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短編集 【L'Oiseau bleu】

麒麟と九尾と一角と 7

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「あー。申し訳ないが、そろそろいいか?」

 こほん。と、ひとつ。わざとらしく咳払いをしてから、大泉医師は声を上げた。
 もちろん、彼の存在を忘れていたわけではない。きっと、一青にとって、大泉医師は目の前で恋人の方を気遣ってもいい相手なのだ。翡翠はというと恥ずかしくはあるけれど、一人で抱え込んではいけないと言ってくれたのは大泉医師だったから、翡翠の心の不安を癒してくれる一青との時間を蔑ろにしたくはなかった。

「あ。シゲさんいたんだ」

 分かっていたくせにわざとらしくそんなことを言って、一青は立ち上がり大泉医師を振り返った。それから、少し離れた場所にあった椅子を引っ張って来て、翡翠の隣に座る。

「これから、翡翠君診断結果を説明するんだが?」

 にやり。と、笑って、大泉医師は意地悪く言った。
 翡翠と一青は書面上ではまだ姻戚関係はない。だから、診断結果を一緒に聞く権利はない。

「だって、翡翠。どうする?」

 けれど、ゲートとゲートキーパーの契約は通常の書面上の婚姻関係よりもずっと強い意味を持っているのは、翡翠だけでなく一青も、もちろん、大泉医師も分かっているはずだ。

「ん。一緒に聞いてほしい」

 一青は翡翠の身体や精神のことを知る権利がある。と、翡翠は思っていた。
 というよりも、知っていてほしい。もともと人型ゲートの身体については未知の事象が多い。通常の女性型ゲートでもそうなのだから、翡翠のようなイレギュラーな存在は何故存在できているのかすら分かっていないのだ。そんな不安定な状態を独りで知って独りで抱えるのは、正直怖かった。

「ん。聞くよ」

 そんな翡翠の気持ちが分かったように、一青が手を握ってくれる。
 それを待っていたように、大泉医師は話し始めた。

「わかっていたことだとは思うのだが……検査の結果は殆ど別人と言っていいほどだった。翡翠自身の魔光の力は封じられていたし、電子機器を誤作動させる類の呪いもかかっていたからな。
 そうだな……何から話すべきか」

 腕を組んで大袈裟に考える仕草をして、大泉が言った。

「まず。身体には深刻な疾患や障害はない。ただ、軽度の貧血と軽微ではあるが、栄養不足だな。栄養と休養をしっかりとること。わかったかね?」

 大泉の言葉に翡翠は頷いた。
 奈落にいたときは、食べ物が美味いと感じたことはなかった。だから、必要以上に食べることはなかったし、殆ど無理矢理口に押し込まれるものを飲み込んでいただけだ。でも、昨夜一青と紅二と一緒に食べた食事は全く違っていた。きっと、二人と暮らしていれば大泉医師の言葉に従うことは簡単だろう。

「次は魔光の検査だが……。こちらは前回の検査とは大きく違っている。6L剣型なのは間違いない。潜在量はA。と、言っても、翡翠は未だゲートから零れる魔光を帯びているから正確には測れていないが、Kより低いことはないだろう。魔導士としても申し分ない」

 パソコンを操作して内容を確認しながら、大泉医師は続ける。翡翠も一青もくちをはさまずに聞いていた。

「ここまでは……まあ想定の範囲内だし、治療が必要ということもない。後でデータを渡すが、興味があるなら軽く目を通しておいてくれればいい。
 一番の問題なのだが……いや、これを問題と言うのか……」

 普段は歯切れのよい物言いをする大泉医師がはじめて口籠る。よほど、言い辛いことなのか、深刻な問題なのだろうか。
 不安になる翡翠の手を一青が強く握る。

「シゲさん。言いたいことがあるなら……」

 翡翠の心の揺らぎを感じ取ったのだろう。一青が少し非難めいた口調になる。

「いや、すまない。こんな言い方は不安を煽るだけだったな」

 一青の言葉を遮るように大泉医師が片手を上げた。それから、言葉を選ぶように一瞬考えてから、結局息を吐いて言う。
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