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The Ugly Duckling
misalliance? 3/7
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「あ。いえ。鏑木さんには別にお客様が……月城さんという女性の方が見えられてます」
月城。という名前に、反応したのは、一青というよりも、翡翠のほうだった。名前を聞いただけで、びくり、と、大きく身体が揺れてしまう。
「……あ。や。断ってもらえませんか? 今は……」
「一青君」
一青の言葉を遮って、翡翠は言った。
静のことを意識していないわけがない。一青が、ほかの誰かといるのなんて、本当は嫌に決まっている。しかも、相手は一青に恋愛感情を持っていると分かっている女性だ。その上、芸能人レベルの美女となれば、心配にならないはずがない。
「俺は平気。病院の中だし。一人で行けるよ」
一青が自分のことを優先させてくれるのは嬉しい。けれど、自分のために一青の人間関係を疎かにさせるのも嫌だった。
なによりも、自分のような男が、あんな女性にヤキモチを焼いているなんて知られたくない。ヤキモチを焼くにはあまりに格が違うのだと、翡翠自身にもわかってはいるのだ。
「いや。でも……」
きっと、一青は静に会いたくないわけではないと思う。翡翠を心配しているのは確かだと思うけれど、翡翠を大泉のところに送り届けてから会いに行けば済むだけの話なのだ。それをしないのは、ただ、誤解を受けるような行動をしたくないだけなのだろう。それは、一青の誠意なのだと翡翠は思う。月城という名前を聞いて、翡翠が思わずしてしまったリアクションを気にしているのだ。
「一青君……言ってただろ。適当なことしたくないって。ちゃんと、彼女が納得できるまで話してきなよ。あの……えと。俺……ちゃんと、ここで待ってるし……」
そんな一言を言うくらいで、またしても、腹の奥が痛んだ。
「……寄り道しないでちゃんと茂さんのとこ行ってよ?」
翡翠の頬を擽るみたいに撫でて、まるで子供に諭すようにハルが言う。
「なるべく早く帰ってくるし、ちゃんと納得して終わりにしてもらうから。……その……心配しないで?」
看護師さんがいるというのに、ちゅ。と、撫でていた場所にキスをして、一青は立ち上がった。
「ん……」
一青の言葉に頷くと、彼は名残惜しそうに翡翠の髪を撫でて、指で梳いてから、背を向けて、部屋を出て行く。その後ろ姿をドアが閉まるまで見送ってから、翡翠は看護師に視線を移した。
「どちらへ伺えばいいですか?」
少し頬を染めたまま、看護師に問いかける。
「魔道医療科の第一診察室にお願いします。一昨日のお部屋です」
小池はゆったりと微笑んで答えてくれた。
「水瀬さん。呪いのことは大泉先生と鏑木さんがきっと何とかしてくださいます。ですから、水瀬さんは退院したらしてみたい楽しいことでも考えて、気楽になさっててくださいね。きっと、上手くいきますよ」
もし、母親が生きていたらこんな感じなんだろうか。思い出そうと考えてみるけれど、また、あの焦燥感が邪魔をする。記憶のしっぽに手が届きそうな気すらしない。
「先生のところまで、付き添いしましょうか?」
両親のことを考えて、俯き加減になってしまった翡翠に、彼女は優しく問いかけた。
「あ。いえ。一人で大丈夫です」
慌てて答えると、彼女はくすり。と、笑ってから、軽く会釈をして、部屋を後にした。
一人になると、ため息が零れた。おそらく、記憶がある限りでは、今の翡翠は人生で一番ゆったりとした時間を過ごしていると思う。
訓練や、勉強や、仕事や、そんなものから解放されたのは初めてだった。誰にも殴られないで済む生活なんて初めてだった。
今の状況が危険だということは分かっているけれど、それでも、好きな人がそばにいてくれて、周りにいる人がみんな優しくしてくれる生活なんて翡翠の人生には一度もなかったのだ。
けれど、口を開くと“ごめん”ばかり言って、ため息ばかりついている自分に気付く。
「だめだ」
自己嫌悪に陥っている場合ではない。何も手伝いができないなら、せめて、一青の手を煩わせないように、できることは自分でしなければならない。
頭を振って、翡翠は立ち上がった。
くらり。と、眩暈がする。壁に手をついて身体を支えると、また、ずくん。と、腹が痛む。
それを振り払うように、翡翠は歩き出した。
月城。という名前に、反応したのは、一青というよりも、翡翠のほうだった。名前を聞いただけで、びくり、と、大きく身体が揺れてしまう。
「……あ。や。断ってもらえませんか? 今は……」
「一青君」
一青の言葉を遮って、翡翠は言った。
静のことを意識していないわけがない。一青が、ほかの誰かといるのなんて、本当は嫌に決まっている。しかも、相手は一青に恋愛感情を持っていると分かっている女性だ。その上、芸能人レベルの美女となれば、心配にならないはずがない。
「俺は平気。病院の中だし。一人で行けるよ」
一青が自分のことを優先させてくれるのは嬉しい。けれど、自分のために一青の人間関係を疎かにさせるのも嫌だった。
なによりも、自分のような男が、あんな女性にヤキモチを焼いているなんて知られたくない。ヤキモチを焼くにはあまりに格が違うのだと、翡翠自身にもわかってはいるのだ。
「いや。でも……」
きっと、一青は静に会いたくないわけではないと思う。翡翠を心配しているのは確かだと思うけれど、翡翠を大泉のところに送り届けてから会いに行けば済むだけの話なのだ。それをしないのは、ただ、誤解を受けるような行動をしたくないだけなのだろう。それは、一青の誠意なのだと翡翠は思う。月城という名前を聞いて、翡翠が思わずしてしまったリアクションを気にしているのだ。
「一青君……言ってただろ。適当なことしたくないって。ちゃんと、彼女が納得できるまで話してきなよ。あの……えと。俺……ちゃんと、ここで待ってるし……」
そんな一言を言うくらいで、またしても、腹の奥が痛んだ。
「……寄り道しないでちゃんと茂さんのとこ行ってよ?」
翡翠の頬を擽るみたいに撫でて、まるで子供に諭すようにハルが言う。
「なるべく早く帰ってくるし、ちゃんと納得して終わりにしてもらうから。……その……心配しないで?」
看護師さんがいるというのに、ちゅ。と、撫でていた場所にキスをして、一青は立ち上がった。
「ん……」
一青の言葉に頷くと、彼は名残惜しそうに翡翠の髪を撫でて、指で梳いてから、背を向けて、部屋を出て行く。その後ろ姿をドアが閉まるまで見送ってから、翡翠は看護師に視線を移した。
「どちらへ伺えばいいですか?」
少し頬を染めたまま、看護師に問いかける。
「魔道医療科の第一診察室にお願いします。一昨日のお部屋です」
小池はゆったりと微笑んで答えてくれた。
「水瀬さん。呪いのことは大泉先生と鏑木さんがきっと何とかしてくださいます。ですから、水瀬さんは退院したらしてみたい楽しいことでも考えて、気楽になさっててくださいね。きっと、上手くいきますよ」
もし、母親が生きていたらこんな感じなんだろうか。思い出そうと考えてみるけれど、また、あの焦燥感が邪魔をする。記憶のしっぽに手が届きそうな気すらしない。
「先生のところまで、付き添いしましょうか?」
両親のことを考えて、俯き加減になってしまった翡翠に、彼女は優しく問いかけた。
「あ。いえ。一人で大丈夫です」
慌てて答えると、彼女はくすり。と、笑ってから、軽く会釈をして、部屋を後にした。
一人になると、ため息が零れた。おそらく、記憶がある限りでは、今の翡翠は人生で一番ゆったりとした時間を過ごしていると思う。
訓練や、勉強や、仕事や、そんなものから解放されたのは初めてだった。誰にも殴られないで済む生活なんて初めてだった。
今の状況が危険だということは分かっているけれど、それでも、好きな人がそばにいてくれて、周りにいる人がみんな優しくしてくれる生活なんて翡翠の人生には一度もなかったのだ。
けれど、口を開くと“ごめん”ばかり言って、ため息ばかりついている自分に気付く。
「だめだ」
自己嫌悪に陥っている場合ではない。何も手伝いができないなら、せめて、一青の手を煩わせないように、できることは自分でしなければならない。
頭を振って、翡翠は立ち上がった。
くらり。と、眩暈がする。壁に手をついて身体を支えると、また、ずくん。と、腹が痛む。
それを振り払うように、翡翠は歩き出した。
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