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The Ugly Duckling

Epiloge Not swan,But kingfisher 4/16

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「ところで、話を戻すが……翡翠君。体調はどうだね? 呪いは後遺症が残る場合もあるが」

 少しだけ真面目な顔に戻って、大泉は翡翠に向きなおった。

「大丈夫です。特にはなにも。あ……でも、記憶は、まだ曖昧な部分が多くて。多分、俺、拉致された当時のことも覚えてるはずなんですけど……その辺はさっぱり」

 記憶は戻っているはずなのだが、思い出せるのはまだ、父と母のことくらいだった。

「うむ。おそらく君にとってはその記憶は辛いものなのだろう。魔法による記憶の改竄ではなく、君の脳が君の心を守るために、思い出さないようにしているのかもしれん。
 今は、無理に思い出す必要はない。平穏な生活に戻れれば、必要な記憶は戻るだろう」

 大泉の言っていることは理解できる。けれど、思い出したいと思う。父や母を奪ったものが誰なのか、何があったのか知りたい。それは自然なことだと思う。
 しかし、今そんなことを言って大泉や一青を困らせる気などなかった。大泉の言う通り、平穏な生活に戻ることができたなら、少しずつ思い出すことができるだろう。

「あの……」

 だから、翡翠は少し話題を変えることにした。

「なんだね?」

 遠慮がちな翡翠の問いかけに大泉が笑顔で答える。

「結局……呪いどうやって解いたんですか?」

 疑問に思っていたことを翡翠は聞いてみた。あんなに悩んだのに、結局痛みの一つすらなく、寝ている間にすべての解呪は終了していた。いったいどうやったのだろう。

「あー。それはな。……一青」

 仕方ない。とばかりに、両手を広げて、大泉は一青に視線を遣った。
 その視線に一青が罰の悪そうな顔になる。

「ごめん。ほんっと悪いと思うけど……黒蛇は感情を縛る呪いだから、翡翠の意識がない状態なら発動しないんだよ」

 それから、躊躇いがちに説明してくれた。

「……それ……だけ?」

 思わずきょとん。と、呆けてしまう。
 確か、国政は問題なんて何もない。と、言っていたのだが、どうやら比喩でも何でもなかったらしい。事実問題なんて何もなかったのだ。
 翡翠が一青を愛していて、すぐにでも契約したい、そのためには性交渉ももちろんしてもいい。否、一青に抱かれたい。と、思っていることさえ確認できれば、意識がないくらいのことは全く問題にならない。

「や、ホント……悪いと思ってる。も、頭いっぱいいっぱいで。呪いを解く方向にしか頭が行ってなくて」

 申し訳なさそうに項垂れて、一青は窺うように翡翠の顔を見ていた。情けない表情なのだが少し、いや、かなり可愛い。

「最初気づかなかったのは、私も同じだ。一青が『吸魔の十三を解こうとすると翡翠が苦しそうにする』と言っているのを聞いて、吸魔の十三を守るための呪いだと思ったのだよ。翡翠君の体調も悪かったし、しっかり話を聞く機会を持たなかったのは私のミスでもある。申し訳なかったね」

 同じくすまなそうに翡翠を見ている大泉に、翡翠は思わず吹きだした。

「……そうか……」

 そんなことで悩んでいたのは馬鹿らしいと思うけれど、一青や大泉が自分ために悩んでくれた時間が無駄だったとは思えない。そんなふうに自分を大切に思ってくれたのが、素直に嬉しかった。

「そんなことだったんだ……」

 ふふ。と、小さく笑う翡翠に一青も安堵したような笑顔になる。その二人を見て、大泉老人も笑ってくれた。
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