【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

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The Ugly Duckling

medical examination 16/17

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「ああ。私だ。もう、来てもいいぞ。……ん? そんなことはしていない。……ああ。わかった」

 受話器を置いてから、大泉はそれに向かって苦笑する。

「悪いが。私が一青のことを君にアピールしたのは黙っていてくれるかね。バレたら、殴られそうな勢いだ」

 苦笑を浮かべたまま、彼は言った。おそらく、電話の相手は一青だったのだ。大泉の気遣いが、翡翠の選択の幅を狭めてしまうのを心配しているのだろう。
 朝別れてから、一青には会っていない。昼食は検査のために抜いたので、代わりに開いた病室で横にならせてもらっていた。うとうとと微睡んでいるときに、一青の声を聞いたような気がしたけれど、現実だったのか、夢だったのかはわからない。
 いや、きっと夢だろう。一青はきっと、あの美しい女性といるのだ。

「一青は君に夢中だな。君の前では格好をつけたいらしい」

 君に夢中。という言葉に翡翠は俯いた。一青が。ではなく、自分が、一青に夢中なのだ。
 同時に、診察室のドアが乱暴にノックされた。

「入りたまえ」

 わざとゆっくりと、大泉が言う。その言葉が終わらないうちにスライド式のドアが開いた。

「翡翠さん」

 入ってきたのは想像通り一青だった。

「大丈夫? じじいにセクハラされなかった? 嫌なこと聞かれたりしなかった? あー。顔色あんまよくないな。疲れたんじゃない?」

 入ってくるなり、翡翠の座っているゆったりとした椅子の元まで走って来て、椅子の両方のひじ掛けに手をついて、顔を覗き込んでくる。

「……セクハラって……そんなのされるわけないだろ? 検査なんてなれないから疲れてるけど、平気だよ」

「お前は、俺をなんだとおもっとるんだ」

 さっきまでの威厳のある口調から、いきなりくだけた口調に変わって、大泉はあきれ顔で一青を見ている。

「……んなこと言ったって。茂さん。昔はすんげーモテたんだろ?」

 一青も、診察前は大泉先生とか言っていたくせに、まるで、自分の祖父にでも話すような口調になっていた。おそらく、シゲというのは、大泉のことだろう。ネームプレートには“魔道医学部教授 大泉茂幸”と書かれている。

「モテたことはモテたが、和臣以外に手を出した覚えはない」

「ホントに? あ。…翡翠さん」

 二人の会話を少し呆けたような様子で見ていた翡翠に気付いて一青は翡翠に向きなおった。

「茂さんと、和臣さんは、緋色が亡くなったあと、俺たちの後見人になってくれた人たちだ。知ってるだろ? 石田和臣。“黎明月”の元会長だ。茂さんは和臣さんのパートナー。これでも一応はスレイヤーのライセンスも持ってるんだよ」

 石田和臣。その名前をスレイヤーをしていて知らないものなど誰もいない。AAから、Dまであるスレイヤーのランクのどれにも属さない。日本に3人しかいないSクラスのスレイヤーだ。そして、国内最大のスレイヤーズギルド“黎明月”の創始者で、現会長石田幸臣の生みの親だ。

「…石田和臣…と、知り合いなのか?」

 スレイヤーを志す者なら、彼に憧れないものもいない。
 強くて、自由で、多くの人に慕われて、そして何より男性にはありえないくらいの美人だったらしい。

「ん。緋色が“黎明月”の聖騎士だったからな」

 黎明月に限らず、スレイヤーズギルドには独自の階級のようなものが存在する。権力とごり押しで捻じ曲げることができるスレイヤーランクとは違って、特に黎明月の階級は厳しいことで有名だ。
 聖騎士は黎明月に所属する1800人以上のスレイヤーの中で僅か13人のみに与えられる称号で超一流のスレイヤーの証だ。

「どおりで……」

 眩暈がする。一青が非凡な才能を持っているのは当たり前だ。あの黎明月の聖騎士を母に持っているのだ。魔光の多寡は遺伝することが多い。父親という人がどんな人なのかは知らないけれど、資質は十分だ。
 それに引き換え自分はどうだろう。

「え?」

 翡翠の声が聞き取れなかったのか、一青が問い返してくる。
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