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The Ugly Duckling
misalliance? 1/7
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病院に入院して2日。一青は殆ど片時も離れず、寄り添っていてくれた。部屋にパソコンを持ち込んで何かを調べたり、誰かに連絡を取ったりもしていたけれど、翡翠のそばから離れることは殆どなかった。
もちろん、大泉も何度も顔を出しては、翡翠の様子を気にかけてくれたし、ベッドの下に呪いの発動を緩慢にする魔法陣のようなものも描いてくれた。
けれど、翡翠の身体を縛る呪いは消すことはおろか、触れることすらできない。どんな方法を考えても、すべては、吸魔の十三を解くことが先決だという結論に達してしまう。それなのに、吸魔の十三を破るには翡翠の一青への思いに反応した呪いが邪魔をする。そんな堂々巡りを続けていた。
一青と大泉が解呪の方法を探している間、翡翠は酷い高熱と戦っていた。解熱剤も、抗生物質も効かない。当たり前の話だ。これは呪いなのだ。発熱しているのは、翡翠に描かれた呪いの文字であって、翡翠の身体に異常があるわけではないのだ。
その熱を下げる方法も、翡翠にはわかっていた。
一青と離れていればいいのだ。呪いは翡翠の一青への恋情に反応している。だから、一青の姿が見えなくなれば、翡翠は一時的にでも回復するだろう。
けれど、それは言えなかった。
単純に一青にそばにいてほしかったからだ。一青が見えなくなると、酷く不安になって、ほんの少しの物音でも、びくびくと怯えてしまう。それどころか、一青のいるときでさえ、僅かにうとうととしただけで、久米木や客に犯されている夢を見ては、悲鳴を上げて起きることがあった。
時間が経つにつれて、夢の中だけだったものが、現実をも侵食して、高熱のためなのか、呪いのためなのか、それとも、徐々に溜まってきている魔光に酔っているのか、ドアを開けられるたびに開けた人物を久米木と見間違えて、声を上げてしまう。情けないとは思うけれど、今は高熱よりも、一青がいない不安のほうが怖かった。
翡翠がいる部屋は、女神川学園大学付属病院の最上階の特別室だった。この階にはほかに部屋はない。特別室は20帖はあろうかという大部屋で、トイレもシャワーも完備されている。大学を含む病院全体は何人もの術師が何か月もかけて作った特殊な結界で守られていて、その上、魔道医学科の病棟にも幾重にも結界が張られている。さらには、翡翠の部屋には翡翠のためだけに幾つもの守りの魔法がかけられていた。
翡翠の症状や、背景を鑑みて大泉が用意してくれた部屋だ。ここなら一青もずっと一緒にいられるし、最悪、この場所で契約ということになっても、周りを気にする必要もない。
元々は政治家や、一流芸能人、大企業の重役クラスしか使えないような部屋だ。だからなのか、部屋には来客用のソファまで用意されている。
そのソファに座って、真剣にパソコンを見つめている一青の顔を翡翠は熱に浮かされたぼーっとした頭のまま見つめていた。入院したその日の夜も、昨夜も、一青はずっとそばにいてくれた。翡翠が夢を見ては怯えて起きるから、彼は寝ることすらままならなかっただろう。その上、昼の間は殆どをこうして調べ物をして過ごしている。
スレイヤーである一青は普通の人間とは比べ物にならないくらいの持久力を持っている。数日寝ないで過ごすくらいはわけがないだろう。けれど、彼は翡翠の症状が悪化するたびに癒しや鎮痛の魔法を使ってくれる。もちろん、翡翠から渡された魔光も使ってはいるのだけれど、それでは追いつかないほど多くの魔法を使ってくれているのは明白だった。魔法の使用は単に身体を動かすことよりずっと、体力を消耗する。失った魔光を補填しようと、細胞が活発に活動するからだ。
だから、きっと一青の消耗は見た目以上だと思う。
もちろん、大泉も何度も顔を出しては、翡翠の様子を気にかけてくれたし、ベッドの下に呪いの発動を緩慢にする魔法陣のようなものも描いてくれた。
けれど、翡翠の身体を縛る呪いは消すことはおろか、触れることすらできない。どんな方法を考えても、すべては、吸魔の十三を解くことが先決だという結論に達してしまう。それなのに、吸魔の十三を破るには翡翠の一青への思いに反応した呪いが邪魔をする。そんな堂々巡りを続けていた。
一青と大泉が解呪の方法を探している間、翡翠は酷い高熱と戦っていた。解熱剤も、抗生物質も効かない。当たり前の話だ。これは呪いなのだ。発熱しているのは、翡翠に描かれた呪いの文字であって、翡翠の身体に異常があるわけではないのだ。
その熱を下げる方法も、翡翠にはわかっていた。
一青と離れていればいいのだ。呪いは翡翠の一青への恋情に反応している。だから、一青の姿が見えなくなれば、翡翠は一時的にでも回復するだろう。
けれど、それは言えなかった。
単純に一青にそばにいてほしかったからだ。一青が見えなくなると、酷く不安になって、ほんの少しの物音でも、びくびくと怯えてしまう。それどころか、一青のいるときでさえ、僅かにうとうととしただけで、久米木や客に犯されている夢を見ては、悲鳴を上げて起きることがあった。
時間が経つにつれて、夢の中だけだったものが、現実をも侵食して、高熱のためなのか、呪いのためなのか、それとも、徐々に溜まってきている魔光に酔っているのか、ドアを開けられるたびに開けた人物を久米木と見間違えて、声を上げてしまう。情けないとは思うけれど、今は高熱よりも、一青がいない不安のほうが怖かった。
翡翠がいる部屋は、女神川学園大学付属病院の最上階の特別室だった。この階にはほかに部屋はない。特別室は20帖はあろうかという大部屋で、トイレもシャワーも完備されている。大学を含む病院全体は何人もの術師が何か月もかけて作った特殊な結界で守られていて、その上、魔道医学科の病棟にも幾重にも結界が張られている。さらには、翡翠の部屋には翡翠のためだけに幾つもの守りの魔法がかけられていた。
翡翠の症状や、背景を鑑みて大泉が用意してくれた部屋だ。ここなら一青もずっと一緒にいられるし、最悪、この場所で契約ということになっても、周りを気にする必要もない。
元々は政治家や、一流芸能人、大企業の重役クラスしか使えないような部屋だ。だからなのか、部屋には来客用のソファまで用意されている。
そのソファに座って、真剣にパソコンを見つめている一青の顔を翡翠は熱に浮かされたぼーっとした頭のまま見つめていた。入院したその日の夜も、昨夜も、一青はずっとそばにいてくれた。翡翠が夢を見ては怯えて起きるから、彼は寝ることすらままならなかっただろう。その上、昼の間は殆どをこうして調べ物をして過ごしている。
スレイヤーである一青は普通の人間とは比べ物にならないくらいの持久力を持っている。数日寝ないで過ごすくらいはわけがないだろう。けれど、彼は翡翠の症状が悪化するたびに癒しや鎮痛の魔法を使ってくれる。もちろん、翡翠から渡された魔光も使ってはいるのだけれど、それでは追いつかないほど多くの魔法を使ってくれているのは明白だった。魔法の使用は単に身体を動かすことよりずっと、体力を消耗する。失った魔光を補填しようと、細胞が活発に活動するからだ。
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