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短編集 【L'Oiseau bleu】
麒麟と九尾と一角と 24
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「ああ。そうか。わかった。
ここに呼ばれた意味は理解しているつもりだ。君たちが望むなら、魔法法人『アイギス』は、君たちの全面的なサポートを約束する」
田島は優しい言葉で翡翠の声を遮って、続けた。
「鏑木君。魔法庁の諜報官では人型ゲートの警護は荷が重い。そこにいる二人を護衛につけよう。実力は……まあ、外を見てもらえばわかるだろう」
その言葉に翡翠はお顔をあげて田島を見た。
「ああ。そう言えば、虎鉄は鏑木君とは知った仲だったな」
そう言って視線を向けた先、碧色の人物は翡翠を見て、す。と、頭を下げた。
「はい。高校の後輩です」
低く落ち着いた声で、虎鉄。と、呼ばれた青年が答える。片手で眼鏡を上げる仕草は少し神経質そうだが、その後のぎこちない笑顔は不器用だけれど、翡翠を安心させてくれようとしているのだと分かった。きっと、優しい人なのだろう。
「なら、ちょうどいい。鏑木君の知り合いなら少しは安心できるだろう」
「自分は水上虎徹(みなかみこてつ)と言います。お役に立てたら幸いです」
カウンターの丸椅子から立ち上がって、彼は頭を下げる。背筋がぴん。と、伸びて美しいお辞儀に思わず翡翠も背筋を伸ばした。
「それから、もう一人は……」
「基隼人(もといはやと)だよ。よろしく」
屈託ない笑顔を浮かべて、ぴょん。と、椅子から立ち上がって、すたすた。と、歩み寄ったと思ったら、彼は顔を突き出して翡翠の顔をじっと見つめた。観察されている。と、思う。けれど、それも一瞬で、にっ。と笑って、翡翠の前に手を突き出した。
「可愛いコ好きだよ。俺が守ってあげるね」
呆気にとられている翡翠の手を掴んでぶんぶん。と、握手してくる。
「隼人。初対面の人を脅かすんじゃない。かたまってるだろう」
眉間に手を置いてため息交じりに田島が言う。
「えー。初対面じゃないし。ね?」
翡翠を見つめる彼の虹彩はまるで猫のようだった。そこで、気付く。悪意のない好奇心。屈託ない興味。そんな彼の視線には覚えがあった。
「ジェラート屋の……」
呟くと、彼は唇に手を当てて、し。というポーズをとった。
どうして、とは思う。和臣からの知らせが入る前に何故翡翠に接触できたのか。わからないけれど、それが悪意や敵意からではないと思う。それを隠して信頼されるには田島は少々相手が悪い。田島はそんなものが見抜けない上に、最重要人物の護衛を任せてしまうような間抜けではないと思えた。
それ以上に、目の前で手を握っている青年が自分に寄せている感情がマイナス方向のものだとはとても思えなかった。それはただの勘だ。散々人に騙され続けて、まだ信じるのかと自答するけれど、それでもなお、信じたくなるような笑顔の持ち主が基隼人だった。
「ありがとうございます」
そこまで黙って聞いていた一青が田島に頭を下げた。
ここに呼ばれた意味は理解しているつもりだ。君たちが望むなら、魔法法人『アイギス』は、君たちの全面的なサポートを約束する」
田島は優しい言葉で翡翠の声を遮って、続けた。
「鏑木君。魔法庁の諜報官では人型ゲートの警護は荷が重い。そこにいる二人を護衛につけよう。実力は……まあ、外を見てもらえばわかるだろう」
その言葉に翡翠はお顔をあげて田島を見た。
「ああ。そう言えば、虎鉄は鏑木君とは知った仲だったな」
そう言って視線を向けた先、碧色の人物は翡翠を見て、す。と、頭を下げた。
「はい。高校の後輩です」
低く落ち着いた声で、虎鉄。と、呼ばれた青年が答える。片手で眼鏡を上げる仕草は少し神経質そうだが、その後のぎこちない笑顔は不器用だけれど、翡翠を安心させてくれようとしているのだと分かった。きっと、優しい人なのだろう。
「なら、ちょうどいい。鏑木君の知り合いなら少しは安心できるだろう」
「自分は水上虎徹(みなかみこてつ)と言います。お役に立てたら幸いです」
カウンターの丸椅子から立ち上がって、彼は頭を下げる。背筋がぴん。と、伸びて美しいお辞儀に思わず翡翠も背筋を伸ばした。
「それから、もう一人は……」
「基隼人(もといはやと)だよ。よろしく」
屈託ない笑顔を浮かべて、ぴょん。と、椅子から立ち上がって、すたすた。と、歩み寄ったと思ったら、彼は顔を突き出して翡翠の顔をじっと見つめた。観察されている。と、思う。けれど、それも一瞬で、にっ。と笑って、翡翠の前に手を突き出した。
「可愛いコ好きだよ。俺が守ってあげるね」
呆気にとられている翡翠の手を掴んでぶんぶん。と、握手してくる。
「隼人。初対面の人を脅かすんじゃない。かたまってるだろう」
眉間に手を置いてため息交じりに田島が言う。
「えー。初対面じゃないし。ね?」
翡翠を見つめる彼の虹彩はまるで猫のようだった。そこで、気付く。悪意のない好奇心。屈託ない興味。そんな彼の視線には覚えがあった。
「ジェラート屋の……」
呟くと、彼は唇に手を当てて、し。というポーズをとった。
どうして、とは思う。和臣からの知らせが入る前に何故翡翠に接触できたのか。わからないけれど、それが悪意や敵意からではないと思う。それを隠して信頼されるには田島は少々相手が悪い。田島はそんなものが見抜けない上に、最重要人物の護衛を任せてしまうような間抜けではないと思えた。
それ以上に、目の前で手を握っている青年が自分に寄せている感情がマイナス方向のものだとはとても思えなかった。それはただの勘だ。散々人に騙され続けて、まだ信じるのかと自答するけれど、それでもなお、信じたくなるような笑顔の持ち主が基隼人だった。
「ありがとうございます」
そこまで黙って聞いていた一青が田島に頭を下げた。
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