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The Ugly Duckling
Epiloge Not swan,But kingfisher 1/16
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魔道医療科の第一診察室にたどり着くまでにまたしても翡翠は30分以上の時間をかけてしまった。別に魔道医療科が別棟にあるわけではない。
ただ、ヤりすぎで足腰が立たなくて、もたついているところを、一青が抱っこしていくと言ってきかなかったからだ。そもそも、シャワーを浴びて着替えるだけで15分はかかってしまった。一青に身体の隅々まで洗われて、散々エロい悪戯をされて、“やめろよ”とか言いながらも、幸せに浸りまくっていた。
究極に男運のなかった翡翠にしてみれば、一青みたいな少女漫画の主人公級の恋人ができるなんて、夢のまた夢だったのだ。それどころか、普通に優しく扱われたことすらない。いつも好きになるのはろくでなしばかりで、こんな普通の恋人同士のようなじゃれ合いだけでも、にやけが止まらないくらい幸せだった。
だから、もう一度大泉から連絡がくるまで、いちゃいちゃべたべたと一青と戯れていた。
結局、お姫様抱っこは回避して、治癒の魔法で済ませてから、一青と手を繋いで第一診療室へ向かった。少し恥ずかしかったけれど、一青が強引に繋いでくれた手が嬉しかった。
翡翠を診療室へ送り届けてから、『後で迎えに来るから』と、部屋を出て行こうとする一青を、『もう、他人じゃないから』と、引き留めると、一青がすごくすごく嬉しそうな表情になったのが、また、堪らなく幸せだった。
「ふむ」
診療室へ入るなり、翡翠の顔を見て、大泉は驚いた顔をしてから、椅子に深く座った。
「これは……思った以上に強く呪いをかけられてたようだな」
おそらくは翡翠の容姿のことを言っているのだろう。正直、一青が一緒にいてくれなかったら、翡翠が翡翠だということすら信じてはもらえなかっただろう。
「外見を変化させるだけでも、4種類は呪いをかけられてた。まんま外見を変える変化と、見たものの認識を変える識阻と、視覚と脳の認識に齟齬を作る錯視と、認識したものへの反応を縛る誤感。破魔符一枚じゃ足りなかったし、退魔まで使った。すげー執着が伝わってきた」
大泉の感想に一青が答えた。翡翠は気を失っていたから見てはいないのだけれど、久米木という男の執念に寒気がする。
「ほかにも、吸魔の十三、肆、弍。それから、帰還。電子機器を誤作動させる妨害。記憶の改竄と黒蛇。それから、翡翠の意志を縛る沈降。実はまだあると思うけど、多すぎて確認できなかった。あのレベルの呪いにずっと魔光を吸い続けられていたとしたら……翡翠の魔光診断もう一回し直したほうがいい。多分、実際にはキングかエースクラスだ」
魔光の種類を表す波形型診断のほかに、魔光の総量の多寡をわかりやすく他人に伝える方法として、スレイヤーの業界ではトランプのスーツと数字を使うことがある。エレメントをスーツで。能力の高さを数字で表すのだ。
スーツの剣(スペード)が風。杯(ハート)が水。棍(クラブ)が火。貨幣(ダイヤ)が地を表している。中には対立しない二つのエレメントを同時に持つものもいて、その場合はその双方のスーツを使って表すことになる。
数字はもちろん、エースが最強。次がキング。クイーン、ジャックと続いて、あとは数字で表す。
ゲートが開く前の翡翠は風のエレメントで魔光の量は中級クラスだったから、剣の7と表記されていた。
魔法を駆使して戦う魔道型のスレイヤーなら、エレメントは問わないが最低8以上の魔光を求められる。魔光で肉体を強化して戦う肉体強化型のスレイヤーなら5以上。その中間の混合型のスレイヤーで最低7以上の魔光が必要とされている。
この数字の上位4種ジャックまでに分類されるスレイヤーは全体の10分の1以下。エースクラスになると、全体の100分の1以下と言われている。
前述したとおり、魔光の多寡は遺伝に左右されることが多い。だから、Aランクのスレイヤーを父に持つ翡翠も絵札クラスにはなるだろう。それくらい久米木にかけられていた呪いの数は多かった。それでも、普通に生活できていたのもおそらくは魔光の総量がかなり多かったからだと思われた。
「それから、機械を使った検査はすべてやり直したほうがいい。妨害の呪いがかけられていたから、正確な結果が出ていないと思う。
あと、魔道医学の検査ももう問題なくできるよ。俺の扉がある限り、翡翠のゲートが不安定になることはない」
一青の言葉に大泉は頷いた。
「すぐに手配しておこう。翡翠君。大変かもしれんが、明後日にはまた検査になるが、いいかね?」
大泉の問いに翡翠が頷く。明後日にしてくれたのは正直ありがたかった。身体のいたるところに一青の残した跡が残っている。翡翠がゲートであることを知っている担当医には一青に抱かれたことはもちろん知られてしまっているけれど、わかっていてもとても恥ずかしくて人前で衣服を脱ぐことはできそうにない。
ただ、ヤりすぎで足腰が立たなくて、もたついているところを、一青が抱っこしていくと言ってきかなかったからだ。そもそも、シャワーを浴びて着替えるだけで15分はかかってしまった。一青に身体の隅々まで洗われて、散々エロい悪戯をされて、“やめろよ”とか言いながらも、幸せに浸りまくっていた。
究極に男運のなかった翡翠にしてみれば、一青みたいな少女漫画の主人公級の恋人ができるなんて、夢のまた夢だったのだ。それどころか、普通に優しく扱われたことすらない。いつも好きになるのはろくでなしばかりで、こんな普通の恋人同士のようなじゃれ合いだけでも、にやけが止まらないくらい幸せだった。
だから、もう一度大泉から連絡がくるまで、いちゃいちゃべたべたと一青と戯れていた。
結局、お姫様抱っこは回避して、治癒の魔法で済ませてから、一青と手を繋いで第一診療室へ向かった。少し恥ずかしかったけれど、一青が強引に繋いでくれた手が嬉しかった。
翡翠を診療室へ送り届けてから、『後で迎えに来るから』と、部屋を出て行こうとする一青を、『もう、他人じゃないから』と、引き留めると、一青がすごくすごく嬉しそうな表情になったのが、また、堪らなく幸せだった。
「ふむ」
診療室へ入るなり、翡翠の顔を見て、大泉は驚いた顔をしてから、椅子に深く座った。
「これは……思った以上に強く呪いをかけられてたようだな」
おそらくは翡翠の容姿のことを言っているのだろう。正直、一青が一緒にいてくれなかったら、翡翠が翡翠だということすら信じてはもらえなかっただろう。
「外見を変化させるだけでも、4種類は呪いをかけられてた。まんま外見を変える変化と、見たものの認識を変える識阻と、視覚と脳の認識に齟齬を作る錯視と、認識したものへの反応を縛る誤感。破魔符一枚じゃ足りなかったし、退魔まで使った。すげー執着が伝わってきた」
大泉の感想に一青が答えた。翡翠は気を失っていたから見てはいないのだけれど、久米木という男の執念に寒気がする。
「ほかにも、吸魔の十三、肆、弍。それから、帰還。電子機器を誤作動させる妨害。記憶の改竄と黒蛇。それから、翡翠の意志を縛る沈降。実はまだあると思うけど、多すぎて確認できなかった。あのレベルの呪いにずっと魔光を吸い続けられていたとしたら……翡翠の魔光診断もう一回し直したほうがいい。多分、実際にはキングかエースクラスだ」
魔光の種類を表す波形型診断のほかに、魔光の総量の多寡をわかりやすく他人に伝える方法として、スレイヤーの業界ではトランプのスーツと数字を使うことがある。エレメントをスーツで。能力の高さを数字で表すのだ。
スーツの剣(スペード)が風。杯(ハート)が水。棍(クラブ)が火。貨幣(ダイヤ)が地を表している。中には対立しない二つのエレメントを同時に持つものもいて、その場合はその双方のスーツを使って表すことになる。
数字はもちろん、エースが最強。次がキング。クイーン、ジャックと続いて、あとは数字で表す。
ゲートが開く前の翡翠は風のエレメントで魔光の量は中級クラスだったから、剣の7と表記されていた。
魔法を駆使して戦う魔道型のスレイヤーなら、エレメントは問わないが最低8以上の魔光を求められる。魔光で肉体を強化して戦う肉体強化型のスレイヤーなら5以上。その中間の混合型のスレイヤーで最低7以上の魔光が必要とされている。
この数字の上位4種ジャックまでに分類されるスレイヤーは全体の10分の1以下。エースクラスになると、全体の100分の1以下と言われている。
前述したとおり、魔光の多寡は遺伝に左右されることが多い。だから、Aランクのスレイヤーを父に持つ翡翠も絵札クラスにはなるだろう。それくらい久米木にかけられていた呪いの数は多かった。それでも、普通に生活できていたのもおそらくは魔光の総量がかなり多かったからだと思われた。
「それから、機械を使った検査はすべてやり直したほうがいい。妨害の呪いがかけられていたから、正確な結果が出ていないと思う。
あと、魔道医学の検査ももう問題なくできるよ。俺の扉がある限り、翡翠のゲートが不安定になることはない」
一青の言葉に大泉は頷いた。
「すぐに手配しておこう。翡翠君。大変かもしれんが、明後日にはまた検査になるが、いいかね?」
大泉の問いに翡翠が頷く。明後日にしてくれたのは正直ありがたかった。身体のいたるところに一青の残した跡が残っている。翡翠がゲートであることを知っている担当医には一青に抱かれたことはもちろん知られてしまっているけれど、わかっていてもとても恥ずかしくて人前で衣服を脱ぐことはできそうにない。
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