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The Ugly Duckling
engagement 11/11
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「翡翠!」
そんなことはすべて理解しているはずなのに、一青はまた、声を荒げた。きっと、彼はそんなこと一片も考えてはいないのだ。対等で、否、ゲートに仕えるような決意をしてくれているのだろう。
「ゲートは、ゲートキーパーの『もの』じゃない。翡翠だって俺のものだけど、『もの』じゃない。
歴史上契約を解除したゲートキーパーがいないわけじゃないけど、そんなことが普通にあることだなんて思わないでくれ。少なくとも俺の知ってる人型ゲートのゲートキーパーには一度伴侶と選んだゲートを所有物扱いするようなヤツはいない」
一青の顔は真剣というよりももはや悲壮感に溢れていた。契約を交わしたばかりのゲートに信用されていないことが彼にとってとても辛いことだということがわかる。
「一青。俺は一青を嫌いになったりしないし、一青だって俺のこと裏切ったりしない。
そんなのわかってるよ」
見上げた一青の頬に触れて、翡翠は微笑んだ。
翡翠は思う。
別に一青に所有物として扱われても構わない。必要と思ってもらえるなら、道具でもいい。
ただ、自分が必要でなくなったときに、一青の障害物にはなりたくない。
「でも、約束しよう。二人で生きてくために、ほかにも必要なことがあったら、約束しよう? くだらないことでも、ありえないことでも、全部ちゃんと話して、約束作ろう」
その時になって後悔しないように。
心の中で翡翠は付け加えた。
「ほかにも……? じゃあ、約束だ」
翡翠の足もとに膝をついて、翡翠の爪先にキスをして、一青が顔を見上げてくる。
「……一青?」
その顔は真剣そのものだった。
「愛してるよ。この先もずっとだ。翡翠以外に誰も好きになったりしない。約束する」
青い瞳がまっすぐに見つめている。胸が苦しくなるほどに綺麗だ。
初めてその瞳を見た日。こんな綺麗な人がいるのかと、何故か泣きたくなった。絶対に届かないと思った。だから、好きになるのが怖かった。心を許してしまったらまた裏切られるんじゃないかと思うと怖かった。
「翡翠が何を怖がってるのか、俺にはわからない。
でも、確かに保証なんてないかもしれないけど、みんな不安だらけだから、寄り添うんだと思う。だから、時間がかかってもいい。俺が約束を破ったりしないってこと、理解して?」
けれど、一青はそんな翡翠の思いを全部飛び越えて、翡翠のそばまで来てくれた。そして、幾重にもがんじがらめにされた呪いの鎖を解いてくれた。
「一青……」
だから、翡翠は、信じようと思う。不確定な未来ではなく、一青自身の思いを。
もしも、一青にならもし裏切られても、信じたことを呪ったりはしない。
契約を解除されて死んでいったゲートたちもそんな気持ちだったのだろうか。きっと、そうだろう。契約を解除されたとしても、信じていたことを後悔することはなかっただろう。
「翡翠も約束して。俺こと、ずっと好きでいてくれるって」
立ち上がった一青に抱きしめられて、翡翠は観念した。
結局はより多く好きになったほうが負けなのだ。だから、きっとこの勝負は負けた方が幸せになれる。
「ん。約束する。一青のこと、ずっと愛してる」
背伸びをしてその唇にキスをすると、一青は少し安堵したように笑ってくれた。
きっと、また、こんなふうに言わなくてもいいことを言って自分は一青を不安にさせたりするのだと思う。一青がいなくなってしまうんじゃなかと、不安になって心を病んだりするのだろう。
「俺はその約束だけあれば充分」
そう言って一青が抱きしめてくれる。
そして、その度にこうやって抱きしめられて心が一青でいっぱいになってしまうんだろう。その温もりに、安心してしまうのだろう。
「約束……だよ?」
呟いて翡翠は一青の背中に腕を回して抱きしめる。
そうして、回り道ばかりだった二人の契約は終わった。
そんなことはすべて理解しているはずなのに、一青はまた、声を荒げた。きっと、彼はそんなこと一片も考えてはいないのだ。対等で、否、ゲートに仕えるような決意をしてくれているのだろう。
「ゲートは、ゲートキーパーの『もの』じゃない。翡翠だって俺のものだけど、『もの』じゃない。
歴史上契約を解除したゲートキーパーがいないわけじゃないけど、そんなことが普通にあることだなんて思わないでくれ。少なくとも俺の知ってる人型ゲートのゲートキーパーには一度伴侶と選んだゲートを所有物扱いするようなヤツはいない」
一青の顔は真剣というよりももはや悲壮感に溢れていた。契約を交わしたばかりのゲートに信用されていないことが彼にとってとても辛いことだということがわかる。
「一青。俺は一青を嫌いになったりしないし、一青だって俺のこと裏切ったりしない。
そんなのわかってるよ」
見上げた一青の頬に触れて、翡翠は微笑んだ。
翡翠は思う。
別に一青に所有物として扱われても構わない。必要と思ってもらえるなら、道具でもいい。
ただ、自分が必要でなくなったときに、一青の障害物にはなりたくない。
「でも、約束しよう。二人で生きてくために、ほかにも必要なことがあったら、約束しよう? くだらないことでも、ありえないことでも、全部ちゃんと話して、約束作ろう」
その時になって後悔しないように。
心の中で翡翠は付け加えた。
「ほかにも……? じゃあ、約束だ」
翡翠の足もとに膝をついて、翡翠の爪先にキスをして、一青が顔を見上げてくる。
「……一青?」
その顔は真剣そのものだった。
「愛してるよ。この先もずっとだ。翡翠以外に誰も好きになったりしない。約束する」
青い瞳がまっすぐに見つめている。胸が苦しくなるほどに綺麗だ。
初めてその瞳を見た日。こんな綺麗な人がいるのかと、何故か泣きたくなった。絶対に届かないと思った。だから、好きになるのが怖かった。心を許してしまったらまた裏切られるんじゃないかと思うと怖かった。
「翡翠が何を怖がってるのか、俺にはわからない。
でも、確かに保証なんてないかもしれないけど、みんな不安だらけだから、寄り添うんだと思う。だから、時間がかかってもいい。俺が約束を破ったりしないってこと、理解して?」
けれど、一青はそんな翡翠の思いを全部飛び越えて、翡翠のそばまで来てくれた。そして、幾重にもがんじがらめにされた呪いの鎖を解いてくれた。
「一青……」
だから、翡翠は、信じようと思う。不確定な未来ではなく、一青自身の思いを。
もしも、一青にならもし裏切られても、信じたことを呪ったりはしない。
契約を解除されて死んでいったゲートたちもそんな気持ちだったのだろうか。きっと、そうだろう。契約を解除されたとしても、信じていたことを後悔することはなかっただろう。
「翡翠も約束して。俺こと、ずっと好きでいてくれるって」
立ち上がった一青に抱きしめられて、翡翠は観念した。
結局はより多く好きになったほうが負けなのだ。だから、きっとこの勝負は負けた方が幸せになれる。
「ん。約束する。一青のこと、ずっと愛してる」
背伸びをしてその唇にキスをすると、一青は少し安堵したように笑ってくれた。
きっと、また、こんなふうに言わなくてもいいことを言って自分は一青を不安にさせたりするのだと思う。一青がいなくなってしまうんじゃなかと、不安になって心を病んだりするのだろう。
「俺はその約束だけあれば充分」
そう言って一青が抱きしめてくれる。
そして、その度にこうやって抱きしめられて心が一青でいっぱいになってしまうんだろう。その温もりに、安心してしまうのだろう。
「約束……だよ?」
呟いて翡翠は一青の背中に腕を回して抱きしめる。
そうして、回り道ばかりだった二人の契約は終わった。
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