【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

文字の大きさ
上 下
73 / 224
The Ugly Duckling

Absolute Zero 7/12

しおりを挟む
 まっすぐな瞳は、一青にそっくりだった。だから、翡翠は一青に聞かれているような気持になる。
 好きだ。
 伴侶になってほしい。
 と言ってくれた、一青の顔を思い出す。泣きたくなるほど一青が好きだ。
 彼に出会ったのはほんの数日前だけれど、今まで出会った誰よりも翡翠の心を占めている。
 けれど。いや、だからこそ。
 翡翠は思う。

「……無理です。一青は……俺なんかに縛られちゃだめだ」

 思った通りに、翡翠は国政に答えていた。
 昨日と同じだ。腹は痛まない。痛むのは胸だった。

「俺……魔法庁の用意したゲートキーパーと、契約します。この後の行動もすべて魔法庁の指示に従います。俺のこと利用していただいて構いません」

 あんなに悩んだのに、決めてしまえば言葉はすらすらと出てきた。
 たぶん、翡翠が知らなかった一青の本当の姿が、自分とはあまりにかけ離れていたからだ。
 やっぱり、これは夢なのだ。地を這う芋虫が一瞬だけ見た夢だ。あんまり綺麗な蝶が、あんまり近くまで来てくれたから、自分も飛べるのだと勘違いしてしまったのだ。けれど、きっと、芋虫は空を飛べはしない。地に落ちて潰れるだけだ。そんな芋虫の無様な姿で、綺麗な蝶の心を乱してはいけない。
 だから、もう、夢からは醒めないといけないのだ。

「一青を……いえ。ご子息を惑わせてしまって申し訳ありませんでした。今後は……国家と国民への奉仕を第一に考えて……その……きっと、お役に立てると思います」

 そう言って翡翠は微笑んだ。国政のまっすぐな瞳は見られなかった。まるで、一青に責められているようで、とても見てはいられなかった。

「一青は……一体、何をしていたのだ……」

 ぼそり。と、国政は呟くように言う。それがよく聞こえなくても、翡翠は彼の顔を見た。

「魔法庁の用意したゲートキーパーは私だ。それでも、契約するというのか?」

 国政はやっぱり、まっすぐに翡翠を見ていた。その顔はとても真剣でとても嘘をついているようには見えない。

「私は今年で43歳になる。君は確か23歳だったな。私の年齢では、君と最期までともにあることはできないだろう。
 けれど、6型のゲートキーパーで、君のゲートに足りる扉を持っているものは、日本国内には4人しかいない。私と一青。現在56歳の男性。もう一人は女性だ。
 君に最も相応しいのは一青だが、契約が不可能なら次の候補は私ということになる」

 嘘を吐ているようには見えないけれど、国政の言葉妙に淡々としていて、現実味がなかった。

「……待ってください……え? でも……っ。あなたには奥様が」

 漠然と考えてはいた。6型のゲートキーパーは少ない。翡翠には選り好みをするような権利もなければ、それを許す状況でもない。
 けれど、まさか、そこまで6型ゲートキーパーの数が少ないとは思ってはいなかったし、自分のゲートがそこまで大きいものとは思っていなかった。一青が何も言わずに自分のゲートキーパーになってくれると言ってくれたので、それが稀有なことなのだと気づかなかったのだ。

「私と妻は夫婦という意味では愛し合ってはいない。契約を交わして共にいるだけだ。それは、妻も認めている。妻には友情は感じているが、妻にも、私にも別に愛している人がいる。
 しかし、君も知っているだろうが、私の愛している人はもう、この世にはいない。人助けのためなら……あいつは許してくれるだろう」

 あいつ。という言葉を彼は本当に本当に優しく言った。その人を宝物のように思っているのだと分かる。きっと、それは緋色のことだ。こんなふうに愛されているから、緋色は一青と紅二にありったけの愛を注げたのだろう。
 心の中にそんな人がいる人に、自分の相手なんてさせてもいいのだろうか。
 翡翠は思う。
 それは、一青や紅二を産んでくれたその人への冒涜ではないのだろうか。

「いいかね? 翡翠君。君はゲートだ。それは望んだことではないだろうが、紛れもない事実だ。君が望むと望まざるとにかかわらず、君はこの国にとって最も重要な人物になってしまった。
 魔法庁の長官である私は、その君を失わないために、最善を尽くす義務がある。それが、国民に選ばれた者の務めだと思っている。
 だから、今話したことをすべて納得して、それでも君がいいというなら、私は君と契約しよう。もちろん、吸魔の十三は私が解く」

 真剣な眼差しに、翡翠は俯いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...