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The Ugly Duckling
Absolute Zero 2/12
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けれど、そこまで考えて、翡翠は足を止めた。
別の男に抱かれた自分を一青は許してくれるだろうか。そんな自分と契約を交わしてくれるのだろうか。
「……むり……だ」
一青青との約束を破って、勝手なことをして、その上別の男とセックスしましたなんて、許してもらえるはずがない。
一青と契約を交わせなかったら自分はどうなってしまうのだろう。
ただ、命を落とすだけなら仕方ない。自分のしたことだ。自分で始末をつけるのは当たり前のことだ。スレイヤーである以上。翡翠だってその覚悟は持っている。
けれど、契約相手がいなかったら、翡翠のゲートは魔力崩壊を起こすかもしれない。非公式の記録では、人型ゲートの起こした魔力崩壊で、かつて数十万人規模の都市が一瞬にして消えたことがある。その時のゲートは小+型のゲートだったらしい。小+型ゲートは、数万人規模の地方都市の電力を賄える程度の規模だ。それに対して、翡翠の中にあるのは数十万人規模の都市の電力を賄えるほどの中-型ゲートだ。その中-型ゲートの起こす魔力崩壊がどれほどのものになるのか、想像すらつかない。
恐らく、魔力崩壊の危険が高まったとしたら、一青は仕方なくでも、自分と契約を交わしてくれるだろう。けれど、好きな人に嫌われたり、蔑まれたまま、行為をしなければならないことも、その後の人生でずっと交流を持たなければならないことも、きっと、耐えがたい苦痛だろう。
「じゃ……どうすれば、いいっていうんだよ……」
どうしようもない状況に瞳の縁に涙が溜まる。
一青が呪いを解く方法を見つけてくれるのを待つしかないのだろうか。それが叶わなかったときになって後悔しても遅いのに。
こんこん。
そんなジレンマに唇を噛んで俯いたのと、ドアをノックする音は同時だった。
その音に翡翠ははっとして身構える。ドアが叩かれる瞬間まで、全く気付かなかった。
『昨日とは違う』
翡翠は思う。
頭の中に警鐘が響く。
このノックは危険だ。スレイヤーとしての本能のようなものが、そう告げていた。
こんこん。
ノックの音が聞こえているというのに、ドアの向こうにいる人物の気配のようなものが何も感じられない。昨日、小池看護師が来た時にはちゃんとドアの外の気配は感じられた。防音がしっかりしているとかそんな意味ではない。
もちろん、小池看護師が来た時には、ドアを叩かれる前に足音には気づいていた。気づいていて、それが危険なものではないと瞬時に判断を下したのだ。高熱で感覚が鈍っているのにも関わらず。だ。
翡翠のような非力なスレイヤーにとっては、危険を察知する能力は不可欠なのだ。それが欠けていては生き残ることなんてできない。
けれど、今日は何も感じなかった。
それは、ドアの向こうの訪問者が、翡翠に気配を悟られないようにそれを隠しているのを意味していた。
こんこん。
三回目のノック。
気配を悟られないようにしているのにも関わらず、ノックする意味。
それは、恐らく戦闘になることを想定している。突入は回避できないが、相手に自分の実力を悟られてはいけないという論理的思考の帰結なのだろう。
そんなことを考えている間に、翡翠の答えを待たずにドアが開いた。
別の男に抱かれた自分を一青は許してくれるだろうか。そんな自分と契約を交わしてくれるのだろうか。
「……むり……だ」
一青青との約束を破って、勝手なことをして、その上別の男とセックスしましたなんて、許してもらえるはずがない。
一青と契約を交わせなかったら自分はどうなってしまうのだろう。
ただ、命を落とすだけなら仕方ない。自分のしたことだ。自分で始末をつけるのは当たり前のことだ。スレイヤーである以上。翡翠だってその覚悟は持っている。
けれど、契約相手がいなかったら、翡翠のゲートは魔力崩壊を起こすかもしれない。非公式の記録では、人型ゲートの起こした魔力崩壊で、かつて数十万人規模の都市が一瞬にして消えたことがある。その時のゲートは小+型のゲートだったらしい。小+型ゲートは、数万人規模の地方都市の電力を賄える程度の規模だ。それに対して、翡翠の中にあるのは数十万人規模の都市の電力を賄えるほどの中-型ゲートだ。その中-型ゲートの起こす魔力崩壊がどれほどのものになるのか、想像すらつかない。
恐らく、魔力崩壊の危険が高まったとしたら、一青は仕方なくでも、自分と契約を交わしてくれるだろう。けれど、好きな人に嫌われたり、蔑まれたまま、行為をしなければならないことも、その後の人生でずっと交流を持たなければならないことも、きっと、耐えがたい苦痛だろう。
「じゃ……どうすれば、いいっていうんだよ……」
どうしようもない状況に瞳の縁に涙が溜まる。
一青が呪いを解く方法を見つけてくれるのを待つしかないのだろうか。それが叶わなかったときになって後悔しても遅いのに。
こんこん。
そんなジレンマに唇を噛んで俯いたのと、ドアをノックする音は同時だった。
その音に翡翠ははっとして身構える。ドアが叩かれる瞬間まで、全く気付かなかった。
『昨日とは違う』
翡翠は思う。
頭の中に警鐘が響く。
このノックは危険だ。スレイヤーとしての本能のようなものが、そう告げていた。
こんこん。
ノックの音が聞こえているというのに、ドアの向こうにいる人物の気配のようなものが何も感じられない。昨日、小池看護師が来た時にはちゃんとドアの外の気配は感じられた。防音がしっかりしているとかそんな意味ではない。
もちろん、小池看護師が来た時には、ドアを叩かれる前に足音には気づいていた。気づいていて、それが危険なものではないと瞬時に判断を下したのだ。高熱で感覚が鈍っているのにも関わらず。だ。
翡翠のような非力なスレイヤーにとっては、危険を察知する能力は不可欠なのだ。それが欠けていては生き残ることなんてできない。
けれど、今日は何も感じなかった。
それは、ドアの向こうの訪問者が、翡翠に気配を悟られないようにそれを隠しているのを意味していた。
こんこん。
三回目のノック。
気配を悟られないようにしているのにも関わらず、ノックする意味。
それは、恐らく戦闘になることを想定している。突入は回避できないが、相手に自分の実力を悟られてはいけないという論理的思考の帰結なのだろう。
そんなことを考えている間に、翡翠の答えを待たずにドアが開いた。
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