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The Ugly Duckling

misalliance? 6/7

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「いや。なんてーかさ。別に、悪く言うつもりはないけどさ。んー。平凡? THE 普通。ミスター平均点」

 悪く言うつもりはないという割には、言葉には鋭角な敵意が見え隠れしていた。
 わかっているから、聞きたくはなかった。自分が酷く凡庸で、一青に相応しくないことくらいは、誰かに言われなくても分かっている。

「や。だって。月城女史振ってまで選んだんだろ?」

 そのとおりだよ。
 翡翠は思う。
 何故、一青が月城静を振ってまで自分を選ぶのかわからない。自分が月城静に勝てるところなんて一つもない。
 否、わかってはいるのだ。

『ゲートだからだ』

 心の中で翡翠は呟いた。

「静ちゃんと比べたら、月と……ピンポン玉?」

 その一点のみで、自分が一青に選ばれたのだと分かっている。
 翡翠と違って、翡翠のゲートは非凡だ。
 L6型、希少波形。人型ゲート最大級の中型ゲート。
 自分はそのゲートの器でしかない。器に載った料理が素晴らしければ、器は凡庸でも問題などないのだ。

「なんだよそれ?」

「ま、すっぽんほどは酷くないけど、輝いてはいない。キラキラ輝いてる静ちゃんとは大違い。ほんっと、地味な感じのやつだった。ほら。いるじゃん? クラスにさ。卒業写真とかみてるとさ。あれ? こんなヤツいたっけ? ってヤツ。まんま、それ系。いてもいなくてもいいようなヤツ」

 じわ。と、涙が瞳の縁に溜まる。わかってはいることだけれど、客観的に見て、考察されると辛かった。

「え? じゃ、なんで、鏑木は月城女史と別れないといけないんだよ? そのゲート選んだから、月城女史と別れたんじゃねーの?」

 低い声の男のもっともな質問に、高い声の男は少しだけ声を潜める。

「や。さ。鏑木くんさ。性格もちょーできてんの。誰にでも優しいしさ。ほっとけなかったんじゃない? 女の子でもない。可愛くもない。しかも、あんな店で客とらされてさ。ほっといたら、吸魔の十三解いてくれるヤツも、ゲートキーパーになってくれるヤツもいないんじゃん? かわいそーだろ?」

 その言葉で、瞳の縁ギリギリでとどめていた涙は溢れて零れ落ちた。
 
 かわいそう。

 その言葉が心に突き刺さる。

「でも、かわいそーで一生決めんの? あれだけのハイスペックマンだぞ。そんな散々いろんな男に好き勝手にされてたような中古車、セフレならともかく、伴侶になんて選ぶか?」

 彼らはただ、目の前に転がっている面白そうなゴシップに飛びついているだけだ。多分、その話題に登場する人間が実在して、息をして、恋をして、傷ついて、涙することなんて考えもしない。
 だから、その言葉は辛辣で、まるで凶器のように翡翠の心を傷つけた。

「や。だって。別に結婚しなきゃいけないわけでもないし」

 けらけらと、笑いながら甲高い声が言う。

「人型ゲートがゲートキーパーを伴侶に選ぶのってさ。波賀崇文さんと都さんみたいな、ああいうなんつーか、夢みたいなカップルから生まれた幻想みたいなもんだって。実際は、人型とか言っても人型してない人もいるしさ。その上、今回のゲート。顔も並以下。身体は中古。ゲートは作り物だし、しかも、男だよ? まー。娼館でウリやってたくらいだから、あっちの方は突っ込むくらいはできるだろうけど……がばがばのゆるゆるなんじゃん?」

 どの言葉をとっても、翡翠のことについて否定はできなかった。
 彼の言っていることは憧れの男を一人占めする人型ゲートに対する嫉妬と、著しい思い込みに満ちてはいるけれど、一般論だろう。彼のように考えるのは別におかしいことではないのだ。

「大体、一回ヤっちゃえば全部解決できるだろ? 後は仕事上のパートナーとしてやってけばいいじゃん。人道的にー。なんて、お役所は格好つけていうけどさ。毎日、男の相手させられてたヤツなんだから、今更一人くらい増えたって問題ないだろ? てか、鏑木君なら、俺も一回でもいいから、ヤってみたいっ」

 聞いているのがどうしようもなく辛くなって、翡翠は重い脚を引きずって歩き出した。
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