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The Ugly Duckling
Absolute Zero 7/12
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まっすぐな瞳は、一青にそっくりだった。だから、翡翠は一青に聞かれているような気持になる。
好きだ。
伴侶になってほしい。
と言ってくれた、一青の顔を思い出す。泣きたくなるほど一青が好きだ。
彼に出会ったのはほんの数日前だけれど、今まで出会った誰よりも翡翠の心を占めている。
けれど。いや、だからこそ。
翡翠は思う。
「……無理です。一青は……俺なんかに縛られちゃだめだ」
思った通りに、翡翠は国政に答えていた。
昨日と同じだ。腹は痛まない。痛むのは胸だった。
「俺……魔法庁の用意したゲートキーパーと、契約します。この後の行動もすべて魔法庁の指示に従います。俺のこと利用していただいて構いません」
あんなに悩んだのに、決めてしまえば言葉はすらすらと出てきた。
たぶん、翡翠が知らなかった一青の本当の姿が、自分とはあまりにかけ離れていたからだ。
やっぱり、これは夢なのだ。地を這う芋虫が一瞬だけ見た夢だ。あんまり綺麗な蝶が、あんまり近くまで来てくれたから、自分も飛べるのだと勘違いしてしまったのだ。けれど、きっと、芋虫は空を飛べはしない。地に落ちて潰れるだけだ。そんな芋虫の無様な姿で、綺麗な蝶の心を乱してはいけない。
だから、もう、夢からは醒めないといけないのだ。
「一青を……いえ。ご子息を惑わせてしまって申し訳ありませんでした。今後は……国家と国民への奉仕を第一に考えて……その……きっと、お役に立てると思います」
そう言って翡翠は微笑んだ。国政のまっすぐな瞳は見られなかった。まるで、一青に責められているようで、とても見てはいられなかった。
「一青は……一体、何をしていたのだ……」
ぼそり。と、国政は呟くように言う。それがよく聞こえなくても、翡翠は彼の顔を見た。
「魔法庁の用意したゲートキーパーは私だ。それでも、契約するというのか?」
国政はやっぱり、まっすぐに翡翠を見ていた。その顔はとても真剣でとても嘘をついているようには見えない。
「私は今年で43歳になる。君は確か23歳だったな。私の年齢では、君と最期までともにあることはできないだろう。
けれど、6型のゲートキーパーで、君のゲートに足りる扉を持っているものは、日本国内には4人しかいない。私と一青。現在56歳の男性。もう一人は女性だ。
君に最も相応しいのは一青だが、契約が不可能なら次の候補は私ということになる」
嘘を吐ているようには見えないけれど、国政の言葉妙に淡々としていて、現実味がなかった。
「……待ってください……え? でも……っ。あなたには奥様が」
漠然と考えてはいた。6型のゲートキーパーは少ない。翡翠には選り好みをするような権利もなければ、それを許す状況でもない。
けれど、まさか、そこまで6型ゲートキーパーの数が少ないとは思ってはいなかったし、自分のゲートがそこまで大きいものとは思っていなかった。一青が何も言わずに自分のゲートキーパーになってくれると言ってくれたので、それが稀有なことなのだと気づかなかったのだ。
「私と妻は夫婦という意味では愛し合ってはいない。契約を交わして共にいるだけだ。それは、妻も認めている。妻には友情は感じているが、妻にも、私にも別に愛している人がいる。
しかし、君も知っているだろうが、私の愛している人はもう、この世にはいない。人助けのためなら……あいつは許してくれるだろう」
あいつ。という言葉を彼は本当に本当に優しく言った。その人を宝物のように思っているのだと分かる。きっと、それは緋色のことだ。こんなふうに愛されているから、緋色は一青と紅二にありったけの愛を注げたのだろう。
心の中にそんな人がいる人に、自分の相手なんてさせてもいいのだろうか。
翡翠は思う。
それは、一青や紅二を産んでくれたその人への冒涜ではないのだろうか。
「いいかね? 翡翠君。君はゲートだ。それは望んだことではないだろうが、紛れもない事実だ。君が望むと望まざるとにかかわらず、君はこの国にとって最も重要な人物になってしまった。
魔法庁の長官である私は、その君を失わないために、最善を尽くす義務がある。それが、国民に選ばれた者の務めだと思っている。
だから、今話したことをすべて納得して、それでも君がいいというなら、私は君と契約しよう。もちろん、吸魔の十三は私が解く」
真剣な眼差しに、翡翠は俯いた。
好きだ。
伴侶になってほしい。
と言ってくれた、一青の顔を思い出す。泣きたくなるほど一青が好きだ。
彼に出会ったのはほんの数日前だけれど、今まで出会った誰よりも翡翠の心を占めている。
けれど。いや、だからこそ。
翡翠は思う。
「……無理です。一青は……俺なんかに縛られちゃだめだ」
思った通りに、翡翠は国政に答えていた。
昨日と同じだ。腹は痛まない。痛むのは胸だった。
「俺……魔法庁の用意したゲートキーパーと、契約します。この後の行動もすべて魔法庁の指示に従います。俺のこと利用していただいて構いません」
あんなに悩んだのに、決めてしまえば言葉はすらすらと出てきた。
たぶん、翡翠が知らなかった一青の本当の姿が、自分とはあまりにかけ離れていたからだ。
やっぱり、これは夢なのだ。地を這う芋虫が一瞬だけ見た夢だ。あんまり綺麗な蝶が、あんまり近くまで来てくれたから、自分も飛べるのだと勘違いしてしまったのだ。けれど、きっと、芋虫は空を飛べはしない。地に落ちて潰れるだけだ。そんな芋虫の無様な姿で、綺麗な蝶の心を乱してはいけない。
だから、もう、夢からは醒めないといけないのだ。
「一青を……いえ。ご子息を惑わせてしまって申し訳ありませんでした。今後は……国家と国民への奉仕を第一に考えて……その……きっと、お役に立てると思います」
そう言って翡翠は微笑んだ。国政のまっすぐな瞳は見られなかった。まるで、一青に責められているようで、とても見てはいられなかった。
「一青は……一体、何をしていたのだ……」
ぼそり。と、国政は呟くように言う。それがよく聞こえなくても、翡翠は彼の顔を見た。
「魔法庁の用意したゲートキーパーは私だ。それでも、契約するというのか?」
国政はやっぱり、まっすぐに翡翠を見ていた。その顔はとても真剣でとても嘘をついているようには見えない。
「私は今年で43歳になる。君は確か23歳だったな。私の年齢では、君と最期までともにあることはできないだろう。
けれど、6型のゲートキーパーで、君のゲートに足りる扉を持っているものは、日本国内には4人しかいない。私と一青。現在56歳の男性。もう一人は女性だ。
君に最も相応しいのは一青だが、契約が不可能なら次の候補は私ということになる」
嘘を吐ているようには見えないけれど、国政の言葉妙に淡々としていて、現実味がなかった。
「……待ってください……え? でも……っ。あなたには奥様が」
漠然と考えてはいた。6型のゲートキーパーは少ない。翡翠には選り好みをするような権利もなければ、それを許す状況でもない。
けれど、まさか、そこまで6型ゲートキーパーの数が少ないとは思ってはいなかったし、自分のゲートがそこまで大きいものとは思っていなかった。一青が何も言わずに自分のゲートキーパーになってくれると言ってくれたので、それが稀有なことなのだと気づかなかったのだ。
「私と妻は夫婦という意味では愛し合ってはいない。契約を交わして共にいるだけだ。それは、妻も認めている。妻には友情は感じているが、妻にも、私にも別に愛している人がいる。
しかし、君も知っているだろうが、私の愛している人はもう、この世にはいない。人助けのためなら……あいつは許してくれるだろう」
あいつ。という言葉を彼は本当に本当に優しく言った。その人を宝物のように思っているのだと分かる。きっと、それは緋色のことだ。こんなふうに愛されているから、緋色は一青と紅二にありったけの愛を注げたのだろう。
心の中にそんな人がいる人に、自分の相手なんてさせてもいいのだろうか。
翡翠は思う。
それは、一青や紅二を産んでくれたその人への冒涜ではないのだろうか。
「いいかね? 翡翠君。君はゲートだ。それは望んだことではないだろうが、紛れもない事実だ。君が望むと望まざるとにかかわらず、君はこの国にとって最も重要な人物になってしまった。
魔法庁の長官である私は、その君を失わないために、最善を尽くす義務がある。それが、国民に選ばれた者の務めだと思っている。
だから、今話したことをすべて納得して、それでも君がいいというなら、私は君と契約しよう。もちろん、吸魔の十三は私が解く」
真剣な眼差しに、翡翠は俯いた。
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