上 下
135 / 174
短編集 【L'Oiseau bleu】

麒麟と九尾と一角と 9

しおりを挟む
「翡翠」

 そ。と、肩を抱かれて、翡翠ははっ。っと、我に返った。

「一青」

 名前を呼ぶ声に答えるように、一青が抱き寄せてくれた。鼻腔を擽る爽やかな香り。一青の匂いだ。

「シゲさん。それって、翡翠の身体に悪影響とかあんの?」

 いつの間にか冷たくなって震える手をしっかりと握って、守るように翡翠を腕に収めたまま、一青が大泉医師に質問した。

「現在は問題はない。人工とはいえ、子宮は実在する人物から抽出した細胞を使って作ったクローンだ。しかも、おそらくは翡翠に近しい血縁者の細胞で作られている。今さら拒絶反応がでることはない。
 問題は、人工子宮がゲートの存在に耐えうるかということだが……今は安定しているということしか言えん。これも、完全な人造ではないという一点においてのみ、安定していられると信じるしかない。
 そもそも。ゲートとその宿主の関係は謎の部分が多い。その存在が希少すぎる上に、個体差も激しい。さらにほかに一人たりとも記録が残っていない男性型ゲートとあっては……軽率に問題がないなどとは言えんよ」

 またしても、慎重に言葉を選びながら大泉医師は答えた。
 翡翠を気遣いながらも、安易に無責任な慰めの言葉を選ばないことが彼の誠実さであり、医師としての矜持なのだと思う。しかし、心配してくれる一青には申し訳ないのだが、翡翠にとってはそんな身体上のことは殆どどうでもいいことだった。

「だから、これからも主治医として、君を見守らせてほしい。少しでも問題があったら、すぐに対処できるように。不自由な思いをさせることにはなるかもしれんが、定期的に受診して……」

「俺の身体のことは……お任せします。全部、大泉先生に任せるって、もう、決めてます」

 大泉の言葉を遮るように翡翠が言った。
 言葉通り、医学上のことは大泉医師に任せると決めていた。だから、もし、翡翠の中にあるゲートや、あるはずのない臓器が翡翠を損なうことがあっても、それは仕方のないことだと思う。どんなに医学が発達しても病気で亡くなる人がいなくなることはない。それと同じことだ。

「ゲートなんてものが、自分の中に開いてしまったときから、もう、覚悟はできてます。……や。覚悟させられました。
 ゲートのことがなくても、自分人生とか異常なのも理解したし、スレイヤーをしていれば、一般の人よりも死は身近にあります。だから、今更、長生きできないかもしれないとか。心配はしてないです」

 少しばかり人よりも死ぬ確率が高いと言われることなど、翡翠にとっては別にどうでもいいことだった。

「でも……もし……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:25,330pt お気に入り:1,517

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:267

マッチョ兄貴調教

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:603pt お気に入り:60

僕の調教監禁生活。

BL / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:235

ストーカーさんに攫われました。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

鳴花

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:981pt お気に入り:5

魔法の華~転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ?~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:48

魔王メーカー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:11

毒使い【第一部完結】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:356pt お気に入り:14

処理中です...