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The Ugly Duckling

surveillance 9/10

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 一青の視線がこちらにないだけで、不安になってしまう。
 背を向けた一青がそのまま消えてしまいそうで怖い。

「……い……」

 けれど、名前は呼べない。翡翠のことを気遣ってくれている一青の邪魔はしたくない。だから、翡翠はかわりに一青の上着の裾をぎゅ。と、握った。“離れないで”と、思いを込めると、また、ずくん。と、腹が痛んだ。
 一青がかけてくれた凍結の呪文は対象物。または対象とされる事象の動きを止める魔法だ。言霊の数も多く、魔道文字の併用で、動きを止めた上に、一時的に消し去ることにも成功している。おそらくは、亜種だ。
 翡翠の中にある呪いのほとんどは吸魔の十三より、翡翠の中の深層に描かれた呪いだ。吸魔の十三の範囲が大きすぎて、それを破らないとその下に描かれた呪いに触れることができない。それどころか、翡翠の身体の中に幾つの呪いが描かれているか、正確に把握することすら困難だった。通常、呪いは一種類しかかけることはできない。けれど、術者が一人であれば、複数の呪いをかけることが可能だ。
 一青が使ってくれた凍結も、所詮一時しのぎだ。退魔や、破魔の魔法を使って、根本を解決しないと、また同じことの繰り返しになりかねない。
 その方法は、一青に抱かれて、一青のモノを体内に収めたまま、解呪の紋を体内に打ち込んでもらわないといけないのだ。

「ご……め……」

 自分が一青のことをもう、どうしようもないくらいに好きになっていることは分かっている。だから、探してもらってはいるけれど、ほかのゲートキーパーと契約を交わすことなんて考えられない。
 最悪は、呪いを破れるくらいの別の術者に解呪だけを依頼することは可能だ。けれど、誰かほかの人に抱かれた後、すぐに一青を受け入れることなんてできるのだろうか。場合によっては、一青の目の前で誰かに抱かれないといけないかもしれない。そんなことになるくらいなら、死んだほうがましだとすら思える。散々男に弄ばれた汚れた身体だけれど、それを一青に見られるのだけは嫌だ。

「翡翠?」

 考え込んでいるうちに、電話が終わったのか、一青がじっと見ていた。
 いつの間にか、呼び方が変わっている。なんだか、近くなれたようでうれしい。
 そう思ってから、こんなときなのにと、恥ずかしいような、情けないような気分になった。

「まだ、痛む?」

 ベッドに横たえた翡翠の額の髪をさら。と、指で寄せて、そこに一青の手が触れる。冷たくて気持ちがいい。

「……平気」

 痛みがないわけではない。内側に描かれた紋の場所が焼けるように熱くて、引き攣るように痛い。それが鼓動のたびに、ずくずく。と、主張してくる。
 『呪われているのを忘れるな』と、言われているような気がした。

「嘘言わない。きついって顔になってる」

 翡翠の隣に添い寝して、そっと紋の描かれているあたりを撫でて、一青が言った。

「どこが痛い? 俺、翡翠のことは全部知りたい」

 吐息がかかるくらいの距離で、耳元に囁かれて、翡翠は小さく首を竦めた。

「……いえな……い」

 遠慮しているわけではない。
 ただ、痛む場所を告げることが辛かっただけだ。
 どうしてソコが痛むのかを考えてほしくなかったからだ。
 ソコに何度も久米木の精を注がれて、男の遺伝子で描かれた紋が、身体の中の奥まで刻まれているのだと、たとえ、知っていたとしても考えてほしくない。

「……奥の方?」

 けれど、その反応で一青には分かってしまった。
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