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The Ugly Duckling

surveillance 6/10

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 気づくと、翡翠は昨夜使っていた一青の家の2階の部屋で眠っていた。
 酷く頭が痛い。身体がだるくて力が入らない。意識が朦朧とする。
 落ちる前のことを思い出して、そっと腹に手を伸ばすと、素肌の感触。はっとして、自分の身体を見ると、何も身に着けてはいなかった。

「……え?」

 驚きにわずかに身じろぐと、じゃら。と、鎖の音がする。その嫌な音に視線を向けると、左足には翡翠の魔光を封じるあの文字の描かれた鎖がはめられていた。

「……な……に? どして?」

 頭が混乱している。眠りに落ちる前には一青の腕の中にいたはずだ。それなのに、何故こんなことになっているのか。

「……い……っせいく……ん」

 呟くように一青の名を呼ぶ。返事はない。

「……っ。一青君!」

 怖くなって翡翠は身体を起こした。
 ずくん。と、腹が痛む。
 無視して、大声で名前を呼ぶけれど、やはり答えはなかった。

「……うそ……だ」

 まるで鉛が入ったように重い手足を叱咤して、身体を起こして、翡翠はドアに向かった。
 そこは翡翠の記憶では間違いなく、一青に貸してもらっている部屋だ。けれど、手を伸ばした先のドアはこんな形だっただろうか。内側に鍵がついていたはずのドアノブにはそれがなくなっている。明るい色の木目のドアだったはずなのに、のっぺりとした凹凸のないグレーのドアに変わっている。

「……な……で? うそ……だ」

 このドアを翡翠は知っていた。
 翡翠は一度しかそこを通ったことがない。この部屋に閉じ込められてから、一度も外には出ていないからだ。
 そのドアから入ってくるのは、翡翠を傷つける者ばかりだ。
 乱暴な客。口汚く自分を罵る世話係。目を合わせることすら拒否して、まるで誰もいないかのように自分を無視する掃除婦。
 それから。

 がちゃ。と、音がして、鍵が開く。
 そして、ドアノブがゆっくりと回った。

「……や……だ」

 それから、ゆっくりと、ドアが開く。

「いやだっ!」

 開いたドアの元に立っていたのは、翡翠が一番会いたくない男だった。弾かれたように、部屋の隅へと逃げる。

「……ちがう! こんなの……ちが……っ」

 部屋の隅に逃げ込んで、頭を抱えて、翡翠は小さく蹲った。怖くて、怖くて、がたがたと身体が震える。涙が溢れて、頬を伝った。
 そのさまを久米木は薄く笑って眺めていた。

「翡翠」

 男の声はまるで地の底から響いてくるような低音だった。その声で名前を呼ばれると、恐怖で身体がまともに動かなくなってしまう。無様に泣きながら、許しを請うことしかできなくなってしまう。
 そのくらいに、吸魔の十三を描く男との情交は激しかった。痛みや快楽に泣き叫んで許しを請うても、いつもぐちゃぐちゃになって意識を失うまで犯された。

「……やだ。来ないで。も……俺……っ」

 男に拘束されまいと、めちゃくちゃに腕を振るって、抵抗を試みる。けれど、翡翠の弱弱しい抵抗など、男は一度も苦にしたことはなかった。それは、今日も同じで、すぐに腕を押さえつけられ、手錠で拘束され、担ぎ上げられてしまう。

「はな……っ。やだ!」

 そのままベッドまで連れていかれて、その上に放り出される。
 ぎし。と、軋むベッドの音。それも、あの窓のない部屋のそれに変わっていた。

「可愛い俺の翡翠」

 身体に圧し掛かってくる男の重み。それも、よく知っている。
 この男に抱かれた回数なんて覚えていない。覚えていないほど何度も抱かれた。
 男の体温も、身体を弄る指遣いも、後孔を犯す男性器の形も硬さも熱さも。その男がもたらす快感も、苦痛も。何もかも、翡翠は身体の深くまで覚えさせられた。

「楽しかったか?」

 男の言葉に翡翠は、息を飲んだ。

「楽しい夢が見られたか?」

 その時の男の顔は、翡翠の心を折るには充分なくらいに残忍だった。

「……ゆ……め?」

 そして、気づく。
 すべては夢だったのだ。
 翡翠を助けに来てくれる人などいるはずがなかった。ここから連れ出してくれる人などいるはずがなかった。翡翠を必要としてくれる人などいるはずがなかった。愛してくれる人なんているはずがなかったのだ。

「可哀想な俺の翡翠」

 する。と、男の手が翡翠の細い身体の上を這う。

「お前みたいな醜くて浅ましい人間を、俺以外の誰が愛してくれるというのだ」

 くく。と、喉の奥で男は笑った。そして、翡翠の細い脚を開いて、陰茎を扱きながら、つつ。と、後孔に指が滑りこむ。
 抵抗はできなかった。する気力がなかった。

「……んっ。……ふ……ぁ……い……せい……」

 名前を呼ぶと、涙がまた、零れた。
 さっきまで、確かに自分を腕の中に収めていたのは一青だったはずなのに。男性器と、後孔を激しく弄られながら、翡翠は犯される身体を心が完全に離れてしまうのを感じていた。

「……いっせ……い……っ……やっあん。……は……っ」

 呼んでも答えなんてない。
 だったら、知らないでいたかった。
 この世界に幸福なんてものがあると知らなければ、絶望の深さに底がないことも知らないで済んだのに。

「厭らしい俺の翡翠」

 すでに、ぐちゃぐちゃと音を立てて、男の指を3本飲み込んでいるそこから、指を引き抜いて、男がソレをソコへ宛がう。

「こんな身体で今更普通の男と結ばれることなんてできると思ったのか? 誰にでも脚を開いて善がる淫売が」

 叫ぶように言って、男は一気に翡翠の奥まで貫いた。

「……ひっ! んっあ……っ」

 それが、苦痛なのか、快楽なのかわからない。身体は心から遠く離れてしまって、突き上げられるたびに焼けつくような熱だけが伝わってきた。

「愚かな俺の翡翠」

 ぐい。と、翡翠の最奥に亀頭を押し付けて、男が言う。

「お前は俺だけのものだ。お前が逃げる場所などどこにもない。
 もし、お前が別の男のモノになるなら……」

 それから、男は翡翠の耳元に唇を寄せた。

「お前も、その男も、めちゃくちゃに壊してやる」
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