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短編集 【L'Oiseau bleu】

穢れない赤い瞳を持つ人たち 5

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「魔法庁のこととか。俺にはよくわからない。一青は多分色々調べたり、信じられる人から聞いた話だから納得してるだろうけど、俺にとっては伝聞の伝聞だから鵜呑みにしたくない。それについては、これからちゃんと知っていこうと思う」

 一青の誠実さには嘘や誤魔化しで返すことはできない。だから、正直に思っている通り、翡翠は言った。
 フロンティアラインの言うなりになって何も知ろうとせず利用さた過去を繰り返したくない。子供だった自分は言うなりになるしかなかったかもしれないけれど、今は違う。
 こんな気持ちになれるなんて自分自身でも驚く。今までの自分は流されるのも、飼われるのも当たり前で諦めていたし、少しでも痛くないように苦しくないようにと考えることしかできなかった。おそらくそれは幼少期にかけられた呪いのせいなのだろう。だから呪いが解けた今はもう少しだけ強く、賢くなりたいと思った。

「誤解してほしくないけど。一青を信じられないわけじゃないよ? ただ、ずっと、俺は流されるばかりだったから。それでこんな体になって……奈落みたいな場所まで堕ちた。だから、俺はちゃんと自分で見て判断したい」

 ただ、それは、一青に従いたくないという意味ではない。一青が信じているものを自分も同じように理解したいし、理解したうえで従いたいと思う。
 納得できているのかそうでないのかは分からないけれど、一青は言葉を挟まずに聞いてくれた。真剣で、真っすぐで、そして少し不安そうな表情だった。

「俺は、佐藤さんと鈴木さんにも別にわだかまりも不満もない。正直、俺みたいなのに毎日張り付かなきゃいけなくて、申し訳ないと思うし、感謝してるってほどでもないけど、勝手にすればいいって思ってる。ちらちら視界に入るのは……確かに鬱陶しい」

 毎日、背後霊みたいにずっとついて回られるのにはうんざりするけれど、同時に仕方ないのだと理解もしている。ゲートの価値を考えれば当たり前の話だ。

「……ゲートだから全部諦めるのは嫌だし、金銭で縛られるのはごめんだ。
 今まで、俺には大事なものなんて何もなかったから、どうでもよかったけど。ほんの数日なのに。すごく大切なものがたくさんできたから、国を守るために戦えとか力を差し出せとかそういうのはピンと来ないけど、大事な人を守るためなら、魔法庁に利用されてもいいと思う。
 でも、命を賭ける選択を金銭で縛られたり、投げ出して誰かに委ねることは。もう、しない」

 気持ちが揺らがないと言ったら嘘だ。
 怖いと思う。
 でも、言葉にすると、その選択はすとん。と、自分の中の深いところに落ちて、当たり前の真実になった気がした。

「だから。俺も、一青の意見に賛成。俺の中のゲートに払われる給料なんていらない。いつかちゃんと、スレイヤーに復帰するまでは、魔符とか魔法薬とか作るんでもなんでもいい。自分にできることをするよ」

 言いたいことが言えて、翡翠は少しだけほっとして笑う。こんなふうに自分の気持ちをちゃんと話すことも、聞いてもらうこともあまり経験がなかったから、うまく話せているかはわからなかったけれど、一人ぼっちで流されてばかりいた翡翠にとって、拙くても自分の言葉で話せたことは大きな前進だと思った。
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