63 / 224
The Ugly Duckling
Divide the pain 4/7
しおりを挟む
額に触れる、ひやり。と、心地よい感覚に、翡翠は重い瞼を開いた。目が腫れぼったい。おそらくは、泣いたせいだ。けれど、思っていたよりも頭はすっきりとしていた。
「あ。ごめん。起こしちゃったな。でも……少し熱下がったみたいだ」
額に触れる手は一青の手だった。大きくて、冷たくて、火照った額に気持ちがいい。
「気持ちいい? もっと、冷やそうか?」
青くて綺麗な瞳が見つめている。今日も綺麗だ。
ぼーっと、半覚醒のような頭で翡翠は思う。
「ん。ぁ……きも……ちい……」
とろん。と、蕩けたような瞳で答えると、一青は驚いた顔をしてから、少しだけ頬を染めた。
「翡翠……もしかして……寝ぼけてる?」
一青の言っている意味が分からなくて、翡翠は横になったまま首を傾げた。
「それ。可愛すぎ……」
そう言って一青が唇にちゅ。と、可愛い音がするキスをくれた。
「……え? あ? あれ?」
その感触で意識がはっきりしてくる。唇が離れた後も、一青の顔が近い。ゆったりと微笑んで、翡翠の顔をじっと見ている。
「……あ。……えと。一青……く……ん……おはよう」
あまりの近さに何と言っていいのかわからなくて、翡翠は一番凡庸な言葉でお茶を濁した。
「また、一青君?」
もう、唇が触れているくらいの近さで一青が言う。
「……や……あの……一青……ちか……い」
翡翠の呼び方が、“一青”に戻ると、満足そうに一青の顔が離れた。
「少し、体調よさそうだな。昨日、茂さんのところで倒れたって聞いたときは心臓止まるかと思った」
もう一度、翡翠の額に手を触れて、熱が下がったのを確認して一青が笑う。そういえば、大泉のところに行った後の記憶は酷く曖昧だった。大泉は大切なことを言っていたような、それをしっかり覚えておきなさいと言われたような気がする。けれど、それがどんなことだったのか思い出せない。
「茂さん。何の話だった?」
一青は何気なく聞いたのだと思う。けれど、少し緊張の色が見えていたような気がした。
「あ……と。たしか……あ。そだ。6型ゲートキーパー。見つかったけど……断られたって。ゲート、大きすぎて、扉が足りないって……たしか。そんな感じのこと」
その答えに、一青は少しほっとしたように見えた。見えただけなのかもしれない。
「そか。な。……翡翠。あのさ。俺で。いいよな?」
いつもはっきりと言いたいことを言う、一青には珍しい。歯切れの悪い言い方だった。
「え?」
言わんとしていることがわからなくて、翡翠は問い返す。
「俺が、翡翠のゲートキーパーになっていいんだよな? あ。や。ごめん。答えるの……キツイ?」
一青の問いに、翡翠は小さく首を横に振った。それから、今度は頷く。
言葉にはできなかった。腹の疼痛はそれだけでも冷や汗が出そうなくらいだった。
「……わり。……でも、ありがと。ホント……ごめん。あー。その。不安……だったからさ。……ホント……かっこわり」
顔を赤くして、一青はそっぽを向いてしまった。それが、なんだか可愛いと思ってしまう。
「つか……その。身体起こせる? 看護師さん。メシ持ってきてくれたけど」
照れ隠しのように、そっぽを向いたまま一青が言った。早く話を逸らしてしまいたいという思いが見え隠れしているけれど、もっと、その可愛い顔を見ていたい。
「起きられる……けど」
身体に力を入れて、起そうとすると、一青が手を貸してくれる。昨日のような、熱に浮かされた感覚はないけれど、食べ物が喉を通る気がしなかった。
「……食欲は……あんまり」
翡翠の答えに、また、心配そうな表情を浮かべて、一青が頬を撫でる。
「こんなに細いのに……少しでも食べたほうがいいけど……」
心配してくれるのは分かっている。
けれど、身体が受け付けてはくれそうにない。もともと、食欲が旺盛なほうではない。アカデミー時代も、監禁生活中も、生命維持に必要最低限の食事しか摂ってはいない。そもそも、食事をして、楽しいとか美味しいとか感じることすら少ない。だからこそ料理が趣味だったのだ。少しでも美味しいと感じるものを、誰かと共有したいという思いで、いつも料理をしていた。
「無理に食べて気分悪くなったら困るよな」
そう言って一青は小さくため息を吐いた。
「あ。ごめん。起こしちゃったな。でも……少し熱下がったみたいだ」
額に触れる手は一青の手だった。大きくて、冷たくて、火照った額に気持ちがいい。
「気持ちいい? もっと、冷やそうか?」
青くて綺麗な瞳が見つめている。今日も綺麗だ。
ぼーっと、半覚醒のような頭で翡翠は思う。
「ん。ぁ……きも……ちい……」
とろん。と、蕩けたような瞳で答えると、一青は驚いた顔をしてから、少しだけ頬を染めた。
「翡翠……もしかして……寝ぼけてる?」
一青の言っている意味が分からなくて、翡翠は横になったまま首を傾げた。
「それ。可愛すぎ……」
そう言って一青が唇にちゅ。と、可愛い音がするキスをくれた。
「……え? あ? あれ?」
その感触で意識がはっきりしてくる。唇が離れた後も、一青の顔が近い。ゆったりと微笑んで、翡翠の顔をじっと見ている。
「……あ。……えと。一青……く……ん……おはよう」
あまりの近さに何と言っていいのかわからなくて、翡翠は一番凡庸な言葉でお茶を濁した。
「また、一青君?」
もう、唇が触れているくらいの近さで一青が言う。
「……や……あの……一青……ちか……い」
翡翠の呼び方が、“一青”に戻ると、満足そうに一青の顔が離れた。
「少し、体調よさそうだな。昨日、茂さんのところで倒れたって聞いたときは心臓止まるかと思った」
もう一度、翡翠の額に手を触れて、熱が下がったのを確認して一青が笑う。そういえば、大泉のところに行った後の記憶は酷く曖昧だった。大泉は大切なことを言っていたような、それをしっかり覚えておきなさいと言われたような気がする。けれど、それがどんなことだったのか思い出せない。
「茂さん。何の話だった?」
一青は何気なく聞いたのだと思う。けれど、少し緊張の色が見えていたような気がした。
「あ……と。たしか……あ。そだ。6型ゲートキーパー。見つかったけど……断られたって。ゲート、大きすぎて、扉が足りないって……たしか。そんな感じのこと」
その答えに、一青は少しほっとしたように見えた。見えただけなのかもしれない。
「そか。な。……翡翠。あのさ。俺で。いいよな?」
いつもはっきりと言いたいことを言う、一青には珍しい。歯切れの悪い言い方だった。
「え?」
言わんとしていることがわからなくて、翡翠は問い返す。
「俺が、翡翠のゲートキーパーになっていいんだよな? あ。や。ごめん。答えるの……キツイ?」
一青の問いに、翡翠は小さく首を横に振った。それから、今度は頷く。
言葉にはできなかった。腹の疼痛はそれだけでも冷や汗が出そうなくらいだった。
「……わり。……でも、ありがと。ホント……ごめん。あー。その。不安……だったからさ。……ホント……かっこわり」
顔を赤くして、一青はそっぽを向いてしまった。それが、なんだか可愛いと思ってしまう。
「つか……その。身体起こせる? 看護師さん。メシ持ってきてくれたけど」
照れ隠しのように、そっぽを向いたまま一青が言った。早く話を逸らしてしまいたいという思いが見え隠れしているけれど、もっと、その可愛い顔を見ていたい。
「起きられる……けど」
身体に力を入れて、起そうとすると、一青が手を貸してくれる。昨日のような、熱に浮かされた感覚はないけれど、食べ物が喉を通る気がしなかった。
「……食欲は……あんまり」
翡翠の答えに、また、心配そうな表情を浮かべて、一青が頬を撫でる。
「こんなに細いのに……少しでも食べたほうがいいけど……」
心配してくれるのは分かっている。
けれど、身体が受け付けてはくれそうにない。もともと、食欲が旺盛なほうではない。アカデミー時代も、監禁生活中も、生命維持に必要最低限の食事しか摂ってはいない。そもそも、食事をして、楽しいとか美味しいとか感じることすら少ない。だからこそ料理が趣味だったのだ。少しでも美味しいと感じるものを、誰かと共有したいという思いで、いつも料理をしていた。
「無理に食べて気分悪くなったら困るよな」
そう言って一青は小さくため息を吐いた。
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる