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短編集 【L'Oiseau bleu】

遠きに在るものでなく、直ぐ其処の日常に 8

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「翡翠? ごめん」

 少し慌てたような一青の声。それから、力強い腕が抱きしめてくれる。

「ホント、ごめん。泣かないで。意地悪しようと思ってたんじゃないんだ」

 そっとあやすように抱きしめた背を撫でて、一青が言う。

「最初。翡翠の意志も確認しないでシたから。知りたい。翡翠がどうしてほしいのか。
 言ったろ? 何でも知りたい。知っていても言葉が欲しい。って」

 一青の言葉に目を開けると、懇願するように一青の瞳が見つめていた。

「翡翠の。言葉で。全部。俺に許して?
 翡翠が受け入れてくれたら、俺は翡翠の全部。どんな翡翠でも全部。受け止める」

 真摯な囁きに翡翠の心の蟠りが溶けていく。一青が望むなら、望まれるまま全部あげたい。全部曝け出して全身が彼を求めているのだと伝えたい。
 けれど、だらしなく一青を求めてしまう自分を見せてしまってもいいんだろうか。そんなみっともない自分を一青は本当に受け入れてくれるんだろうか。

「……よ……く……なりたい」

 葛藤した末に出た声は情けないくらいに小さな声だった。それだけでも、心臓が壊れるんじゃないかと思えるほど、鼓動が早くなる。

「おれ……ん」

 言い訳のように続けようとした言葉はキスで塞がれた。噛みつくような激しい口づけ。すぐに舌が翡翠の咥内に入ってくる。
 熱い。
 水のエレメントを持つ一青のいつも少し冷たく心地いい表皮の。奥にある情熱。それが噴き出してきたようだった。

「ん。ふ……ぅ」

 穏やかで静かな夜だから、唾液の混ざり合うような小さな水音が響くようだ。一青の舌が上顎を撫ぜると、背筋を何かが這い上ってくる。それは、甘い痺れ。気持ちがいい。何も考えられなくなりそうだ。

「う……んん」

 そのとき引き戻されるみたいに一青の爪先が、覆い隠すもののなくなった赤く熟れた小さな胸の突起を掻いた。思わず、びく。と、腰が逃げ出す。けれど、もう片方の腕がそれを許さない。いつの間にか圧し掛かるように一青の脚とソファの間に挟まれて、逃げ場などなくなっていた。

「ん……んん。ふぅ」

 かりかり。と、何度もそこを刺激されて、鼻から漏れる声は止められない。その上さっきからゆるく立ち上がり始めた翡翠のそれに、すでに驚くほどの固さを持った一青のものがあたっていた。
 わざとなのかもしれない。いや、きっとわざとだ。でなければ、ただゆるゆると擦りつけているだけで、こんなに気持ちがいいわけがない。

「ん……ん。んっ」

 直接手で触れるよりもずっと高ぶっていくのが早い。それはきっと、一青が自分に欲情してくれているのがわかるからだ。普段はひやりと冷たい一青の肌が焼け付くように熱くなるのを知っているのは自分だけなのだと思うだけで、堪らない優越感と高揚感。もう、はしたないとかそんなことは考えられなくなっていた。
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