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The Ugly Duckling
Epiloge Not swan,But kingfisher 14/16
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「翡翠。おいで」
一青を傷つけない上手な言葉が見つからなくて、言い淀んでいると、一青が手を貸して立たせてくれて、そのまま手を引かれた。
「一青?」
そのままシャワールームに連れていかれて、鏡の前に立たされる。
「な。見て」
鏡の中の一青を指さして一青が言った。
「なあ。翡翠。翡翠には俺がどう見える?」
鏡の中の青くて綺麗な瞳はじっと翡翠を見ている。
「一青は……すごく。どこも全部。綺麗だ。
青い目。まるでサファイアみたいだ。一番綺麗な矢車草の色。睫毛長くて……その。キスするとき少し触れるのくすぐったい。でも、一青にはすごく似合ってる。
一青。鼻高いよな。えと。……芸術品みたいだ。それから……唇。すごくシャープなのに。すごく。柔らかくて。
全部。宝物みたいだ。必要ないものなんてなにもないし、足りないものもなにもない」
翡翠の言葉に、少しだけ驚いた顔をしてから、一青は苦笑した。
「それは……言いすぎだな。それに、足りないものあるよ?」
鏡の中の一青は翡翠を指さす。
「見て?
すげー可愛い」
そう言って一青は翡翠の髪に触れた。
「綺麗な翡翠色だ。名前の通り。こんな綺麗な髪見たことない。細くてさらさらでふわふわで、触り心地も最高」
ちゅ。と、その髪にキスをしてから、鏡の中の翡翠と目を合わせる。
「瞳の色もすげー綺麗だ。翡翠の大きな目にぴったりの色。な? 翡翠も見て?」
鏡の中の翡翠を指さして一青が言う。言われるままに鏡の中のその翡翠色の瞳を見つめると、一青は微笑んで背中から包み込むように抱きしめてくれた。一青と翡翠の身長差は20㎝もある。だから、その大きな腕で抱きしめられると、翡翠は全部すっぽりとその腕の中に納まってしまう。それが、まるで守られているみたいでくすぐったい。
「な? 綺麗だろ? ここも」
翡翠を腕の中に収めたまま、長い指が唇に触れる。
「すげー艶っぽい。柔らかそうで、甘そうで、キスしたくなる。してもいい? するよ?」
返事を擦る間もなく、後ろから顔をあげさせられて、ちゅ。と、軽くキスされた。
「甘い。それに、すげーふわふわ。もっと、したくなる」
そんなことを言ったくせに、一青は翡翠をもう一度鏡のほうに向かせた。
鏡に映った自分は頬を赤く上気させて、長い睫毛に縁どられた翡翠の色の瞳はうるうると潤んで、まるで山奥の清浄な深い泉のように澄んだ翠をしている。一青の腕の中に納まったその色白で細い身体は、まるで閉じ込められているようで、一青の所有物であるかのように見えた。それが、嬉しいと感じた。
「ほら、ちゃんと見て? こんな美人の何が不満なんだ?」
一青に愛されている鏡の中の自分は確かに今までの自分とは違った。地味で凡庸で何の取柄もないと消し去ってしまいたかった自分とは違う。
母によく似た少女のような顔立ちも、強い魔光を示す鮮やかな翡翠色の髪と瞳も、一青に抱かれて頬を染める表情も、翡翠がずっとほしかったものだった。
「美人なんかじゃ……」
けれど、自分自身でそれを認めてしまうのは恥ずかしくて、翡翠は口籠った。
「俺も、芸術品なんかじゃない。ただ、翡翠が好きなだけの。ただの男だよ」
翡翠の言葉を遮って一青が言う。
「ただ、俺はこの綺麗な人に俺のことを好きでいてほしいだけだ。俺のこと信じて、俺だけに溺れてほしいだけだ。他のヤツに囚われてほしくないし、他のヤツに優しくしてほしくない。あんな可愛い笑顔、俺以外の誰にも見せてほしくない」
次第に一青の腕に籠る力が強くなっていく。身動きもできないくらいに抱きしめられて、息苦しいほどだ。
「翡翠。愛してる。辛かった過去なんて忘れて? 俺のことだけ信じて、俺のことだけ愛して? 翡翠が愛してくれるなら、俺はあなたの奴隷にでもなんでもなるよ」
耳元に囁かれる一青の吐息が熱い。痛いほどの本気が伝わってくる。
「怖いんだ。
翡翠が誰にでも脚を開くなんて思ってない。けど、あなたは魅力的すぎる。俺が怖いのは、久米木みたいなヤツが増えたら、俺だけじゃ守り切れなくなるんじゃないかってことだよ」
それでも、怖いとは思わなかった。
痛いほど抱きしめられて、息ができないほど束縛されて、それでも、眩暈がするほど幸せだった。
「約束して?
翡翠はこんなに綺麗で可愛いんだってこと自覚して? あんな無防備な笑顔。誰にでも振り撒かないで?」
一青の有無を言わせない言葉に翡翠は小さく頷いた。
正直、呪いを解く前の容姿と今の容姿が違うということは自覚が必要かもしれない。一青が言うほどに魅力があるかどうかは別として、確かに別人の容姿になっていることは間違いない。
けれど、無防備な笑顔を振り撒いたつもりはなかった。でも、表情が乏しいと言われた今までとは違うのかもしれない。
だから、約束することで一青が自分を好きでいてくれるなら、従いたいと思う。
一青を傷つけない上手な言葉が見つからなくて、言い淀んでいると、一青が手を貸して立たせてくれて、そのまま手を引かれた。
「一青?」
そのままシャワールームに連れていかれて、鏡の前に立たされる。
「な。見て」
鏡の中の一青を指さして一青が言った。
「なあ。翡翠。翡翠には俺がどう見える?」
鏡の中の青くて綺麗な瞳はじっと翡翠を見ている。
「一青は……すごく。どこも全部。綺麗だ。
青い目。まるでサファイアみたいだ。一番綺麗な矢車草の色。睫毛長くて……その。キスするとき少し触れるのくすぐったい。でも、一青にはすごく似合ってる。
一青。鼻高いよな。えと。……芸術品みたいだ。それから……唇。すごくシャープなのに。すごく。柔らかくて。
全部。宝物みたいだ。必要ないものなんてなにもないし、足りないものもなにもない」
翡翠の言葉に、少しだけ驚いた顔をしてから、一青は苦笑した。
「それは……言いすぎだな。それに、足りないものあるよ?」
鏡の中の一青は翡翠を指さす。
「見て?
すげー可愛い」
そう言って一青は翡翠の髪に触れた。
「綺麗な翡翠色だ。名前の通り。こんな綺麗な髪見たことない。細くてさらさらでふわふわで、触り心地も最高」
ちゅ。と、その髪にキスをしてから、鏡の中の翡翠と目を合わせる。
「瞳の色もすげー綺麗だ。翡翠の大きな目にぴったりの色。な? 翡翠も見て?」
鏡の中の翡翠を指さして一青が言う。言われるままに鏡の中のその翡翠色の瞳を見つめると、一青は微笑んで背中から包み込むように抱きしめてくれた。一青と翡翠の身長差は20㎝もある。だから、その大きな腕で抱きしめられると、翡翠は全部すっぽりとその腕の中に納まってしまう。それが、まるで守られているみたいでくすぐったい。
「な? 綺麗だろ? ここも」
翡翠を腕の中に収めたまま、長い指が唇に触れる。
「すげー艶っぽい。柔らかそうで、甘そうで、キスしたくなる。してもいい? するよ?」
返事を擦る間もなく、後ろから顔をあげさせられて、ちゅ。と、軽くキスされた。
「甘い。それに、すげーふわふわ。もっと、したくなる」
そんなことを言ったくせに、一青は翡翠をもう一度鏡のほうに向かせた。
鏡に映った自分は頬を赤く上気させて、長い睫毛に縁どられた翡翠の色の瞳はうるうると潤んで、まるで山奥の清浄な深い泉のように澄んだ翠をしている。一青の腕の中に納まったその色白で細い身体は、まるで閉じ込められているようで、一青の所有物であるかのように見えた。それが、嬉しいと感じた。
「ほら、ちゃんと見て? こんな美人の何が不満なんだ?」
一青に愛されている鏡の中の自分は確かに今までの自分とは違った。地味で凡庸で何の取柄もないと消し去ってしまいたかった自分とは違う。
母によく似た少女のような顔立ちも、強い魔光を示す鮮やかな翡翠色の髪と瞳も、一青に抱かれて頬を染める表情も、翡翠がずっとほしかったものだった。
「美人なんかじゃ……」
けれど、自分自身でそれを認めてしまうのは恥ずかしくて、翡翠は口籠った。
「俺も、芸術品なんかじゃない。ただ、翡翠が好きなだけの。ただの男だよ」
翡翠の言葉を遮って一青が言う。
「ただ、俺はこの綺麗な人に俺のことを好きでいてほしいだけだ。俺のこと信じて、俺だけに溺れてほしいだけだ。他のヤツに囚われてほしくないし、他のヤツに優しくしてほしくない。あんな可愛い笑顔、俺以外の誰にも見せてほしくない」
次第に一青の腕に籠る力が強くなっていく。身動きもできないくらいに抱きしめられて、息苦しいほどだ。
「翡翠。愛してる。辛かった過去なんて忘れて? 俺のことだけ信じて、俺のことだけ愛して? 翡翠が愛してくれるなら、俺はあなたの奴隷にでもなんでもなるよ」
耳元に囁かれる一青の吐息が熱い。痛いほどの本気が伝わってくる。
「怖いんだ。
翡翠が誰にでも脚を開くなんて思ってない。けど、あなたは魅力的すぎる。俺が怖いのは、久米木みたいなヤツが増えたら、俺だけじゃ守り切れなくなるんじゃないかってことだよ」
それでも、怖いとは思わなかった。
痛いほど抱きしめられて、息ができないほど束縛されて、それでも、眩暈がするほど幸せだった。
「約束して?
翡翠はこんなに綺麗で可愛いんだってこと自覚して? あんな無防備な笑顔。誰にでも振り撒かないで?」
一青の有無を言わせない言葉に翡翠は小さく頷いた。
正直、呪いを解く前の容姿と今の容姿が違うということは自覚が必要かもしれない。一青が言うほどに魅力があるかどうかは別として、確かに別人の容姿になっていることは間違いない。
けれど、無防備な笑顔を振り撒いたつもりはなかった。でも、表情が乏しいと言われた今までとは違うのかもしれない。
だから、約束することで一青が自分を好きでいてくれるなら、従いたいと思う。
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