【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

文字の大きさ
上 下
80 / 224
The Ugly Duckling

engagement 2/11

しおりを挟む
「翡翠」

 目が覚めると、頬を涙が流れていた。けれど、驚くほど心が温かい。泣きながら目覚めることはよくあったけれど、こんな気持ちになるのは初めてだった。

「翡翠……大丈夫か?」

 涙と微睡で霞んだ視界が徐々に焦点を結ぶと、顔を覗き込んでいるのは、愛おしい人だった。
 綺麗な青い瞳。さらさらと青い髪。長い睫毛の先まで、綺麗でないところなんてどこにもない。

「……いっせ……い?」

 状況は全く理解できない。
 けれど、何かいつもとは違っている。
 焦点が合うと、視界はいつもよりずっと広くて明るい気がした。それから、さらさらと清らかで透明な何かが自分の身体の奥から流れているような感覚がする。それは、翡翠の身体を洗い流しているようでとても心地いい。

「俺……あ……れ?」

 そ。っと、一青の手で頭を撫でられて、翡翠ははっとした。

「え? え? あ……ちょ……っ。ま……」

 ベッドに寝かされた翡翠は何も身に着けてはいなかった。もちろん、彼の上に重なるようにしている一青も同じだ。
 それだけではない。

「……え? あ……ん……っ。はい……って……?」

 そこはあの特別室だ。
 大きなベッドの上で何も身に着けずに、横になって脚を大きく開かれている。その間に身体を割り込ませた一青のソレは既に翡翠の胎内に納まっていた。

「……な……で? 一青……っ。俺……え?」

 翡翠のあまりの狼狽ぶりに、少し罰の悪そうな顔をして、一青はぎゅ。と、その細い身体を抱きしめる。素肌を通して一青の体温を感じて、余計に何が何だか分からなくなってしまった。

「ごめん。翡翠。なんか、寝込み襲うとか……。初めてが……こんなんとか、マジであり得ないけど……」

 一青の低い声が耳孔を擽る。そのまま、唇が耳朶に触れて、くすぐったいような甘ったるい感覚に翡翠は身を竦めた。

「ホント、ごめん。苦しくない?」

 ちゅ。ちゅ。と、可愛い音をさせて、一青の唇が耳朶や首筋にあやすようなキスをくれる。すごく申し訳なさそうにしているけれど、翡翠は芥子粒ほどにも嫌だとは思っていなかった。ただ、驚いているだけだ。

「……へ……き……。ん……ふ」

 意識してしまって、声が出そうになって、翡翠はぎゅ。と、唇を噛む。そうすると今度は一青の唇がちゅ。と、唇にキスをくれた。

「わかる? 吸魔の十三もほかの呪いも……解けたよ?」

 つつ。と、指先で翡翠の腹のあたりに触れて、一青は言った。

「え? とけた……?」

 その言葉に翡翠は一青に抱きしめられたまま、自分の掌を見た。それから、ゆっくりと目を閉じて自分の中にある魔光の感覚を探る。

「……なに……? これ」

 不思議な感覚だった。
 身体の奥に川が流れている。それは、翡翠の奥から溢れ出す湧水が流れる清流だ。水は清らかで、淀みなく、翡翠の身体の外へと流れて行った。
 その感覚で気づく。今までは淀んだ澱が無理矢理何かに吸い出されていたような感覚だった。吸い出しきれない淀みが翡翠の中に溜まって、余計に濁っていく。
 それがすべて、清流に洗われて、流されて、生まれ変わったような気持だった。

「……これが……ゲート……?」

 妙にクリアに見える視界。今まで油の中にでも漬かっていたのではないかと思えるくらいに肌に触れる空気の感触も違う。もちろん、肌に触れる一青の肌の感覚も、びっくりするくらいに鮮明だ。身体も軽いし、痛むところもない。

「一青……」

 少しだけ身体を離して一青を見つめる。
 なんだか、きらきらと光っているように見える。今まで、暗闇にでもいたんじゃないかと思えるほど、一青の顔がよく見える。
 その顔は信じられないくらいに綺麗だった。
 そして、翡翠はまた、彼に恋をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...