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The Ugly Duckling
medical examination 17/17
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スレイヤーになるには、所定の授業の単位と、実技を含む試験で一定の基準以上の成績をとることを求められる。だから、国立の高校に入学せずに正規のスレイヤーライセンスを取得するのはほぼ不可能だ。4年制高校の2年の5月の試験で合格するのが最も早い。一青はこの時点でライセンスを取得した。
対する翡翠は落第ギリギリの3年3月時の合格だ。座学だけなら、2年時の5月の試験で及第点を取っていたのだが、実技で躓いて、11回の試験に失敗したのだ。
それだけでも、才能の違いは目に見えている。
スレイヤーは座学を重要視しない。必要とされるのは、戦闘能力と経験だ。
どんなに経験を積んでも、おそらく、翡翠はBランクにすら上がることは不可能だろう。スレイヤーのうち半分はそんなものだ。
けれど、一青は違う。Aランクどころか、聖騎士すら夢の話ではないのだ。
「や。……なんでもない」
一青のことを知れば知るほど、彼に夢中になっている自分に気付く。そして、同時に凡庸な自分との差に切なくなる。
そんなことを考えて、ふと、視線を移すと、大泉と視線が合った。老人は少し心配そうに翡翠を見ていた。“素直になっていいのだよ”と、その目が言っているような気がした。いや、そう言ってほしいと、翡翠が望んでいるだけなのかもしれない。
「翡翠さん? どした? ホント、疲れた? 買い物やめにして、うち帰る? 送ってもらおうか?」
歯切れ悪く黙り込んでしまった翡翠に、一青が心配そうな視線を送ってくる。
「……や。大丈夫だよ」
正直、うちに帰って、紅二が帰ってくるまで、一青と二人きりなのはダメな気がした。きっとまた、心が溶かされて、そのまま契約の印を結んでしまいそうな気すらした。
「でも……」
そ。っと、一青の手が頬を撫でる。触れた部分から、一青の手に魔光が流れていくのを感じる。それは、とても心地よい感覚だった。一青は誰にも渡したくないと言ったけれど、翡翠だって本当は一青に全部あげたい。
「こんなに溜まってる。想像より溜まるの早い。魔光酔いしてるんじゃないか?」
少しでも受け取る量を多くするためだろうか、両手で翡翠の頬を包み込んで一青は言った。それから、大泉に視線を移す。
「茂さん。他になんか、魔光逃がす方法ないのか?」
一青の心配げな表情に大泉は苦笑した。
「水瀬君の魔光耐性は和臣クラスのスレイヤーの何十倍もある。簡単に魔光酔いしたりはしない。お前がそんな顔してどうする? 水瀬君が大切なのはわかるが、心配し過ぎだ」
半分揶揄うように言われて、一青は顔を顰めた。
「だって」
その後の言葉を一青は飲み込む。
「水瀬君はずっと閉じ込められていたんだ。街の様子も見てみたいだろう。心配なのはわかるが、彼の精神のバランスを保つためにも、少し外出してきなさい。和臣が新しい識阻の魔符を届けさせてくれたから、2・3時間なら大丈夫だろう」
そう言ってから、大泉はちら、と翡翠を見た。助け船のつもりだろう。いや、つもりだけではなくて、実際に助かる。
「わかった。翡翠さん。近くに最近できたショッピングモールあるから、行ってみようか。スーパーも入ってるから、今夜の夕飯の買い物もしよう」
一青の提案に翡翠は頷いた。ほっとしている自分がいる。
「俺、翡翠さんの服選んでもいい? 選んだら着てくれる?」
翡翠の顔に笑顔が戻ったことに安堵したように、ことさら明るく一青が言った。
「うん。あ。でも……あんまり派手なのはパスしてもいいかな」
だから、翡翠も務めて明るく答える。
そんな二人を、大泉は少し微笑んで、少しだけ心配そうに見守っていた。
対する翡翠は落第ギリギリの3年3月時の合格だ。座学だけなら、2年時の5月の試験で及第点を取っていたのだが、実技で躓いて、11回の試験に失敗したのだ。
それだけでも、才能の違いは目に見えている。
スレイヤーは座学を重要視しない。必要とされるのは、戦闘能力と経験だ。
どんなに経験を積んでも、おそらく、翡翠はBランクにすら上がることは不可能だろう。スレイヤーのうち半分はそんなものだ。
けれど、一青は違う。Aランクどころか、聖騎士すら夢の話ではないのだ。
「や。……なんでもない」
一青のことを知れば知るほど、彼に夢中になっている自分に気付く。そして、同時に凡庸な自分との差に切なくなる。
そんなことを考えて、ふと、視線を移すと、大泉と視線が合った。老人は少し心配そうに翡翠を見ていた。“素直になっていいのだよ”と、その目が言っているような気がした。いや、そう言ってほしいと、翡翠が望んでいるだけなのかもしれない。
「翡翠さん? どした? ホント、疲れた? 買い物やめにして、うち帰る? 送ってもらおうか?」
歯切れ悪く黙り込んでしまった翡翠に、一青が心配そうな視線を送ってくる。
「……や。大丈夫だよ」
正直、うちに帰って、紅二が帰ってくるまで、一青と二人きりなのはダメな気がした。きっとまた、心が溶かされて、そのまま契約の印を結んでしまいそうな気すらした。
「でも……」
そ。っと、一青の手が頬を撫でる。触れた部分から、一青の手に魔光が流れていくのを感じる。それは、とても心地よい感覚だった。一青は誰にも渡したくないと言ったけれど、翡翠だって本当は一青に全部あげたい。
「こんなに溜まってる。想像より溜まるの早い。魔光酔いしてるんじゃないか?」
少しでも受け取る量を多くするためだろうか、両手で翡翠の頬を包み込んで一青は言った。それから、大泉に視線を移す。
「茂さん。他になんか、魔光逃がす方法ないのか?」
一青の心配げな表情に大泉は苦笑した。
「水瀬君の魔光耐性は和臣クラスのスレイヤーの何十倍もある。簡単に魔光酔いしたりはしない。お前がそんな顔してどうする? 水瀬君が大切なのはわかるが、心配し過ぎだ」
半分揶揄うように言われて、一青は顔を顰めた。
「だって」
その後の言葉を一青は飲み込む。
「水瀬君はずっと閉じ込められていたんだ。街の様子も見てみたいだろう。心配なのはわかるが、彼の精神のバランスを保つためにも、少し外出してきなさい。和臣が新しい識阻の魔符を届けさせてくれたから、2・3時間なら大丈夫だろう」
そう言ってから、大泉はちら、と翡翠を見た。助け船のつもりだろう。いや、つもりだけではなくて、実際に助かる。
「わかった。翡翠さん。近くに最近できたショッピングモールあるから、行ってみようか。スーパーも入ってるから、今夜の夕飯の買い物もしよう」
一青の提案に翡翠は頷いた。ほっとしている自分がいる。
「俺、翡翠さんの服選んでもいい? 選んだら着てくれる?」
翡翠の顔に笑顔が戻ったことに安堵したように、ことさら明るく一青が言った。
「うん。あ。でも……あんまり派手なのはパスしてもいいかな」
だから、翡翠も務めて明るく答える。
そんな二人を、大泉は少し微笑んで、少しだけ心配そうに見守っていた。
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