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The Ugly Duckling
Epiloge Not swan,But kingfisher 10/16
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「うん。わかった。あの……先生」
今は一青の提案に従おうと思う。
魔符作りや、魔法薬作りが嫌いなわけじゃない。どちらかというと、殆ど趣味に近いほど凝っている。それで一青の手助けができたり、誰かの役に立てるなら、今はそれでいい。
だから、翡翠は大泉に向きなおった。
「なんだね?」
翡翠と一青の仲睦まじい様子が嬉しいのか大泉は目を細めて笑っていた。彼は最初から一青と翡翠が伴侶となることを望んでくれていたのだ。
「中級魔道薬剤師と、上級魔符師の免許はとってあるんですけど……俺、戸籍とかどうなってますか? 死亡届とか受理されてないですか? できれば……営業許可も取りたいと思うんですけど」
制作した魔法薬や、魔符で対価を得るにはもちろん免許が必要だ。その魔法薬や魔符の危険度に合わせて、それぞれ初級から上級の免許が存在する。上級魔符師になると、すべても魔符の作成販売が可能になる。中級魔道薬剤師も高卒でとれるレベルの免許としては最難関クラスだ。
「戸籍は失踪人扱いで残っているが、黒蛇の追跡を逃れるために、国政のほうで新たに用意してくれるそうだ。免許のことは再発行してもらえるように伝えておこう。店舗での営業許可は少し時間がかかるかもしれん。もしよければ黎明月の資材部に納入できるように和臣に頼んでみようか?」
ほとんどの魔道薬剤師や魔符師は店舗を持たない。作った魔符をギルドや、スレイヤー事務所に卸すのが普通だ。理由は単純で、どんなに強力な魔符師でも、店舗を構えられるほどの魔符を一人で作ることが不可能だからだ。
魔符にはもちろん、作った人物の魔光が込められている。魔符の種類にもよるが、強力なものだと一日に一枚作れればいいほうだ。しかし、翡翠の魔光には制限が殆どない。ほぼ無限に魔光を使い放題なのだ。だから、販売許可を得て店舗を持つのもいいかと思っていたのだ。
「あ。ありがとうございます。お願いします。
戸籍……父と母の子供としては……残らないんですね……」
いろいろと気を使ってくれる大泉の心遣いは嬉しかった。どうしてこんなに良くしてくれるのかと思う。だから、我儘を言って困らせたくはない。
それでも、戸籍のことは気になってしまった。自分には父と母と過ごした証は何もない。記憶はわずかに戻って来ているのだが、まだ、全てを思い出すというところまでは程遠い。だから、唯一両親と繋がっていると思える戸籍が、安全のためとはいえ変わってしまうことが何だか寂しかった。
「元の戸籍は残しておいてもらうように頼んでおこう。黒蛇の追跡がなくなったら、元に戻せばいい。
ああ。それから、君が拉致される前の財産は、家具などは残っていないが、預金などは返還してくれるそうだ。手続きについては明後日の検査のあとに弁護士と法務局の職員が説明してくれるそうだよ」
翡翠の心を全部わかったとでもいうように大泉はゆったりと笑ってくれた。
「はい。いろいろとありがとうございます。
俺の身体のこと。先生の研究に役立つなら何でも協力しますから、言ってください」
だから、これは翡翠なりのお礼の意味もあったと思う。けれど、大泉は少し複雑そうな顔をした。
「翡翠君。私は君がゲートだから親切にしているわけではないのだよ。もちろん、犯罪被害者の君の手助けになればとは思っているが。私が君を心配するのは一青の伴侶になる人だからだ。一青は私と和臣の息子も同然だ。だから、君も私たちの家族になるということだ。大切にするのは当たり前だろう」
そう言って、大泉はまた笑顔になる。
「私は研究者である前に医者だ。もちろん、君の主治医として君の身体のことを把握していなければならない。けれど、医者であるよりももっと前に、君のことは家族だと思っている。だから、君を研究対象にするつもりなどない。
これからも君を見守っていくと言ったのはそういう意味だよ」
大泉の優しい言葉に、一青も微笑んでいた。きっと、こんな人だから、一青も大泉のことを心から信頼しているのだろう。
今は一青の提案に従おうと思う。
魔符作りや、魔法薬作りが嫌いなわけじゃない。どちらかというと、殆ど趣味に近いほど凝っている。それで一青の手助けができたり、誰かの役に立てるなら、今はそれでいい。
だから、翡翠は大泉に向きなおった。
「なんだね?」
翡翠と一青の仲睦まじい様子が嬉しいのか大泉は目を細めて笑っていた。彼は最初から一青と翡翠が伴侶となることを望んでくれていたのだ。
「中級魔道薬剤師と、上級魔符師の免許はとってあるんですけど……俺、戸籍とかどうなってますか? 死亡届とか受理されてないですか? できれば……営業許可も取りたいと思うんですけど」
制作した魔法薬や、魔符で対価を得るにはもちろん免許が必要だ。その魔法薬や魔符の危険度に合わせて、それぞれ初級から上級の免許が存在する。上級魔符師になると、すべても魔符の作成販売が可能になる。中級魔道薬剤師も高卒でとれるレベルの免許としては最難関クラスだ。
「戸籍は失踪人扱いで残っているが、黒蛇の追跡を逃れるために、国政のほうで新たに用意してくれるそうだ。免許のことは再発行してもらえるように伝えておこう。店舗での営業許可は少し時間がかかるかもしれん。もしよければ黎明月の資材部に納入できるように和臣に頼んでみようか?」
ほとんどの魔道薬剤師や魔符師は店舗を持たない。作った魔符をギルドや、スレイヤー事務所に卸すのが普通だ。理由は単純で、どんなに強力な魔符師でも、店舗を構えられるほどの魔符を一人で作ることが不可能だからだ。
魔符にはもちろん、作った人物の魔光が込められている。魔符の種類にもよるが、強力なものだと一日に一枚作れればいいほうだ。しかし、翡翠の魔光には制限が殆どない。ほぼ無限に魔光を使い放題なのだ。だから、販売許可を得て店舗を持つのもいいかと思っていたのだ。
「あ。ありがとうございます。お願いします。
戸籍……父と母の子供としては……残らないんですね……」
いろいろと気を使ってくれる大泉の心遣いは嬉しかった。どうしてこんなに良くしてくれるのかと思う。だから、我儘を言って困らせたくはない。
それでも、戸籍のことは気になってしまった。自分には父と母と過ごした証は何もない。記憶はわずかに戻って来ているのだが、まだ、全てを思い出すというところまでは程遠い。だから、唯一両親と繋がっていると思える戸籍が、安全のためとはいえ変わってしまうことが何だか寂しかった。
「元の戸籍は残しておいてもらうように頼んでおこう。黒蛇の追跡がなくなったら、元に戻せばいい。
ああ。それから、君が拉致される前の財産は、家具などは残っていないが、預金などは返還してくれるそうだ。手続きについては明後日の検査のあとに弁護士と法務局の職員が説明してくれるそうだよ」
翡翠の心を全部わかったとでもいうように大泉はゆったりと笑ってくれた。
「はい。いろいろとありがとうございます。
俺の身体のこと。先生の研究に役立つなら何でも協力しますから、言ってください」
だから、これは翡翠なりのお礼の意味もあったと思う。けれど、大泉は少し複雑そうな顔をした。
「翡翠君。私は君がゲートだから親切にしているわけではないのだよ。もちろん、犯罪被害者の君の手助けになればとは思っているが。私が君を心配するのは一青の伴侶になる人だからだ。一青は私と和臣の息子も同然だ。だから、君も私たちの家族になるということだ。大切にするのは当たり前だろう」
そう言って、大泉はまた笑顔になる。
「私は研究者である前に医者だ。もちろん、君の主治医として君の身体のことを把握していなければならない。けれど、医者であるよりももっと前に、君のことは家族だと思っている。だから、君を研究対象にするつもりなどない。
これからも君を見守っていくと言ったのはそういう意味だよ」
大泉の優しい言葉に、一青も微笑んでいた。きっと、こんな人だから、一青も大泉のことを心から信頼しているのだろう。
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