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短編集 【L'Oiseau bleu】

遠きに在るものでなく、直ぐ其処の日常に 10

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「ならすのは俺がしたいんだけど……?」

 ぴ。と、袋の端を切って、ローションを手に垂らしてから、翡翠は首を振る。

「ダメだよ。……だめ」

 主導権が自分にないと嫌なんて言わない。初めて時だって、その後だって全部一青がしてくれた。
 だから、これはそういうことではなくて、この行為が一方的なものではなくて、翡翠も望んでいることなのだと一青に伝えたかっただけだ。ただの意地だと思う。

「一青は……じっとしてて」

 ちゅ。と、また、一青の唇にキスをしてから、そっと自分自身のソコに触れてみる。自分でやると言ってはみたけれど、はじめての経験だった。ただ、やることは分かっていたから、思い切って狭い入り口に指先を滑り込ませた。
 軽い抵抗。痛みはない。けれど、異物感。セックスには慣れてはいるはずなのだが、力の抜き方が分からない。

「……ん。く」

 一青が待ってる。
 と、思うと焦る。自分でするなんて言ったくせに、もたついて一青が萎えてしまったらどうしよう。そんなことが頭を過って、翡翠は少し強引に指を奥まで押し込んだ。異物感が増す。ふと、奈落にいたときの感覚が一瞬だけ身体の奥を掠めた気がした。

「あ……」

 思わず強張る身体。首を振って打ち消そうとすると、す。と、一青の腕が翡翠の腰に回った。

「翡翠」

 じっと、見つめられて息が詰まる。

「大丈夫。ゆっくり」

 腰に片手を回して、少しだけ引き寄せて、一青が翡翠の着ていたTシャツの裾をたくし上げる。それから、それを口元へ持っていく。

「咥えてて?」

 言われるままに口に咥えると、露になった下腹部に一青の手が触れた。つつ。と、微かに触れる位置で指が動く。

「ほら。ここ。ゆっくりでいいから、指動かしてこらん」

 声に操られるように僅かに指を動かす。途端に、びり。と、神経に直接触れるような感覚が湧き上がる。

「あ……っん」

 思わず声が漏れた。その拍子に咥えていたシャツがぱさり。と、下へ落ちる。

「ん。あった? 上手。もっと、擦って」

 言われるまま指を動かす。さっきまでの異物感が嘘のようだ。滑り込んだ指とローションが立てる音が耳に届くけれど、止められない。
 そして、それを一青が見ていると分かっているのに、いや、見られているからこそ、やめられない。一青の自分を見つめる情欲を帯びた目が堪らなく心地いい。

「んっん。あ……や……これ……なに?」

 あまりに感じすぎて、足に力が入らなくなってしまった。額を一青の胸に預けるように前かがみになる。それでも、手が止められない。その手を手助けるるみたいに一青の手が重なる。それから、手を添えたままさらに激しく動かされた。

「エロ。気付いてる? 腰。揺れてる」

 翡翠の中指を飲み込んだままのソコの周りをつ。と、一青の指が撫でた。

「あっ。や。だめっ……あっん」

 翡翠の否定の声より先に、一青の指が侵入してきた。
 翡翠のより太くて長い指。先に挿っている翡翠の指を無視して自分勝手にいい場所を撫で上げられて、甘く蕩ける声が高く響いた。

「や。いっせ……そんなに……ああっ。しな……んっ」

 それでも、翡翠も気づいてはいた。そんなにしないでなんて言いながらも、自分の指を動かすのをやめることができない。
 もっと。
 もっと。
 気持ちよくなりたい。

「も。ほしい?」

 散々そこを掻き回して、ほぐれたのを確認して、納得したみたいに一青が言った。
 こくり。と、翡翠は素直に頷いた。
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