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The Ugly Duckling
medical examination 9/17
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「魔光アカデミーという場所の話を聞かせてくれるかね」
老人の言葉に、翡翠は目を閉じてその頃のことを思い出す。あまり思い出さないようにしていた記憶だ。いい思い出なんて何もない。
しばし目を閉じて、翡翠は口を開いた。
「アカデミーには5歳から15歳の子供がいました。俺が卒業した頃は50人くらいだったと思います。
そこから、フロンティアラインの系列の学校法人が経営している私立の小中一貫校に通わされていました。その学校には、アカデミーの子供以外も通っていたと思います。通常の授業が終わると、課外活動とか部活動とかは認められていなくて、すぐにアカデミーに帰って、魔光の開発にすべての時間を費やしました」
「具体的には? 覚えているかね?」
「はい。……年少寮ではとにかく精神を集中することを求められました。蝋燭を何時間も見つめたり、ひたすらカードの裏に書かれている図形を当てたり、すごく狭い台の上に何時間も立たされたり。あんなの意味あったのかな?
年中寮になると、アルカの魔道文字とか、延々と書かされ続けたり、高濃度の魔昏帯にずっと置き去りにされたり、拘束した異形とずっと対面させられ続けたり。
年長寮では、属性に合った壱の魔法を持続的にずっと使い続けるって言うのを倒れるまでやらされました。
それから。……えと。年齢には関係なく。なんだか得体のしれない薬を毎日投与されて……監督官は魔光の総量が上がる薬とか言ってたけど……本当のところはよくわかりません。
週に3日は、スレイヤーになるための体力づくりって言って、走らされたり、格闘技を習わされたり。殆ど無節操に色んなことやらされてたと思います。
逆らうと殴られて、煙草押し付けられたり、食事をもらえなかったり、俺も……3回も腕を折られました。だけど……誰も……学校の先生も助けてはくれなかった……。中には性的な虐待を受けていた子もいるみたいです」
のちになってみれば納得できたのだが、ゲートの研究に使う者たちを育てるための場所だったから、アカデミーにいた子供の8割は女児だった。たまにいた男児はおそらくカムフラージュのためだったのだろう。
容姿の優れている子は監督官の慰み者になっていたらしい。もちろん、男児である上に殆ど目立つことのない翡翠はほかの男児同様、ストレス発散に殴られるのが役目だった。
「……そんなことが、中学を卒業するまでずっと?」
そこで初めて老人の目に負の感情が宿る。おそらく怒りだ。けれど、老人の表情はあまり変わらない。淡々と問いかけてくる。
「はい。
高校は……国立の学校だったし……寮だったから。でも、毎週、フロンティアラインの担当者が会いに来て……逃げられませんでした。逃げたら……違う高校に入った仲間や、アカデミーに残ってる子たちがひどい目に合うって、脅されて。みんな必死に勉強しました。あんな酷いところに一緒にいた仲間は……絶対に裏切れない」
少なくとも、翡翠にとって、彼らは仲間だった。彼らがどう思っていたかはわからない。深い接触を持つことは禁じられていた。
「そうか」
「あの……アカデミーはどうなりましたか? 俺と同じころ、スレイヤーになった仲間は?」
この質問に対する答えは半分は分かっていた。
アカデミーがどうなったかはわからない。けれど、仲間がどうなったかは想像できる。
「アカデミーにいた子供たちはみな保護されたよ。今は、国の児童保護施設にいる。
君の仲間のスレイヤーは……ほとんどが行方不明だ。君とほぼ同時期に任務中の事故で。
そのことが今回、奈落への家宅捜索が行われた理由だ。君を含む100名近いスレイヤーが同時期に失踪しているのだ。不審に思わないほうがおかしい。フロンティアラインの研究室の連中はともかく、おそらく、彼らは隠すつもりなどなかったのだろう。黒蛇の連中はな」
一青が何も教えてくれなかったから、答えてもらえないかと思っていたのに、以外にも老人は答えてくれた。だとすると、一青が自分に何も話さなかったのは、たぶん、守秘義務の問題というよりも、翡翠に配慮してくれていたのだ。
一青は、きっと翡翠がこんな気持ちになると気づいていたのだ。
老人の言葉に、翡翠は目を閉じてその頃のことを思い出す。あまり思い出さないようにしていた記憶だ。いい思い出なんて何もない。
しばし目を閉じて、翡翠は口を開いた。
「アカデミーには5歳から15歳の子供がいました。俺が卒業した頃は50人くらいだったと思います。
そこから、フロンティアラインの系列の学校法人が経営している私立の小中一貫校に通わされていました。その学校には、アカデミーの子供以外も通っていたと思います。通常の授業が終わると、課外活動とか部活動とかは認められていなくて、すぐにアカデミーに帰って、魔光の開発にすべての時間を費やしました」
「具体的には? 覚えているかね?」
「はい。……年少寮ではとにかく精神を集中することを求められました。蝋燭を何時間も見つめたり、ひたすらカードの裏に書かれている図形を当てたり、すごく狭い台の上に何時間も立たされたり。あんなの意味あったのかな?
年中寮になると、アルカの魔道文字とか、延々と書かされ続けたり、高濃度の魔昏帯にずっと置き去りにされたり、拘束した異形とずっと対面させられ続けたり。
年長寮では、属性に合った壱の魔法を持続的にずっと使い続けるって言うのを倒れるまでやらされました。
それから。……えと。年齢には関係なく。なんだか得体のしれない薬を毎日投与されて……監督官は魔光の総量が上がる薬とか言ってたけど……本当のところはよくわかりません。
週に3日は、スレイヤーになるための体力づくりって言って、走らされたり、格闘技を習わされたり。殆ど無節操に色んなことやらされてたと思います。
逆らうと殴られて、煙草押し付けられたり、食事をもらえなかったり、俺も……3回も腕を折られました。だけど……誰も……学校の先生も助けてはくれなかった……。中には性的な虐待を受けていた子もいるみたいです」
のちになってみれば納得できたのだが、ゲートの研究に使う者たちを育てるための場所だったから、アカデミーにいた子供の8割は女児だった。たまにいた男児はおそらくカムフラージュのためだったのだろう。
容姿の優れている子は監督官の慰み者になっていたらしい。もちろん、男児である上に殆ど目立つことのない翡翠はほかの男児同様、ストレス発散に殴られるのが役目だった。
「……そんなことが、中学を卒業するまでずっと?」
そこで初めて老人の目に負の感情が宿る。おそらく怒りだ。けれど、老人の表情はあまり変わらない。淡々と問いかけてくる。
「はい。
高校は……国立の学校だったし……寮だったから。でも、毎週、フロンティアラインの担当者が会いに来て……逃げられませんでした。逃げたら……違う高校に入った仲間や、アカデミーに残ってる子たちがひどい目に合うって、脅されて。みんな必死に勉強しました。あんな酷いところに一緒にいた仲間は……絶対に裏切れない」
少なくとも、翡翠にとって、彼らは仲間だった。彼らがどう思っていたかはわからない。深い接触を持つことは禁じられていた。
「そうか」
「あの……アカデミーはどうなりましたか? 俺と同じころ、スレイヤーになった仲間は?」
この質問に対する答えは半分は分かっていた。
アカデミーがどうなったかはわからない。けれど、仲間がどうなったかは想像できる。
「アカデミーにいた子供たちはみな保護されたよ。今は、国の児童保護施設にいる。
君の仲間のスレイヤーは……ほとんどが行方不明だ。君とほぼ同時期に任務中の事故で。
そのことが今回、奈落への家宅捜索が行われた理由だ。君を含む100名近いスレイヤーが同時期に失踪しているのだ。不審に思わないほうがおかしい。フロンティアラインの研究室の連中はともかく、おそらく、彼らは隠すつもりなどなかったのだろう。黒蛇の連中はな」
一青が何も教えてくれなかったから、答えてもらえないかと思っていたのに、以外にも老人は答えてくれた。だとすると、一青が自分に何も話さなかったのは、たぶん、守秘義務の問題というよりも、翡翠に配慮してくれていたのだ。
一青は、きっと翡翠がこんな気持ちになると気づいていたのだ。
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