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短編集 【L'Oiseau bleu】
麒麟と九尾と一角と 22
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数十秒。雨音のような音は響いていたが、次第に小さくなり消える。それと入れ違いになるように、ミラノの扉が開いた。
からん。
と、ドアベルの音。
開いたドアのところには50代くらいの男性が立っていた。見覚えがある。昨日、ネットで調べたときに画像が載っていた。仕立てのいいスーツを着こなす身体はがっしりとしていて一目で彼の積んだ研鑽がどれほどのものなのか想像がつく。短髪の髪は黒髪と赤髪が半々ほどのメッシュのようになっていて、まるで燃えているように見えた。意志強そうな瞳は赤。強面ではあるが表情は柔らかい。しかし、最も目を引くのは左の顎の下あたりから首に広がる大きな傷跡だ。そして、そちら側のスーツの袖は盛り上がることなく頼りなげに揺れていて、腕は肩から先の袖の中にあるはずの腕がないのが一目でわかる。それでも、彼からはそれを隠そうとするような素振りは全く感じられなかった。
いや。
それよりも。
と、翡翠は思う。
微かに彼の魔光の色が見える。一青や、国政の時とは違ってはっきりとは見えないが火が見える。燃え上がる赤い炎だ。
「海斗」
店内を見回しているその人物・田島海斗に和臣は声をかけた。肩手をあげてひらひらと振って見せる。
「和臣さん」
和臣を見つけて、田島は笑顔を浮かべた。
彼がこちらに向かって歩き始めると、扉の外でそれを待っていた男性が二人。彼の後に従って姿を見せた。
一人は、濃い碧色の髪と瞳。田島より背が高く、かなり鍛えこまれたと思しき身体の持ち主ながら、容貌は知的な黒縁の眼鏡の向こうの目は鋭い。表情は無表情というより淡々としていて、少し神経質そうな雰囲気にぴったりのきっちりしたスーツ姿だ。まさにビジネスマン。といった印象を受ける。
もう一人は、対照的にゆったりとしたピンクのシャツにぴったりとした黒のパンツ。とラフな格好だった。全く混じりけのない白髪。と、言っても、老人ではない。おそらくは、20代半ば。長い髪を背中で三つ編みにしている。驚くほどの美形で男性と思ったのだが、自信がなくなる。身長はおそらく170センチ台半ばで、女性なら高めだが華奢な体つきは女性だと言われたら納得できてしまう。アクアマリンのような色素の薄い青い瞳を見ると、さっきの水のエレメントの力はこの人物のものだったのではないかと思われた。
「まったく。一時間で来いなんて、無茶言わんでください」
テーブル席まで歩いてきて、何も聞かずに田島は和臣の隣に座る。同席の許可を求めないのは気安い間柄を示しているようだった。
「できないやつには言わん」
ひらひら。と、手を振って、和臣が答える。
田島の後ろから入ってきた二人のうち、碧色の方がテーブル席ではなく、その席から一番近いカウンター席の丸椅子をくるり。と、回して白髪の方に座るように促す。白髪の方は当たり前のように微笑んでその椅子に座った。それが二人の関係性を示しているようでなんとなく観察していると、翡翠の視線に気づいた白髪の方が首を傾げるように軽く会釈をして、優雅にという言葉がぴったりとくるような笑顔を浮かべた。
思わず会釈を返す。けれど、彼(?)のように優雅に笑えてはいなかっただろうと、翡翠は思った。
「鏑木君は久しぶりだ。大きくなって。アレに似てきたな」
和臣から一青に視線を移して田島が言う。アレ。という言葉に、一青は苦笑いを浮かべてぺこり。と、頭を下げた。アレ。とは恐らく国政のことだろう。
「それから……君が……ゲート」
彼は最後に翡翠を見て言った。
「風。だな。なるほど。鏑木君とは相性がよさそうだ。それにしても……でかい」
翡翠にはゲートの存在を隠すための識覚阻害の魔法がかけられている。正確には魔法を付与した魔符を肌身離さず持っている。だから、普通であれば翡翠の中にゲートがあることに気付くものはいない。
けれど、相手がゲートキーパーなら話は別だ。翡翠は田島が店内に入って来てすぐに彼の中のゲートキーパーの力が見えた。一青や国政と違って適性が弱いからはっきりとは見えなかったけれど、ただゲートキーパーでないものの魔光を捉えたのとはまったく違う感覚があったのは間違いない。それと同じように、ゲートキーパーからも翡翠の中のゲートが見えているはずだ。レベルの高い識覚阻害でもゲートとゲートキーパーの間の特別な共感力を攪乱することはできても、完全に消すことはできない。
だから、田島が翡翠のゲートのことを言い当てたことに驚きはなかった。特に彼は人型ゲートの元契約者だ。翡翠以上に人型ゲートのことは知っているはずだ。
からん。
と、ドアベルの音。
開いたドアのところには50代くらいの男性が立っていた。見覚えがある。昨日、ネットで調べたときに画像が載っていた。仕立てのいいスーツを着こなす身体はがっしりとしていて一目で彼の積んだ研鑽がどれほどのものなのか想像がつく。短髪の髪は黒髪と赤髪が半々ほどのメッシュのようになっていて、まるで燃えているように見えた。意志強そうな瞳は赤。強面ではあるが表情は柔らかい。しかし、最も目を引くのは左の顎の下あたりから首に広がる大きな傷跡だ。そして、そちら側のスーツの袖は盛り上がることなく頼りなげに揺れていて、腕は肩から先の袖の中にあるはずの腕がないのが一目でわかる。それでも、彼からはそれを隠そうとするような素振りは全く感じられなかった。
いや。
それよりも。
と、翡翠は思う。
微かに彼の魔光の色が見える。一青や、国政の時とは違ってはっきりとは見えないが火が見える。燃え上がる赤い炎だ。
「海斗」
店内を見回しているその人物・田島海斗に和臣は声をかけた。肩手をあげてひらひらと振って見せる。
「和臣さん」
和臣を見つけて、田島は笑顔を浮かべた。
彼がこちらに向かって歩き始めると、扉の外でそれを待っていた男性が二人。彼の後に従って姿を見せた。
一人は、濃い碧色の髪と瞳。田島より背が高く、かなり鍛えこまれたと思しき身体の持ち主ながら、容貌は知的な黒縁の眼鏡の向こうの目は鋭い。表情は無表情というより淡々としていて、少し神経質そうな雰囲気にぴったりのきっちりしたスーツ姿だ。まさにビジネスマン。といった印象を受ける。
もう一人は、対照的にゆったりとしたピンクのシャツにぴったりとした黒のパンツ。とラフな格好だった。全く混じりけのない白髪。と、言っても、老人ではない。おそらくは、20代半ば。長い髪を背中で三つ編みにしている。驚くほどの美形で男性と思ったのだが、自信がなくなる。身長はおそらく170センチ台半ばで、女性なら高めだが華奢な体つきは女性だと言われたら納得できてしまう。アクアマリンのような色素の薄い青い瞳を見ると、さっきの水のエレメントの力はこの人物のものだったのではないかと思われた。
「まったく。一時間で来いなんて、無茶言わんでください」
テーブル席まで歩いてきて、何も聞かずに田島は和臣の隣に座る。同席の許可を求めないのは気安い間柄を示しているようだった。
「できないやつには言わん」
ひらひら。と、手を振って、和臣が答える。
田島の後ろから入ってきた二人のうち、碧色の方がテーブル席ではなく、その席から一番近いカウンター席の丸椅子をくるり。と、回して白髪の方に座るように促す。白髪の方は当たり前のように微笑んでその椅子に座った。それが二人の関係性を示しているようでなんとなく観察していると、翡翠の視線に気づいた白髪の方が首を傾げるように軽く会釈をして、優雅にという言葉がぴったりとくるような笑顔を浮かべた。
思わず会釈を返す。けれど、彼(?)のように優雅に笑えてはいなかっただろうと、翡翠は思った。
「鏑木君は久しぶりだ。大きくなって。アレに似てきたな」
和臣から一青に視線を移して田島が言う。アレ。という言葉に、一青は苦笑いを浮かべてぺこり。と、頭を下げた。アレ。とは恐らく国政のことだろう。
「それから……君が……ゲート」
彼は最後に翡翠を見て言った。
「風。だな。なるほど。鏑木君とは相性がよさそうだ。それにしても……でかい」
翡翠にはゲートの存在を隠すための識覚阻害の魔法がかけられている。正確には魔法を付与した魔符を肌身離さず持っている。だから、普通であれば翡翠の中にゲートがあることに気付くものはいない。
けれど、相手がゲートキーパーなら話は別だ。翡翠は田島が店内に入って来てすぐに彼の中のゲートキーパーの力が見えた。一青や国政と違って適性が弱いからはっきりとは見えなかったけれど、ただゲートキーパーでないものの魔光を捉えたのとはまったく違う感覚があったのは間違いない。それと同じように、ゲートキーパーからも翡翠の中のゲートが見えているはずだ。レベルの高い識覚阻害でもゲートとゲートキーパーの間の特別な共感力を攪乱することはできても、完全に消すことはできない。
だから、田島が翡翠のゲートのことを言い当てたことに驚きはなかった。特に彼は人型ゲートの元契約者だ。翡翠以上に人型ゲートのことは知っているはずだ。
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