいない。イケメンってこんなところもイケメンなんだ。と、馬鹿みたいな感想が頭を過った。

「見過ぎ」

 ぼそり。と、一青が呟く。
 当たり前のことかもしれないのに、一青から見られているのは想定外だった。思わず顔が熱くなる。

「ズルいのは翡翠だろ? そんな顔して……。早くしてくんないとそのまま挿れちゃうよ?」

 それでもいい。と、言いそうになって口を噤む。別に一青は急かしているわけではないし、本気でそうしようと思っているわけでもない。多分、これは煽っているだけだ。
 翡翠は思う。
 中出しなんて慣れてる。嫌だと言っても、無駄だった。魔力を奪い取るには素肌での接触が絶対条件だからだ。翡翠自身に金を払っているわけではないから、嫌だと言って聞き入れられるわけがなかった。
 折角一青と二人きりでいられるというのに、また、余計な記憶が過ぎってしまった。
 振り払うような首を振ってコンドームの包装に力を込める。かさ。と、軽い音がして、しっとりと濡れたものが顔をのぞかせる。
 一青の視線が指先に集中しているのがわかる。
 その瞳に籠っているのが期待感なのだということもわかる。
 その行為がどんなに心地いいのか、嫌というほどに教え込まれた。たった数回でも、それまでのセックスの全部を塗り替えてしまうに十分だった。

 空気が入らないように押しつぶした先端を一青のソコに宛がってくるくる。と、薄い膜を被せる。両手が震えるけれど、失敗せずにできた。

「……できた。……よ?」

 ほっとして顔を見ると、ぐい。と、腕を引かれ、ソファに深く座っている一青の胸に抱き寄せられた。

「ん。ありがと。じゃ、この後も、できる?」

 熱い吐息に交じった濡れた声色に、とても恥ずかしい宣言をしたのだと思い至った。挿れられるために自分で慣らして、ゴムまでつけて、一青の上に跨っている。
 ちら。と、さっき自分がゴムをつけた一青自身を見ると、血管が浮き出て見えるほどに張り詰めている。堪らなくなって、それに片手を伸ばす。もう片方の手は一青の首に回して、両足に力を入れて膝立ちになって、そっと、自分自身のうしろにソレを宛がう。
 ふ。と、小さく吐息を吐いてから、ゆっくりと腰を静めていく。
 強い抵抗感。慣らしたといっても、一青のソレは決して小さくはない。と、いうよりもかなり大きい。受け入れるためにできていないその場所に招き入れるのは容易ではなかった。

「……う……ふ……ンん」

 大きな質量がゆっくりと、入り口を押し広げていく。痛い。というほどではないが、指とは比べ物にならない圧迫感に息が詰まる。ぎゅ。と、閉じた瞳の端、一筋。涙が零れた。

「翡翠。……っつ。大丈夫か? 無理しない……で?」

 頬を撫ぜる一青の指。ああ。涙を拭いてくれたのだと、頭の片隅で思う。閉じていた目を開けると、苦しそうに、痛みに耐えるみたいに、少し眉を寄せる一青の顔があった。

「……へ……いき」

 頬を撫でる手に頬擦りする。
 繋がりたい。
 と、心の底から思う。
 だから、翡翠は思い切って、ぐ。と、強く腰を勧めた。つぷん。と、何かが固い入り口を通り抜けた。
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