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短編集 【L'Oiseau bleu】

穢れない赤い瞳を持つ人たち 6

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「……ありがとう」

 翡翠が話し終わると、一青は手を握ったまま翡翠の肩に頭を預けて言った。声にはどこかほっとしたような響きがあった。もしかしたら、翡翠がどう思っているのか一青も不安だったのかと思うと、なんだか彼がまた少し近くに感じられて嬉しい。もっと、安心してほしくて肩に乗った頭をそっと抱くと、その額が子供みたいにすり寄ってきた。

 可愛いのは。一青じゃないか。

 声に出さずに呟く。落ち着いているけれど、一青は翡翠よりも4つも年下で、まだ高校を卒業したばかりなのだ。そんなことに気付かせないくらいに甘やかしてくれていたのだと思うと、もっと大切にしたいと想いが湧き上がってきた。

「ゲートを守って、適切に運用することを目的に設立された魔法法人があるんだ」

 翡翠に頭を預けたまま一青が言った。

「ゲートキーパーも多数所属してる。寄付金で成り立ってる非営利団体で魔法庁の認可も受けているから、翡翠の護衛を頼むなら、彼らがいい。
 もちろん、非営利団体とはいえこちらもある程度は向こうの意向に沿うように行動しなければいけなくはなる。でも、代表の田島海斗さんもゲートキーパーなんだ。しかも、人型ゲート契約者だった人だ。何度か会ったことあるけど、信頼できる。翡翠が良ければ、一度会ってみないか?」

「……いいけど。人型ゲートの契約者に田島なんて人……いたっけ?」

 魔法庁に登録されている人型ゲートは基本的には公表されている。公表して周知することで彼女らを守っているのだ。だから、その伴侶も調べればすぐに名前を知ることができた。

「ん。だから、だった。って言っただろ」

 少し名残惜しそうに翡翠の肩から顔をあげて一青は言った。

「前の魔道大戦のとき、伴侶のゲートを亡くしてる」

 魔導暦298年。異形に占拠され300年以上沈黙していた北海道の北に位置する島から、突如異形の大群が北海道に向かって進行を始めた。圧倒的な物量に北方監視ラインはあっけなく突破され、道北の一部が異界化てしまった。それを奪還するために組織された自衛軍管轄のスレイヤー部隊と異形との戦闘。それが第三次魔道大戦。自衛軍の辛勝で大戦は終結したが、多くの犠牲者を出した。
 その最も大きな犠牲と、いわれているのが人型ゲート2名と、そのゲートキーパー1名だ。

「だから、田島さんはゲートを守りたいという気持ちが誰よりも強い。きっと、俺たちの力になってくれる」

 まるで自分自身の辛い過去を話すかのように一青は言った。何があったとしても、ゲートがゲートキーパーを信頼し続ける気持ちがほかの人にはわからないように、きっと、伴侶のゲートを亡くす気持ちなんて同じゲートキーパーにすら想像できないだろう。けれど、人型ゲートを伴侶に持つ一青になら想像がついたのかもしれないと思う。

「会ってみたい」

 だから、翡翠は答えた。護衛のことがなかったとしても、会ってみたいと思う。会って、聞いてみたいこともあった。

「ん。アポとってみる。ゲートのこと。話すことになるけど大丈夫だな?」

 頷くと一青も頷いた。

「……一青」

 うわべだけ綺麗な言葉で飾って一時恋人みたいに振舞うのは簡単だ。そんな張りぼての舞台装置のような恋愛すら使い捨てのATMか玩具扱いされていた翡翠はしたことがなかった。
 けれど、一青は全部、言葉にしてくれた。これから一緒に生活していくための話をするのが、翡翠は嬉しかった。それがたとえ難問だったとしても、話し合って二人で答えを出していく作業は、一緒に生きるという約束をしているようで幸せだとすら思える。
 だから、もう一つ話しておきたいことがあって、翡翠は一青の名を呼んだのだ。

「ん?」

 翡翠の言葉に一青がその顔を見つめた時だった。
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