【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

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The Ugly Duckling

medical examination 15/17

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「ああ。ところで……昨日、魔道診断をさせてもらったのだが、君はL6型だそうだね。希少波形だ。
 こんなことを、いきなり言うのは、君を警戒させてしまうかもしれないのだが……。君も知っていると思うが、6型のゲートは世界でも数人しかいない。6型ゲートは、2型以外の殆どの波形を持つ相手に魔光を受け渡しできる。
 だから、覚えておいてほしい。君のゲートとしての能力は、ある種の人間たちにとって非常に利用価値の高いものだ。下手をすれば、国家や企業に利用されてしまうこともあり得る。注意してほしい」

 老人の顔は真剣だった。過去にそうして国家に利用されているゲートを知っているのだろう。

「ゲートに振り回されるなと言っておきながら、こんなことを言ってすまないね。だが、できることなら、ゲートを宿す者たちにも、私は自由でいてほしい」

「はい」

 老人の目がまっすぐだったから、翡翠は素直に頷いた。

「6型は、汎用性の高いゲートだが、反対に君のゲートを管理できるのは同じ6型のゲートキーパーだけだ。
 聞いたかね? 鏑木君はL6だ。君とは相性がいい」

 素直な翡翠の態度に目を細めて、老人が笑う。一青の話が出て、余計に表情が優しくなった気がする。

「……は……い」

 けれど、この質問には翡翠は何と答えていいかわからなかった。
 一青が彼を慕っているように、恐らくこの老人は一青のことを可愛がっているのだろう。きっと、言葉の裏にあるのは、一青が望むゲートと契約を結ぶことができるように後押ししたいという思いだ。

「鏑木君……いや。一青が希望しているから、別のゲートキーパーも探してはいるが……いや。一青が君のゲートキーパーになることが嫌だと言っているわけではないよ? 一青は君に選択肢を残してあげたいと言っていた。
 けれど、君のためにも、一青のためにも、一青をゲートキーパーに選ぶのが最良の方法だと私は思う。彼は有能で、才能に溢れて、優しく、強く、誠実だ。君と歳も近い。きっと、上手くやっていける」

 やっぱり。と、翡翠は思う。一青が頼んだわけではないだろう。きっと、大泉が一青の思いをくんでいるのだ。
 もちろん、大泉の言っていることなんて、翡翠にだってわかっている。一青に不満なんて一つもない。

「……一青君……は」

 けれど、翡翠は言い淀んだ。その後の言葉が出てこない。
 それを見て、大泉はボイスレコーダーの電源を切った。

「水瀬君。これは残さない。だから、言ってみなさい。君はどうしたい?」

 そう言って、老人はまた、深い緑の瞳で見つめてくる。その瞳に嘘をついてはいけない気がした。

「……一青君は、俺にはもったいないです。彼は若い。一度、契約の印を結んでしまったら、後悔しても遅いんです。一生を共にする相手を選ぶには彼は若すぎる。それに……きっと……俺じゃ何一つ彼の期待には応えられない」

 翡翠は一青に何一つ不満なんてない。翡翠が許せないのは自分自身だ。老人との会話で少し胸が軽くなった。けれど、翡翠が一青の隣に相応しい姿になったわけではない。
 さっき見た美しい女性を思い出す。彼女のような女性がゲートならよかったのだ。それなら、一青が後悔することなんてないだろう。
 そう思うと、辛くて涙が零れてしまいそうで、翡翠は俯いた。

「水瀬君。波賀都君をしっておるかね?」

 大泉の言葉に翡翠は俯いたまま頷いた。

「彼女は感じたそうだよ。崇文君は大樹だそうだ。力強く大地に根を張る大樹だ。
 反対に崇文君も感じたそうだ。都君はその光で周りを照らす温かな炎だそうだ。
 一青はね。昨日私のところに来て、興奮気味に言っていたよ。自分のゲートを見つけたと。君は若葉の匂いのする翠色の風だそうだ。
 これは、公式な記録には何も残ってはいない。けれど、ゲートとゲートキーパーはお互いに自分に相応しい相手を本能で見分けることができる。
 君は、一青に何も感じなかったかい?」

 翡翠にだってわかっていた。自分は一青には相応しくない。けれど、自分のゲートキーパーは一青だ。一青以外には考えられない。

「……一青君は……湧水です。汚れなんてすべて洗い流してくれる綺麗で静かな水だ」

 だから、余計に醜い自分が辛いのだ。女性ですらない自分の身体が疎ましいのだ。

「私のパートナーはね。男性でありながら、私の子を産んでくれた。ああ。勘違いしてもらっては困るが…緋色君のことではないよ? 今でもぴんぴんしていて、現役でスレイヤーをしている。彼曰く、“性別なんて、髪色と同じくらいの意味しかない”そうだ。私もそう思う。
 君は、もう少し自分の価値を信じなさい。君は一青が選んだ子だ。それに、一青はとても聡い子だ。君の中のゲートに目が眩むような愚か者ではない。あの緋色君が育てたんだ、きっと、君を幸せにしてくれる」

「……先生」

 大泉の言葉は不思議だと翡翠は思う。心の奥に響くのだ。
 簡単に納得できるわけではないけれど、彼の言っていることは嘘ではないと思える。信じたくなるのだ。

「とはいえ……、結論を急ぐことはない。一青は1週間待つと言っていたのだろう。せいぜい焦らしてやりなさい」

 さっきまでの真剣な顔はどこへ行ったのか、急に悪戯っぽい笑顔を浮かべて大泉は言った。研究者の顔でもない。医者としての顔でもない。きっと、これは一青や自分の保護者としての顔だ。

「さあ。今日の話はここまでにしよう」

 そう言って彼は、デスクの上にあった内線電話の受話器をあげて、どこかへ電話をかけた。
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