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The Ugly Duckling
Divide the pain 4/7
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額に触れる、ひやり。と、心地よい感覚に、翡翠は重い瞼を開いた。目が腫れぼったい。おそらくは、泣いたせいだ。けれど、思っていたよりも頭はすっきりとしていた。
「あ。ごめん。起こしちゃったな。でも……少し熱下がったみたいだ」
額に触れる手は一青の手だった。大きくて、冷たくて、火照った額に気持ちがいい。
「気持ちいい? もっと、冷やそうか?」
青くて綺麗な瞳が見つめている。今日も綺麗だ。
ぼーっと、半覚醒のような頭で翡翠は思う。
「ん。ぁ……きも……ちい……」
とろん。と、蕩けたような瞳で答えると、一青は驚いた顔をしてから、少しだけ頬を染めた。
「翡翠……もしかして……寝ぼけてる?」
一青の言っている意味が分からなくて、翡翠は横になったまま首を傾げた。
「それ。可愛すぎ……」
そう言って一青が唇にちゅ。と、可愛い音がするキスをくれた。
「……え? あ? あれ?」
その感触で意識がはっきりしてくる。唇が離れた後も、一青の顔が近い。ゆったりと微笑んで、翡翠の顔をじっと見ている。
「……あ。……えと。一青……く……ん……おはよう」
あまりの近さに何と言っていいのかわからなくて、翡翠は一番凡庸な言葉でお茶を濁した。
「また、一青君?」
もう、唇が触れているくらいの近さで一青が言う。
「……や……あの……一青……ちか……い」
翡翠の呼び方が、“一青”に戻ると、満足そうに一青の顔が離れた。
「少し、体調よさそうだな。昨日、茂さんのところで倒れたって聞いたときは心臓止まるかと思った」
もう一度、翡翠の額に手を触れて、熱が下がったのを確認して一青が笑う。そういえば、大泉のところに行った後の記憶は酷く曖昧だった。大泉は大切なことを言っていたような、それをしっかり覚えておきなさいと言われたような気がする。けれど、それがどんなことだったのか思い出せない。
「茂さん。何の話だった?」
一青は何気なく聞いたのだと思う。けれど、少し緊張の色が見えていたような気がした。
「あ……と。たしか……あ。そだ。6型ゲートキーパー。見つかったけど……断られたって。ゲート、大きすぎて、扉が足りないって……たしか。そんな感じのこと」
その答えに、一青は少しほっとしたように見えた。見えただけなのかもしれない。
「そか。な。……翡翠。あのさ。俺で。いいよな?」
いつもはっきりと言いたいことを言う、一青には珍しい。歯切れの悪い言い方だった。
「え?」
言わんとしていることがわからなくて、翡翠は問い返す。
「俺が、翡翠のゲートキーパーになっていいんだよな? あ。や。ごめん。答えるの……キツイ?」
一青の問いに、翡翠は小さく首を横に振った。それから、今度は頷く。
言葉にはできなかった。腹の疼痛はそれだけでも冷や汗が出そうなくらいだった。
「……わり。……でも、ありがと。ホント……ごめん。あー。その。不安……だったからさ。……ホント……かっこわり」
顔を赤くして、一青はそっぽを向いてしまった。それが、なんだか可愛いと思ってしまう。
「つか……その。身体起こせる? 看護師さん。メシ持ってきてくれたけど」
照れ隠しのように、そっぽを向いたまま一青が言った。早く話を逸らしてしまいたいという思いが見え隠れしているけれど、もっと、その可愛い顔を見ていたい。
「起きられる……けど」
身体に力を入れて、起そうとすると、一青が手を貸してくれる。昨日のような、熱に浮かされた感覚はないけれど、食べ物が喉を通る気がしなかった。
「……食欲は……あんまり」
翡翠の答えに、また、心配そうな表情を浮かべて、一青が頬を撫でる。
「こんなに細いのに……少しでも食べたほうがいいけど……」
心配してくれるのは分かっている。
けれど、身体が受け付けてはくれそうにない。もともと、食欲が旺盛なほうではない。アカデミー時代も、監禁生活中も、生命維持に必要最低限の食事しか摂ってはいない。そもそも、食事をして、楽しいとか美味しいとか感じることすら少ない。だからこそ料理が趣味だったのだ。少しでも美味しいと感じるものを、誰かと共有したいという思いで、いつも料理をしていた。
「無理に食べて気分悪くなったら困るよな」
そう言って一青は小さくため息を吐いた。
「あ。ごめん。起こしちゃったな。でも……少し熱下がったみたいだ」
額に触れる手は一青の手だった。大きくて、冷たくて、火照った額に気持ちがいい。
「気持ちいい? もっと、冷やそうか?」
青くて綺麗な瞳が見つめている。今日も綺麗だ。
ぼーっと、半覚醒のような頭で翡翠は思う。
「ん。ぁ……きも……ちい……」
とろん。と、蕩けたような瞳で答えると、一青は驚いた顔をしてから、少しだけ頬を染めた。
「翡翠……もしかして……寝ぼけてる?」
一青の言っている意味が分からなくて、翡翠は横になったまま首を傾げた。
「それ。可愛すぎ……」
そう言って一青が唇にちゅ。と、可愛い音がするキスをくれた。
「……え? あ? あれ?」
その感触で意識がはっきりしてくる。唇が離れた後も、一青の顔が近い。ゆったりと微笑んで、翡翠の顔をじっと見ている。
「……あ。……えと。一青……く……ん……おはよう」
あまりの近さに何と言っていいのかわからなくて、翡翠は一番凡庸な言葉でお茶を濁した。
「また、一青君?」
もう、唇が触れているくらいの近さで一青が言う。
「……や……あの……一青……ちか……い」
翡翠の呼び方が、“一青”に戻ると、満足そうに一青の顔が離れた。
「少し、体調よさそうだな。昨日、茂さんのところで倒れたって聞いたときは心臓止まるかと思った」
もう一度、翡翠の額に手を触れて、熱が下がったのを確認して一青が笑う。そういえば、大泉のところに行った後の記憶は酷く曖昧だった。大泉は大切なことを言っていたような、それをしっかり覚えておきなさいと言われたような気がする。けれど、それがどんなことだったのか思い出せない。
「茂さん。何の話だった?」
一青は何気なく聞いたのだと思う。けれど、少し緊張の色が見えていたような気がした。
「あ……と。たしか……あ。そだ。6型ゲートキーパー。見つかったけど……断られたって。ゲート、大きすぎて、扉が足りないって……たしか。そんな感じのこと」
その答えに、一青は少しほっとしたように見えた。見えただけなのかもしれない。
「そか。な。……翡翠。あのさ。俺で。いいよな?」
いつもはっきりと言いたいことを言う、一青には珍しい。歯切れの悪い言い方だった。
「え?」
言わんとしていることがわからなくて、翡翠は問い返す。
「俺が、翡翠のゲートキーパーになっていいんだよな? あ。や。ごめん。答えるの……キツイ?」
一青の問いに、翡翠は小さく首を横に振った。それから、今度は頷く。
言葉にはできなかった。腹の疼痛はそれだけでも冷や汗が出そうなくらいだった。
「……わり。……でも、ありがと。ホント……ごめん。あー。その。不安……だったからさ。……ホント……かっこわり」
顔を赤くして、一青はそっぽを向いてしまった。それが、なんだか可愛いと思ってしまう。
「つか……その。身体起こせる? 看護師さん。メシ持ってきてくれたけど」
照れ隠しのように、そっぽを向いたまま一青が言った。早く話を逸らしてしまいたいという思いが見え隠れしているけれど、もっと、その可愛い顔を見ていたい。
「起きられる……けど」
身体に力を入れて、起そうとすると、一青が手を貸してくれる。昨日のような、熱に浮かされた感覚はないけれど、食べ物が喉を通る気がしなかった。
「……食欲は……あんまり」
翡翠の答えに、また、心配そうな表情を浮かべて、一青が頬を撫でる。
「こんなに細いのに……少しでも食べたほうがいいけど……」
心配してくれるのは分かっている。
けれど、身体が受け付けてはくれそうにない。もともと、食欲が旺盛なほうではない。アカデミー時代も、監禁生活中も、生命維持に必要最低限の食事しか摂ってはいない。そもそも、食事をして、楽しいとか美味しいとか感じることすら少ない。だからこそ料理が趣味だったのだ。少しでも美味しいと感じるものを、誰かと共有したいという思いで、いつも料理をしていた。
「無理に食べて気分悪くなったら困るよな」
そう言って一青は小さくため息を吐いた。
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