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The Ugly Duckling

Epiloge Not swan,But kingfisher 16/16

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「その……静さんのこととか……めちゃくちゃ気になるし。
昨日だって……一青の高校の先輩だって人……病院の中で話してるの聞いちゃって。その……一青に抱かれたいとか言ってるの……すげー嫌で。
 さっきだって廊下歩いてたら看護師さんがみんな一青のこと振り返るし……」

 はじめはただ、話を逸らせればと思っていたのに、言っているうちになんだか心配になってくる。ほんの数日でこんなに幾つもヤキモチを焼いているのに、この先ずっと一緒にいるなんて果たして身がもつのだろうか。

「え? は? 振り返ってたのは翡翠を見てたんだろ?」

 けれど、翡翠の心配を他所に、一青は別のところで食いついてきた。いきなり、肩を掴まれて、ぐるん。と、一青の方向を向かせられる。

「え? 違うって。若い女の子だよ? 第一診療室出てすぐのところで……」

 頬を染めて一青の横を通り過ぎた後、振り返って背中を見送る女性に一青は気づいていなかったのだろうか。いつもいつも同じようなことがあるから、気になどしていられないということだろうか。

「や。それじゃなくて、インターンの若い医者とか、ごつい男の看護師とか。松葉杖ついた入院患者だって、口開けて翡翠の顔見てたぞ」

 翡翠の顔を覗き込んで、少しだけ不機嫌そうな表情で一青が返す。
 インターンの医者にすれ違ったのは覚えているし、ごつい看護師が二人が通り過ぎた後、廊下に置かれた車いすに盛大にぶつかったのも覚えている。女性医師に付き添われた松葉杖の入院患者のこともなんとなく覚えている。確かにこちらを見てはいたけれど、超のつくイケメンが男とお手手繋いで歩いているのが物珍しくて見られていただけではないだろうか。

「だって……ナースステーションの前で立ち話してた女性看護師の人とか、松葉杖のおにーさんに付き添ってた美人の女医さんとか、仕事終わりの綺麗な医療事務のおねーさんとか……」

 二人してお互いに見惚れていた人物を指折り数えてから、顔を見合わせる。
 それから、二人で同時に吹き出した。

「でも、俺は翡翠だけでいいよ」

 笑顔を浮かべたまま一青が言った。

「ん。俺も。一青だけでいーや」

 そう答えると、一青はもっと嬉しそうに笑った。
 そうして見つめ合って、どちらからともなく、目を閉じてキスをした。

「一青……好きだよ」

 唇が離れると、うっとりとその綺麗な青い瞳を見つめたまま翡翠は言う。

「ん。俺も翡翠が好きだ」

 さらり。と、長い翡翠色の髪を梳いて一青が答えた。

「な。俺……前言撤回してもいいか?」

 そのまま翡翠の翡翠色の瞳を見つめて一青は真剣な顔になる。

「え? なに……ひゃっ」

 するり。と、腰のあたりを撫でられて、思わず翡翠は高い声を上げた。その一青の手つきは明らかに夜の色を多分に含んでいる。

「したい」

 吐息を吹きかけながら耳元に囁かれて、翡翠が首を竦める。

「……え? あ……でも。その……」

 本当は翡翠だってしたい。だから、言い訳なんて思いつかない。ただ、すぐに受け入れてしまったら、なんだか期待していましたみたいにみえないだろうか。見えてしまったら、一青は引かないだろうか。

「な? 一回だけ。優しくするから」

 腰を撫でた手が、するすると背中や項を弄んでいる。くすぐったいような、そわそわした感覚が湧き上がって翡翠は頬を赤く染めた。

「でも……その。折角……きれいに……してくれたのに……あの……また。それに……それに……あの巡回の看護婦さん……きたりしたら」

 思いつくまま言い訳をすると、一青の両手が翡翠の頬を包み込んで、視線を合わせられる。

「巡回は心配いらないよ。茂さんが二人きりにしてくれるって、こっそり言ってた」

 いつの間にそんな話したんだよ! と、突っ込むことなんてできなかった。

「だから、ここで、このまま、しよ?」

 一青がその綺麗な顔に最高級のイケメン笑顔を浮かべて、そんなことを言ってきたからだ。

「……このまま!?」

 声が裏返る。散々いろいろな男に抱かれたけれど、我慢できずに風呂場で突っ込まれるなんてシチュエーションは今までに経験がない。

「あの……おれ……そゆの……したことない……ってか。その……いっせぇ」

 いっぱいいっぱいになって、ぎゅ。と一青の服の胸元を握り締めると、一青は頬を染めて何かに耐えるような表情になった。

「なにそれ? 可愛すぎ。あーも。無理。お願いだ。ね? 抱かせて。すげー気持ちよくさせてあげるよ? 翡翠。だめ?」

 少しだけ、情けない顔でそう言われて、もう、その表情が可愛いと感じるのは翡翠も同じだったから、翡翠は結局また白旗をあげることにした。

「……だめ……」

 と、言った瞬間に一青がものすごく悲しそうな表情になる。それも、堪らなく可愛い。

「……じゃ……ないです」

 と、続けると分かりやすく一青の顔が明るくなった。

「愛してるよ。翡翠」

 許可を取った瞬間にいきなり唇を奪われた。
 眩暈のするほどの濃厚なキスに、ふと、思う。

『これって本当に一回で済むのかな』

 けれど、もういいや。と、またしても、翡翠は理性を手放した。
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