上 下
57 / 224
The Ugly Duckling

misalliance? 5/7

しおりを挟む
「てか、鏑木、月城女史と付き合ってんだろ?」

 低い声の男性の言葉に、また、翡翠はどきり。とした。
 高校の卒業式の出待ちをして告白したくらいだから、知っている人がいるのは当たり前だ。しかも、一青も静もあれほどの美形だ。注目を集めないわけがない。誰から見ても、あの二人ならお似合いに見えるだろう。

「いやいや。それが、別れたらしいよ? 静ちゃんが振られたって泣いてるの見たってやついるし」

 意地の悪い言い方だな。
 翡翠は思う。
 まるで嘲笑しているみたいに聞こえるのは気のせいだろうか。大体、さっきから、高い声の男の言葉はいちいち翡翠の心に引っかかる。

「は? なんで?」

「ほら。あれ。例のゲート」

 その言葉に、翡翠は思わず“え?”と、上げてしまいそうになった声を口を塞いで押し殺した。
 翡翠のことは伏せられているはずだ。それなのにどうして。と、思う。

「あー。こないだの作戦の? でも、あれって、男だったんだろ? 本当かどうかわかんねーけど」

 それを聞いて、少しだけほっとした。彼らはスレイヤーなのだ。“奈落”での作戦行動に参加していたスレイヤーなら知っていてもおかしくはない。けれど、極秘事項をこんな誰が聞いているかわからないような場所でしゃべるのは不用意過ぎないだろうか。

「だからだよ。男でもいいなら、俺もアピールしとけばよかった~」

 その高い声の頭も尻も軽そうな発言を聞いているのが嫌になって、翡翠はベンチを立とうとした。足にはまだ、力が入らないけれど、立てないほどではない。

「おま……馬鹿か。あの鏑木が、お前ごときに靡くかよ」

 低い声の男性の言葉に頷きながら、翡翠は立ち上がった。

「はぁ? 何言ってんだよ。お前、あのゲートみてないん? 作戦参加してたんだろ?」

 けれど、歩き出す前に、高い声の男が言った言葉にまた、足が止まる。
 “奈落”を出るとき、翡翠は意識を失っていたけれど、きっと、彼は自分の姿を見ているのだ。後で聞いた話によると、一青が抱いて連れ出してくれたらしい。それを見られていたと思うと、羞恥に頬が染まる。

「や。俺、別の被害者の保護命じられてたし。まるで、隠すみたいに連れ出されてただろ? お前、見たのか?」

 翡翠はあってはならない人体実験の被害者であり、あるはずのない人造人型ゲートであり、世界でただ一人の男性型ゲートだ。事後の扱いがどうなるのせよ、簡単に人前に晒していい存在ではない。その点に対しての配慮はされていたはずだ。

「まーね。鏑木君がさ。すげー大事そうに抱えててさー。ほんと、宝物見つけました!みたいな顔でさ。マジで羨ましかった」

 もちろん、気を失っていた翡翠はその時のことを覚えてはいない。だから、他人から聞くそんな言葉は、すごく恥ずかしくて、嬉しかった。

「でもさ。アレがいいって言うなら、俺でも絶対OKだって」

 けれど、その言葉に翡翠は唇を噛んだ。
 男の言いたいことくらいは分かっている。

「え? どういう意味?」

 わざわざ問い返すな。と、翡翠は耳を塞ぎたくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...