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The Ugly Duckling
medical examination 11/17
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魔道暦322年10月22日にフロンティアラインの魔道研究施設で事故が起きて、研究中の人造ゲートから異形が発生したと、事務所に連絡が入りました。俺と、アカデミーから事務所に入った数人のスレイヤーで対処に向かいました。監督官は久米木です。突然呼び出されて仕事をさせられることはよくあったから、疑いもしませんでした」
便宜上、C級のライセンスを持つスレイヤーは単独で行動することを許される。しかし、C級に昇格して、1年以内の者は原則監督官と共に行動する。という、暗黙のルールがあった。だから、高校を卒業したばかりの一青が単独で行動しているというのは、高校卒業時に既にC級ライセンスを取得して一年以上が経過しているということになる。殆どの者は、高校卒業時にはD級ライセンスであることを考えると、いかに一青が優秀なスレイヤーかわかる。
「久米木という男と、君以外は全員女性だったのか?」
老人の言葉に翡翠はまた、しばし沈黙した。
その風景が心の中によみがえってきたからだ。
どくん。
と、心臓が強く拍動する。
「いえ。俺ともう一人。金木という混合系のスレイヤーがいました。
現場に着くと、あたりは酷い有様でした。別に事故が起きたからじゃないです。
事故現場と言って連れていかれた部屋の中は血だらけで……元が人間だったとは思えないような形をしたものが……。息をしている人も何人かいました。
その部屋は、魔光を封じる結界が張られていて、抵抗はしたけれど、すぐに全員拘束されました。それで……そのまま、そこで……」
どくん。どくん。と、心臓の音がうるさいほどだ。
鉄さびの匂いが微かに鼻腔に這い上ってきたような気がした。
「水瀬君?」
老人が何かを言っているのだが聞こえない。
「“世界の卵”というものを、腹に押し付けられて…それが割れた途端に、すごい痛みが……っなんだかわからないものが身体の中に生まれて……嵐みたいだった。何度も……そこが裂けると思った……。痛くて、苦しくて、気持ち悪くて。吐いても全部血だった。
金木は卵が割れてからすぐに腹が裂けてそこから大量の血が噴き出して……。桂は背中が大きく盛り上がって……血の涙を流して。横川は両足が反対側に曲がって……まるで、石みたいな色になって。宮川はどこが顔なのかわからないくらいにぱんぱんに腫れあがって……はじけて……。中島は……指先が八つに割れて……そこから腕も割れて……全身全部縦に裂けてた。新見は……新見は……俺のほうに手伸ばして……“たすけて”って…そのあと……まるで子供が生まれるみたいに……股間から黒い腕が……っ」
口の中に血の味がする。
腹の奥がずく。ずく。と酷く痛む。
それでも、翡翠の身体はまだ原型をとどめていた。部屋にはほかにも肉の塊がいくつも転がっていて、翡翠たちより前に実験に使われて同じようなことがあったのだと理解できた。すぐに自分も彼女らの仲間になるのだと絶望だけが心に広がった。
腹を裂かれ、力なく翡翠を見る光を失った瞳。伸ばされたまま裂けた指先。全部さっきのことのように鮮明に思い出せた。
「水瀬君。やめたまえ」
「俺はそこで、3日間……。こわか……った。普通に死ねた奴なんて一人もいなくて。後から入ってきたやつも……みんな苦しんで、苦しんで、異形みたいな姿になって……死んだ。
先生。教えてください。俺は……怖い。もしかしたら、異形は……」
「やめなさい!」
老人は低く唸った。激しくはないけれど、有無を言わせない響きがある声だった。
「……っ……すみま……せ」
その声にやっと、自分が酷く取り乱していたのだと気づく。涙が頬を伝っていた。
「いや。水瀬君。責めているんじゃない。もう、辛いことは言わなくていい」
その翡翠の顔に、老人は優しく微笑んでくれた。とても優しい声だった。
便宜上、C級のライセンスを持つスレイヤーは単独で行動することを許される。しかし、C級に昇格して、1年以内の者は原則監督官と共に行動する。という、暗黙のルールがあった。だから、高校を卒業したばかりの一青が単独で行動しているというのは、高校卒業時に既にC級ライセンスを取得して一年以上が経過しているということになる。殆どの者は、高校卒業時にはD級ライセンスであることを考えると、いかに一青が優秀なスレイヤーかわかる。
「久米木という男と、君以外は全員女性だったのか?」
老人の言葉に翡翠はまた、しばし沈黙した。
その風景が心の中によみがえってきたからだ。
どくん。
と、心臓が強く拍動する。
「いえ。俺ともう一人。金木という混合系のスレイヤーがいました。
現場に着くと、あたりは酷い有様でした。別に事故が起きたからじゃないです。
事故現場と言って連れていかれた部屋の中は血だらけで……元が人間だったとは思えないような形をしたものが……。息をしている人も何人かいました。
その部屋は、魔光を封じる結界が張られていて、抵抗はしたけれど、すぐに全員拘束されました。それで……そのまま、そこで……」
どくん。どくん。と、心臓の音がうるさいほどだ。
鉄さびの匂いが微かに鼻腔に這い上ってきたような気がした。
「水瀬君?」
老人が何かを言っているのだが聞こえない。
「“世界の卵”というものを、腹に押し付けられて…それが割れた途端に、すごい痛みが……っなんだかわからないものが身体の中に生まれて……嵐みたいだった。何度も……そこが裂けると思った……。痛くて、苦しくて、気持ち悪くて。吐いても全部血だった。
金木は卵が割れてからすぐに腹が裂けてそこから大量の血が噴き出して……。桂は背中が大きく盛り上がって……血の涙を流して。横川は両足が反対側に曲がって……まるで、石みたいな色になって。宮川はどこが顔なのかわからないくらいにぱんぱんに腫れあがって……はじけて……。中島は……指先が八つに割れて……そこから腕も割れて……全身全部縦に裂けてた。新見は……新見は……俺のほうに手伸ばして……“たすけて”って…そのあと……まるで子供が生まれるみたいに……股間から黒い腕が……っ」
口の中に血の味がする。
腹の奥がずく。ずく。と酷く痛む。
それでも、翡翠の身体はまだ原型をとどめていた。部屋にはほかにも肉の塊がいくつも転がっていて、翡翠たちより前に実験に使われて同じようなことがあったのだと理解できた。すぐに自分も彼女らの仲間になるのだと絶望だけが心に広がった。
腹を裂かれ、力なく翡翠を見る光を失った瞳。伸ばされたまま裂けた指先。全部さっきのことのように鮮明に思い出せた。
「水瀬君。やめたまえ」
「俺はそこで、3日間……。こわか……った。普通に死ねた奴なんて一人もいなくて。後から入ってきたやつも……みんな苦しんで、苦しんで、異形みたいな姿になって……死んだ。
先生。教えてください。俺は……怖い。もしかしたら、異形は……」
「やめなさい!」
老人は低く唸った。激しくはないけれど、有無を言わせない響きがある声だった。
「……っ……すみま……せ」
その声にやっと、自分が酷く取り乱していたのだと気づく。涙が頬を伝っていた。
「いや。水瀬君。責めているんじゃない。もう、辛いことは言わなくていい」
その翡翠の顔に、老人は優しく微笑んでくれた。とても優しい声だった。
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