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短編集 【L'Oiseau bleu】
麒麟と九尾と一角と 25
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一瞬躊躇うように、言葉を探すように一青は間を置いた。店内のざわめきが大きくなった気がする。
「……親父ですか?」
遠慮がちに一青が言った。語勢とは裏腹に視線は真っすぐに田島を見ている。
「……嘘をついても仕方ないな」
ため息のような深い吐息を吐いて、田島は首を振った。
「直接に頼まれたわけではないよ。
ただ、私の耳に入るようにわざと新登録のゲートの情報を流したのは国政だろう。和臣さんがすぐに君に会えるように計らったのもおそらくは国政だ。その上で、和臣さんなら君たちが私に会えるようすぐに手配してくれるだろうし、会えなかったとしても、和臣さんがそばにいれば何も問題はない。そうでしょう?」
ちらり。と、和臣に視線を移す。和臣は曖昧に肩をすくめる。肯定とも否定ともつかない。
「人型ゲートの価値や相手の凶悪さを考えれば、あの黒服に護衛の任務は荷が重い。国政にそんなことが分からないわけがない。それでもあいつは敢えてあの黒服以外を君たちに近付かせなかった。
あいつは君たち以上に魔法庁のことを信じていない。
だから、同じゲートキーパーの私に託した」
一青に視線を移す。隻腕のゲートキーパーはゆったりと微笑んだ。
「国政は勝手なやつだ。人の意見なんか聞かない。まあ、それは、和臣さんも同じだが。私は、二人には借りもあるし……」
「御託はいい」
田島の言葉を遮るように、少し不機嫌そうな言葉が横から飛ぶ。和臣だ。せっかちだ。と、確か彼の伴侶は言っていた。腕を組んでイライラしたように指を動かしている。
「ゲートキーパーは、何のため存在するんだ」
和臣の言葉に田島はまた苦笑した。
和臣の性格はよく知っているのだろう。田島だけでなく、大泉医師も、国政も。
彼らの過去に何があったのか、翡翠はもちろん、一青もおそらくは知らない。ただ、彼らは共に前魔道大戦を経験した戦友で、その後の混乱期を支えてきたこの国の柱なのだ。
「ゲートキーパーはゲートを守るために存在する」
きっぱりと、田島は言い切った。躊躇は一切なかった。
その言葉に翡翠は『それはちがう』という小さな抵抗を感じたけれど、言葉には出さなかった。翡翠にとっては違ったとしても、田島にとっては紛れもなく真実だったのだろう。
「鏑木君。君はさっき『親父ですか』と、聞いた。確かに情報を流したはあいつだし、その情報で私はこの二人を選んだ。が。そうでなくても、結果は同じだったよ。
魔法法人『アイギス』は、君たちへの全面的サポートを約束する。困ったことがあったらなんでもいいなさい」
そう言って、田島は一青に手を差し出した。
その手を、その顔を、それから、翡翠の顔を順にじっと見てから、一青がその手を握る。
「よろしくお願いします」
一青との握手のあと、田島はなぜか少し躊躇ってから、翡翠の前にも手を差し出した。握った手は、とても温かかった。
「よし。交渉成立だな。それじゃ、飯にするか。海斗の奢りで」
さっきまでの不機嫌な顔が嘘のような笑顔で、和臣が言う。それから、カウンター席にいた虎徹と隼人を呼んで同じテーブルに座らせた。
「今日は無礼講だ。じゃんじゃん食えよ」
「……あなたが言うことじゃないでしょ」
ご機嫌な和臣とため息交じりの田島。それを見て妙に嬉しそうに笑う隼人。殆ど表情の変わらない虎徹。どこか安心したような一青と翡翠。年齢は違ってもこの後友人として、仲間として長く付き合っていく面々の、それが出会いの一日だった。
「……親父ですか?」
遠慮がちに一青が言った。語勢とは裏腹に視線は真っすぐに田島を見ている。
「……嘘をついても仕方ないな」
ため息のような深い吐息を吐いて、田島は首を振った。
「直接に頼まれたわけではないよ。
ただ、私の耳に入るようにわざと新登録のゲートの情報を流したのは国政だろう。和臣さんがすぐに君に会えるように計らったのもおそらくは国政だ。その上で、和臣さんなら君たちが私に会えるようすぐに手配してくれるだろうし、会えなかったとしても、和臣さんがそばにいれば何も問題はない。そうでしょう?」
ちらり。と、和臣に視線を移す。和臣は曖昧に肩をすくめる。肯定とも否定ともつかない。
「人型ゲートの価値や相手の凶悪さを考えれば、あの黒服に護衛の任務は荷が重い。国政にそんなことが分からないわけがない。それでもあいつは敢えてあの黒服以外を君たちに近付かせなかった。
あいつは君たち以上に魔法庁のことを信じていない。
だから、同じゲートキーパーの私に託した」
一青に視線を移す。隻腕のゲートキーパーはゆったりと微笑んだ。
「国政は勝手なやつだ。人の意見なんか聞かない。まあ、それは、和臣さんも同じだが。私は、二人には借りもあるし……」
「御託はいい」
田島の言葉を遮るように、少し不機嫌そうな言葉が横から飛ぶ。和臣だ。せっかちだ。と、確か彼の伴侶は言っていた。腕を組んでイライラしたように指を動かしている。
「ゲートキーパーは、何のため存在するんだ」
和臣の言葉に田島はまた苦笑した。
和臣の性格はよく知っているのだろう。田島だけでなく、大泉医師も、国政も。
彼らの過去に何があったのか、翡翠はもちろん、一青もおそらくは知らない。ただ、彼らは共に前魔道大戦を経験した戦友で、その後の混乱期を支えてきたこの国の柱なのだ。
「ゲートキーパーはゲートを守るために存在する」
きっぱりと、田島は言い切った。躊躇は一切なかった。
その言葉に翡翠は『それはちがう』という小さな抵抗を感じたけれど、言葉には出さなかった。翡翠にとっては違ったとしても、田島にとっては紛れもなく真実だったのだろう。
「鏑木君。君はさっき『親父ですか』と、聞いた。確かに情報を流したはあいつだし、その情報で私はこの二人を選んだ。が。そうでなくても、結果は同じだったよ。
魔法法人『アイギス』は、君たちへの全面的サポートを約束する。困ったことがあったらなんでもいいなさい」
そう言って、田島は一青に手を差し出した。
その手を、その顔を、それから、翡翠の顔を順にじっと見てから、一青がその手を握る。
「よろしくお願いします」
一青との握手のあと、田島はなぜか少し躊躇ってから、翡翠の前にも手を差し出した。握った手は、とても温かかった。
「よし。交渉成立だな。それじゃ、飯にするか。海斗の奢りで」
さっきまでの不機嫌な顔が嘘のような笑顔で、和臣が言う。それから、カウンター席にいた虎徹と隼人を呼んで同じテーブルに座らせた。
「今日は無礼講だ。じゃんじゃん食えよ」
「……あなたが言うことじゃないでしょ」
ご機嫌な和臣とため息交じりの田島。それを見て妙に嬉しそうに笑う隼人。殆ど表情の変わらない虎徹。どこか安心したような一青と翡翠。年齢は違ってもこの後友人として、仲間として長く付き合っていく面々の、それが出会いの一日だった。
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