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The Ugly Duckling
misalliance? 4/7
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第一診察室までは酷く長く感じられた。殆どはエレベータでの移動で、歩く時間はほんのわずかなのだがけれど、足が重い。まるで、鉛でも流し込まれたようだ。関節がぎしぎしと痛んで、ふらついては壁で身体を支える有様だ。
途中、何度も看護師らしき人に“手を貸しましょうか?”と声をかけられた。丁重に断ったのだが、みんな心配そうな顔で見ていた。
そんなに重症に見えるのだろうか。と、少し不安になる。
鏡を見るのが嫌いで、トイレや洗面所でも、必要最低限しか確認しないから、気づかなかったけれど、きっと、酷い顔をしているのだろう。
「……あ」
考え事をしながら歩いていると、身体がぐらり。と、大きく傾いた。壁に手をつくだけでは支えきれずに、近くにあったベンチに座り込む。
「……でさ。ずっと、病院にいるみたいだよ」
そのとき、近くの部屋から話声が聞こえてきた。若い男性の声。
そこは自動販売機が何台か並んだ、喫茶スペースのようだった。
「あー。うん。期待のホープ君ね。鏑木くんだっけ? お前、すげーお気に入りだよな」
盗み聞きをしているようで気が引けたけれど、立ち上がろうとした脚に力が入らない。がくがくと、足が震えている。また、熱が上がってしまったのだろうか。
耳を塞ぐことも、なんだか、“話を聞いていました”と、言っているようで、できなくて、翡翠は小さくなって聞こえてくる声を聞いていた。
「だってさ。あれだけのスペックってありえなくない? 俺の高校の後輩なんだけど、当時からすげーモテてさ。まーあの顔だし、あのスタイルだし。座学も体術も魔法も特Aランクだぞ? 卒業とほぼ同時にスレイヤーランクもBランクだし」
最初に話した若い男性だ。少し高めで、甘ったるい声だ。
一青の先輩ということは、恐らく、翡翠よりは2つ3つ下だろう。
「確かに……ちょっと、引くくらいに出来過ぎだよなー。そんでもって、ゲートキーパーまで持ってるんだろ?」
答えた男は低めの声だ。おそらくは、先に話した男と同世代だろう。
「あーもー。抱かれたい」
高い声の男の言葉にどきり。とする。翡翠と同じく同性愛者のようだ。しかも、一青のファンらしい。
「はあ? 何言ってんだよ。お前、こないだ彼氏できたっていってなかったか?」
呆れたように相方の低い声の男性が答えた。
「えー? 彼氏と、イケメンは別腹」
軽い言い方に、少しむっとする。
お前なんか相手にするほど一青は相手に困ってない!
と、言いたいのをぐっと飲み込む。そもそも、翡翠が怒って意見するような場面ではない。別に一青は翡翠の恋人というわけでもないのだ。誰かの妄想の中で一青が誰に愛を囁いていようと、翡翠には怒る権利なんてない。
いつの間にか、会話に聞き入っているのに、翡翠は気づいていなかった。
途中、何度も看護師らしき人に“手を貸しましょうか?”と声をかけられた。丁重に断ったのだが、みんな心配そうな顔で見ていた。
そんなに重症に見えるのだろうか。と、少し不安になる。
鏡を見るのが嫌いで、トイレや洗面所でも、必要最低限しか確認しないから、気づかなかったけれど、きっと、酷い顔をしているのだろう。
「……あ」
考え事をしながら歩いていると、身体がぐらり。と、大きく傾いた。壁に手をつくだけでは支えきれずに、近くにあったベンチに座り込む。
「……でさ。ずっと、病院にいるみたいだよ」
そのとき、近くの部屋から話声が聞こえてきた。若い男性の声。
そこは自動販売機が何台か並んだ、喫茶スペースのようだった。
「あー。うん。期待のホープ君ね。鏑木くんだっけ? お前、すげーお気に入りだよな」
盗み聞きをしているようで気が引けたけれど、立ち上がろうとした脚に力が入らない。がくがくと、足が震えている。また、熱が上がってしまったのだろうか。
耳を塞ぐことも、なんだか、“話を聞いていました”と、言っているようで、できなくて、翡翠は小さくなって聞こえてくる声を聞いていた。
「だってさ。あれだけのスペックってありえなくない? 俺の高校の後輩なんだけど、当時からすげーモテてさ。まーあの顔だし、あのスタイルだし。座学も体術も魔法も特Aランクだぞ? 卒業とほぼ同時にスレイヤーランクもBランクだし」
最初に話した若い男性だ。少し高めで、甘ったるい声だ。
一青の先輩ということは、恐らく、翡翠よりは2つ3つ下だろう。
「確かに……ちょっと、引くくらいに出来過ぎだよなー。そんでもって、ゲートキーパーまで持ってるんだろ?」
答えた男は低めの声だ。おそらくは、先に話した男と同世代だろう。
「あーもー。抱かれたい」
高い声の男の言葉にどきり。とする。翡翠と同じく同性愛者のようだ。しかも、一青のファンらしい。
「はあ? 何言ってんだよ。お前、こないだ彼氏できたっていってなかったか?」
呆れたように相方の低い声の男性が答えた。
「えー? 彼氏と、イケメンは別腹」
軽い言い方に、少しむっとする。
お前なんか相手にするほど一青は相手に困ってない!
と、言いたいのをぐっと飲み込む。そもそも、翡翠が怒って意見するような場面ではない。別に一青は翡翠の恋人というわけでもないのだ。誰かの妄想の中で一青が誰に愛を囁いていようと、翡翠には怒る権利なんてない。
いつの間にか、会話に聞き入っているのに、翡翠は気づいていなかった。
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