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The Ugly Duckling
engagement 2/11
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「翡翠」
目が覚めると、頬を涙が流れていた。けれど、驚くほど心が温かい。泣きながら目覚めることはよくあったけれど、こんな気持ちになるのは初めてだった。
「翡翠……大丈夫か?」
涙と微睡で霞んだ視界が徐々に焦点を結ぶと、顔を覗き込んでいるのは、愛おしい人だった。
綺麗な青い瞳。さらさらと青い髪。長い睫毛の先まで、綺麗でないところなんてどこにもない。
「……いっせ……い?」
状況は全く理解できない。
けれど、何かいつもとは違っている。
焦点が合うと、視界はいつもよりずっと広くて明るい気がした。それから、さらさらと清らかで透明な何かが自分の身体の奥から流れているような感覚がする。それは、翡翠の身体を洗い流しているようでとても心地いい。
「俺……あ……れ?」
そ。っと、一青の手で頭を撫でられて、翡翠ははっとした。
「え? え? あ……ちょ……っ。ま……」
ベッドに寝かされた翡翠は何も身に着けてはいなかった。もちろん、彼の上に重なるようにしている一青も同じだ。
それだけではない。
「……え? あ……ん……っ。はい……って……?」
そこはあの特別室だ。
大きなベッドの上で何も身に着けずに、横になって脚を大きく開かれている。その間に身体を割り込ませた一青のソレは既に翡翠の胎内に納まっていた。
「……な……で? 一青……っ。俺……え?」
翡翠のあまりの狼狽ぶりに、少し罰の悪そうな顔をして、一青はぎゅ。と、その細い身体を抱きしめる。素肌を通して一青の体温を感じて、余計に何が何だか分からなくなってしまった。
「ごめん。翡翠。なんか、寝込み襲うとか……。初めてが……こんなんとか、マジであり得ないけど……」
一青の低い声が耳孔を擽る。そのまま、唇が耳朶に触れて、くすぐったいような甘ったるい感覚に翡翠は身を竦めた。
「ホント、ごめん。苦しくない?」
ちゅ。ちゅ。と、可愛い音をさせて、一青の唇が耳朶や首筋にあやすようなキスをくれる。すごく申し訳なさそうにしているけれど、翡翠は芥子粒ほどにも嫌だとは思っていなかった。ただ、驚いているだけだ。
「……へ……き……。ん……ふ」
意識してしまって、声が出そうになって、翡翠はぎゅ。と、唇を噛む。そうすると今度は一青の唇がちゅ。と、唇にキスをくれた。
「わかる? 吸魔の十三もほかの呪いも……解けたよ?」
つつ。と、指先で翡翠の腹のあたりに触れて、一青は言った。
「え? とけた……?」
その言葉に翡翠は一青に抱きしめられたまま、自分の掌を見た。それから、ゆっくりと目を閉じて自分の中にある魔光の感覚を探る。
「……なに……? これ」
不思議な感覚だった。
身体の奥に川が流れている。それは、翡翠の奥から溢れ出す湧水が流れる清流だ。水は清らかで、淀みなく、翡翠の身体の外へと流れて行った。
その感覚で気づく。今までは淀んだ澱が無理矢理何かに吸い出されていたような感覚だった。吸い出しきれない淀みが翡翠の中に溜まって、余計に濁っていく。
それがすべて、清流に洗われて、流されて、生まれ変わったような気持だった。
「……これが……ゲート……?」
妙にクリアに見える視界。今まで油の中にでも漬かっていたのではないかと思えるくらいに肌に触れる空気の感触も違う。もちろん、肌に触れる一青の肌の感覚も、びっくりするくらいに鮮明だ。身体も軽いし、痛むところもない。
「一青……」
少しだけ身体を離して一青を見つめる。
なんだか、きらきらと光っているように見える。今まで、暗闇にでもいたんじゃないかと思えるほど、一青の顔がよく見える。
その顔は信じられないくらいに綺麗だった。
そして、翡翠はまた、彼に恋をした。
目が覚めると、頬を涙が流れていた。けれど、驚くほど心が温かい。泣きながら目覚めることはよくあったけれど、こんな気持ちになるのは初めてだった。
「翡翠……大丈夫か?」
涙と微睡で霞んだ視界が徐々に焦点を結ぶと、顔を覗き込んでいるのは、愛おしい人だった。
綺麗な青い瞳。さらさらと青い髪。長い睫毛の先まで、綺麗でないところなんてどこにもない。
「……いっせ……い?」
状況は全く理解できない。
けれど、何かいつもとは違っている。
焦点が合うと、視界はいつもよりずっと広くて明るい気がした。それから、さらさらと清らかで透明な何かが自分の身体の奥から流れているような感覚がする。それは、翡翠の身体を洗い流しているようでとても心地いい。
「俺……あ……れ?」
そ。っと、一青の手で頭を撫でられて、翡翠ははっとした。
「え? え? あ……ちょ……っ。ま……」
ベッドに寝かされた翡翠は何も身に着けてはいなかった。もちろん、彼の上に重なるようにしている一青も同じだ。
それだけではない。
「……え? あ……ん……っ。はい……って……?」
そこはあの特別室だ。
大きなベッドの上で何も身に着けずに、横になって脚を大きく開かれている。その間に身体を割り込ませた一青のソレは既に翡翠の胎内に納まっていた。
「……な……で? 一青……っ。俺……え?」
翡翠のあまりの狼狽ぶりに、少し罰の悪そうな顔をして、一青はぎゅ。と、その細い身体を抱きしめる。素肌を通して一青の体温を感じて、余計に何が何だか分からなくなってしまった。
「ごめん。翡翠。なんか、寝込み襲うとか……。初めてが……こんなんとか、マジであり得ないけど……」
一青の低い声が耳孔を擽る。そのまま、唇が耳朶に触れて、くすぐったいような甘ったるい感覚に翡翠は身を竦めた。
「ホント、ごめん。苦しくない?」
ちゅ。ちゅ。と、可愛い音をさせて、一青の唇が耳朶や首筋にあやすようなキスをくれる。すごく申し訳なさそうにしているけれど、翡翠は芥子粒ほどにも嫌だとは思っていなかった。ただ、驚いているだけだ。
「……へ……き……。ん……ふ」
意識してしまって、声が出そうになって、翡翠はぎゅ。と、唇を噛む。そうすると今度は一青の唇がちゅ。と、唇にキスをくれた。
「わかる? 吸魔の十三もほかの呪いも……解けたよ?」
つつ。と、指先で翡翠の腹のあたりに触れて、一青は言った。
「え? とけた……?」
その言葉に翡翠は一青に抱きしめられたまま、自分の掌を見た。それから、ゆっくりと目を閉じて自分の中にある魔光の感覚を探る。
「……なに……? これ」
不思議な感覚だった。
身体の奥に川が流れている。それは、翡翠の奥から溢れ出す湧水が流れる清流だ。水は清らかで、淀みなく、翡翠の身体の外へと流れて行った。
その感覚で気づく。今までは淀んだ澱が無理矢理何かに吸い出されていたような感覚だった。吸い出しきれない淀みが翡翠の中に溜まって、余計に濁っていく。
それがすべて、清流に洗われて、流されて、生まれ変わったような気持だった。
「……これが……ゲート……?」
妙にクリアに見える視界。今まで油の中にでも漬かっていたのではないかと思えるくらいに肌に触れる空気の感触も違う。もちろん、肌に触れる一青の肌の感覚も、びっくりするくらいに鮮明だ。身体も軽いし、痛むところもない。
「一青……」
少しだけ身体を離して一青を見つめる。
なんだか、きらきらと光っているように見える。今まで、暗闇にでもいたんじゃないかと思えるほど、一青の顔がよく見える。
その顔は信じられないくらいに綺麗だった。
そして、翡翠はまた、彼に恋をした。
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