【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

文字の大きさ
上 下
83 / 224
The Ugly Duckling

engagement 5/11

しおりを挟む
 よかった。

 翡翠は思う。
 一青を裏切るようなことをしなくてよかった。
 自分を抱いてくれているのが一青でよかった。

「……あっ。は……あん。いっ……せい……。きもち……い……すご……っ」

 快楽に蕩けた瞳で一青を見上げると、一青は眉を寄せて痛みに耐えるみたいな表情をしていた。
 気持ちよくはないのだろうか。心配になる。自分の感じている快楽を一青にも感じてほしい。もちろん、身体だけではない。心もだ。

「いっ……せい? 一青……ね……? 俺……きもち……い? いっせい……いい?」

 抱きしめたいけれど、拘束されている腕ではそれもできなくて、問いかけると、一青の視線が翡翠をとらえる。

「ん。すげーいい。ヤバい。俺……翡翠が好きだ……とまらねえ」

 余裕なくそう言って一青は両手を放してくれた。そのままぎゅ。と、抱きしめられて、抱きしめられたまま、何度も奥を突かれる。

「……ぁあっ。あっ。あっ。……気持ち……いい……っいっせい……俺……っ。こんなの……はじめて……っ」

 もしかしたら、それも呪いだったのかもしれない。激しくなっていく抽挿にいっぱいになってしまった頭の片隅で、ふと思う。
 誰も本気で好きになったことなんてない。誰としたセックスもこんなに気持ちよくはなかった。
 一青だから、一青がいてくれたから、自分の呪いは解けたのだ。

「一青……っ。一青。好き……好きだ。一青……っ」

 心も身体も高まって、ばかみたいにその名前と、言葉しか出ては来なかった。一青に揺さぶられるまま身体も心も預けて、高められていくのが堪らなく心地よかった。

「俺も……俺も好きだよ。翡翠。愛してる。っ……あ……出すよ? 受け止めて」

 余裕のない一青の声が耳元に聞こえる。それから、ぐん。と、最奥を穿って、一青はそこに熱い精を放った。

「……ぁ……あ」

 びくん。びくん。と、ソコに熱いものを感じる。そんなものは分かるはずがないと言われるかもしれない。けれど、わかる。一青が自分の中で絶頂を迎えたのだ。そう思うだけで、堪らなくなって、翡翠も一青を胎内に感じたままイった。

「……いっ……せぇ」

 何故か涙が溢れる。
 たぶん、嬉しいのだ。
 愛している人に、愛されていると分かるのが、身体の快感よりももっと気持ちがいいのだ。
 だから、涙が零れる。

「ひ……すい」

 荒く肩で息をしながら、一青は髪を撫でてくれた。その感触に翡翠はうっとりと目を細める。

「契約……するよ」

 ふう。と、大きく息を吐いて、一青は真剣な顔に変わる。その顔も、信じられないくらいにセクシーだった。だから、翡翠も小さく頷いて答える。

「誓約……海より出でて、雲になりて、雨粒と落ち、集まりて還れ。
 竜神の子の内にある因子。人を形作るもの。命を育むもの。その名に誓う。
 我、いかなる時も、若葉の風の天に還るときまで、これを主とし、守り、称え、仕える成りと」

 低い声で呟くように一青が詠唱をする。一青の言葉が魔道文字となって、きらきらと光って、翡翠の周りをまわっている。まるで夢みたいに綺麗で、翡翠はそれに見惚れていた。

「翡翠」

 そ。と、翡翠の下腹部。ちょうど、その奥にゲートのあるあたりに触れて、一青に名前を呼ばれる。

「はい」

 翡翠は答えた。とても、厳粛な気持ちだった。きっと、ヴァージンロードに立つ花嫁はこんな気持ちになるのではないだろうか。

「誓って」

 一青の言葉に、翡翠は翡翠のゲートに触れる一青の手に自分の手を重ねた。

「俺は……一青だけのゲートになる。一青だけの伴侶になる。ずっと、ずっと、死ぬまで一青のこと……愛してる」

 翡翠が言うと、彼の周りを舞っていた文字が色づいていく。透明だったものが、青く、それから翠に。そして、それは、吸い込まれるように二人が手を重ねた部分の翡翠の腹に入っていった。
 眩しいくらいの光が部屋を包む。

「ありがとう。翡翠。俺も、愛してる」

 一青の声が聞こえる。だから、翡翠は重ねていた一青の手をぎゅ。と、握りしめた。

「うん」

 しばらく、そうしていると、次第に光は治まって、代わりに翡翠の腹に薄く桜色の魔道文字が浮かんできた。

「ごめんな。これは、消えない。落ち着いたらもう少し見えにくくはなるけど、約款だから」

 そう言ってから、一青は翡翠をぎゅ。と、強く抱きしめた。

「これで、契約は完了だ。翡翠のゲートはもう、魔力崩壊するような心配はないよ。わかるか?」

 抱きしめたままの耳元に囁くように一青が続ける。
 身体の奥に川が流れている。それは分かるけれど、それは扉の向こうになって、静かな水音だけが聞こえてくる。そんな感じだった。

「ん。静かだ」

 一青の背中に腕を回して、翡翠は答えた。
 気分が悪くなるほどの濃厚な魔光の気配も、鎖で無理矢理吸い出し口をつけられたような違和感も、力を奪われ続ける脱力感もない。
 ただ、静かで心地よいせせらぎの音が聞こえるだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...