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短編集 【L'Oiseau bleu】

麒麟と九尾と一角と 16

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「それで? 籍はいつ入れるんだ?」

 診療用の簡易ベッドにどか。と、座って、和臣が言う。一瞬、大泉医師は何か文句を言おうとしたのか口を開きかけてやめた。かわりに諦めたように小さく息を吐く。

「それは、紅二が成人してからにしようかと思ってる」

 翡翠に代わって一青が答えると、和臣は苦笑した。

「相変わらず真面目なヤツ。別に籍入れたって紅二おいて出てくわけじゃねえだろ? いつか。なんて言ってると、国政と緋色みたいに『どうでもよくなった』とか言って、籍入れずに流されんぞ?」

 今はもういない母親の話に、一青がどんな気持ちになるだろうと一瞬、翡翠は心配になった。けれど、懐かしそうに緋色の話をする和臣を見る一青は嬉しそうだった。だから、気付く。一青の記憶のどの部分が彼を傷つけるのか、和臣はちゃんと理解してくれているのだ。そのくらい、彼らのつながりは強い。そのつながりが家族。ということなのだろう。

「って。ま、いいか。お前らの自由だな」

「ありがと。でも、籍入れるときは、和臣さんとシゲさんに立会人になってほしい」

 まっすぐ顔を見て頭を下がる一青に、今更ながら膝に抱えられたままだということを思い出して、翡翠は恥ずかしくなった。大体、籍を入れようという相手の親代わりという人に会うという、人生でも有数の大事な場面で抱っこされているというのは、どうだろう。普通に考えたら、印象最悪ではないだろうか。

「おお。任せとけ」

 翡翠の心配を他所に、そこのところに関して、和臣が気にしている様子はない。びっくりするくらいにナチュラルにスルーされていたから、翡翠すら思わず忘れかけていたくらいだ。紹介された人物が歴史の教科書に載っているような人物だった驚きを差し引いても、そろそろこのみっともない状況からは抜け出したい。

「あの。そろそろ。下ろしてほし……」

 だから、翡翠は恐る恐る提案してみた。

「……つーか。茂之、外にいた黒いの。あんなもん。病院内うろつかせるんじゃねえよ」

 それなのに、まるでわざとそうしたかのように完全に翡翠の提案はスルーされる結果となった。口を開いたまま話を途中で遮られた翡翠の顔を見て、一青は苦笑してから『ほらな』と、言う顔をした。
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