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The Ugly Duckling
Divide the pain 2/7
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「誰がそんな心ないことを……いいかね。水瀬君。誰が何と言おうと、一青は君を選んだ。相応しいかどうかは一青が決めることだ。他人がいうことより、一青のいうことを信じなさい」
「……わ……い」
もう、意識は半分飛んでいた。正常な思考ができたらこんなことは言わない。けれど、言葉が止まってくれなかった。
「……こわい……いっせ……き……と。いなく……なっちゃう……から……れんさん……みたいに」
ぐずる子供みたいにしゃくりあげながらそう言うと、老人は酷く沈痛な表情を浮かべた。
「本当に……君は悲しい思いばかりしてきたのだな。幸せな今が、未来に続いていくことが信じられないのだね。優しい顔をした人間が何度君を裏切ったのか……考えると……居たたまれないな」
目の前の優しく聡明な老人が自分のために悲しい顔をしているのが嫌で、翡翠は首を振る。
「ごめん……なさい。いっせい……うそつき……じゃな……い。
でも……おれ……おれが……きらい……から」
翡翠は自分が嫌いだった。
凡庸だからではない。影が薄いからではない。落ちこぼれだからでも、身体が汚れているからでもない。
ただ、鏡に映る男が生理的に嫌いだった。見ていると吐き気がした。鏡を割ってでも消してしまいたい衝動に駆られて、本当にそうしたこともあった。鏡を割ったことを叱責されて酷く殴られても、また鏡を割りたいと思う衝動を抑えきれなかった。
だから、自分が好きになれない自分を、一青がいつまでも好きでいてくれるなんて、思えなかった。
「水瀬君。それでも、一瞬でいい。一青を信じてやってほしい。
水瀬君。いや。翡翠。よくお聞き。私も、和臣も。緋色君も、一青や紅二の父親も。誰も、何の保証もなくても、お互いの伴侶を信じた。それで私たちは40年共に生きてきた。まあ、いろいろ……あったのだがね。けれど、なくならないものもこの世界には確実にあるのだと知っておいてほしい」
老人が何かとても大切なことを言っているのは分かる。けれど、それがうまく理解できなくて、歯がゆい。
「……しんじて……る。でも……でも。おれ……いっせいが……すき。
すきすぎて……だめ……いたい……おなか……だから……なにも……いえ……ない」
翡翠の言葉に、少し驚いた顔で大泉は翡翠の顔を覗き込んできた。
「翡翠。一青のことが好きだから、腹の紋が痛むのか?」
真剣な表情にまるで責められているような気持になって、翡翠ははらり。と、また涙を零す。
「……ごめ……んなさ……すきで……ごめ」
また泣き出してしまった翡翠に大泉が困った表情になる。それから、頭をそっと撫でてくれた。
「すまない。声を荒げて怖かったな? 翡翠。一青を好きでもいいんだ。いや。君が一青を好きていてくれて、私は嬉しいのだよ? できることなら、君たちが幸せになる手伝いをしたい。
だから、教えてほしい。君の腹の紋が痛むのは、どんなときなんだ?」
今度は努めて優しく、穏やかに大泉は聞いた。顔は真剣だったけれど、瞳は優しい。
「……いっせいをすきっておもう……とき。いっせいのゲートになりたい……っておもうとき。いっせいが……ちかくにいてくれるとき……。
でも……いったら……いっせい……どこかへ……いっちゃ……う」
翡翠の言葉に、大泉は目を細めて笑った。
「そうか。でも、心配は無用だ。一青はどこにも行かない。大丈夫だよ」
老人の言葉を聞きながら、翡翠は意識が遠のいていくのを感じていた。
「ああ。疲れたね。もう、おやすみ。きっと、明日にはうまくいくよ」
そうなればいい。
最後に翡翠が思ったのは、そんなことだった。
「……わ……い」
もう、意識は半分飛んでいた。正常な思考ができたらこんなことは言わない。けれど、言葉が止まってくれなかった。
「……こわい……いっせ……き……と。いなく……なっちゃう……から……れんさん……みたいに」
ぐずる子供みたいにしゃくりあげながらそう言うと、老人は酷く沈痛な表情を浮かべた。
「本当に……君は悲しい思いばかりしてきたのだな。幸せな今が、未来に続いていくことが信じられないのだね。優しい顔をした人間が何度君を裏切ったのか……考えると……居たたまれないな」
目の前の優しく聡明な老人が自分のために悲しい顔をしているのが嫌で、翡翠は首を振る。
「ごめん……なさい。いっせい……うそつき……じゃな……い。
でも……おれ……おれが……きらい……から」
翡翠は自分が嫌いだった。
凡庸だからではない。影が薄いからではない。落ちこぼれだからでも、身体が汚れているからでもない。
ただ、鏡に映る男が生理的に嫌いだった。見ていると吐き気がした。鏡を割ってでも消してしまいたい衝動に駆られて、本当にそうしたこともあった。鏡を割ったことを叱責されて酷く殴られても、また鏡を割りたいと思う衝動を抑えきれなかった。
だから、自分が好きになれない自分を、一青がいつまでも好きでいてくれるなんて、思えなかった。
「水瀬君。それでも、一瞬でいい。一青を信じてやってほしい。
水瀬君。いや。翡翠。よくお聞き。私も、和臣も。緋色君も、一青や紅二の父親も。誰も、何の保証もなくても、お互いの伴侶を信じた。それで私たちは40年共に生きてきた。まあ、いろいろ……あったのだがね。けれど、なくならないものもこの世界には確実にあるのだと知っておいてほしい」
老人が何かとても大切なことを言っているのは分かる。けれど、それがうまく理解できなくて、歯がゆい。
「……しんじて……る。でも……でも。おれ……いっせいが……すき。
すきすぎて……だめ……いたい……おなか……だから……なにも……いえ……ない」
翡翠の言葉に、少し驚いた顔で大泉は翡翠の顔を覗き込んできた。
「翡翠。一青のことが好きだから、腹の紋が痛むのか?」
真剣な表情にまるで責められているような気持になって、翡翠ははらり。と、また涙を零す。
「……ごめ……んなさ……すきで……ごめ」
また泣き出してしまった翡翠に大泉が困った表情になる。それから、頭をそっと撫でてくれた。
「すまない。声を荒げて怖かったな? 翡翠。一青を好きでもいいんだ。いや。君が一青を好きていてくれて、私は嬉しいのだよ? できることなら、君たちが幸せになる手伝いをしたい。
だから、教えてほしい。君の腹の紋が痛むのは、どんなときなんだ?」
今度は努めて優しく、穏やかに大泉は聞いた。顔は真剣だったけれど、瞳は優しい。
「……いっせいをすきっておもう……とき。いっせいのゲートになりたい……っておもうとき。いっせいが……ちかくにいてくれるとき……。
でも……いったら……いっせい……どこかへ……いっちゃ……う」
翡翠の言葉に、大泉は目を細めて笑った。
「そうか。でも、心配は無用だ。一青はどこにも行かない。大丈夫だよ」
老人の言葉を聞きながら、翡翠は意識が遠のいていくのを感じていた。
「ああ。疲れたね。もう、おやすみ。きっと、明日にはうまくいくよ」
そうなればいい。
最後に翡翠が思ったのは、そんなことだった。
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