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The Ugly Duckling
medical examination 7/17
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翡翠の担当医の大泉は、国内の魔道医療研究者の中で、名前を知らないものがいないほどの権威だった。年齢はおそらく60を超えてはいるだろう。魔の金曜日以来、短くなり続けた平均寿命は現在男性62歳。女性64歳だ。それでも、ドーム都市の誕生以前は50歳を下回っていたことを考えれば、これでもマシになったと言える。
だから、60歳の大家はかなりの高齢と言えた。
けれど、大泉は年齢を感じさせない矍鑠とした人物で、あと30年は生きるぞ。と、高らかに笑っていた。
「検査した限りでは、君の身体には取り立てて異常は見られないな」
デスクに向かって翡翠のカルテを確認して、大泉は言った。
現在は14時。午前は殆どを化学医療の検査に費やした。午後になって、魔道医療の検査も行われたけれど、ゲートへの影響を鑑みて最小限の検査にとどまっていた。
「問題は痩せ過ぎだけだ。脂を食いなさい。脂を」
かかか。と、高らかに大泉は笑う。嫌味や含みのない気持ちのいい笑い方をする人だった。
「異常がみられるのは…ゲートだな。ふむ。吸魔の十三か。まだ、使えるものがおったとは…」
腕組みをして、難しい表情を浮かべる大泉に翡翠はなんだか申し訳ないような気分になる。
「君のゲートは通常の生成過程意を経ていない。
君ももちろん知っていることとは思うが、ゲートが男性の身体に発生したという記録は今までに一例も報告されてはいない。少なくとも自然発生では男性体にゲートが発生することはない。
だから、今までの記録では君のゲートが何故安定しているのか、この先安定し続けることができるのかわからない。少しでも君のゲートのことを知るためにも、もし、君さえよければ、君のことを少し聞かせてほしいのだが……」
そこまで言って、大泉は手元のカルテから、顔をあげて、翡翠を見つめてきた。深い緑色の瞳だ。
「ああ。いや。しかし、君は昨日助け出されたばかりだと言ったな。もう少しゆっくりと……」
彼が翡翠を気遣ってくれているのは分かった。それはありがたかったけれど、正直嫌なことを後で思い出すよりも、早く終わらせてしまいたいと思う。
「あの……俺は大丈夫です。なんでも聞いてください」
だから、翡翠は言った。
「うむ。わかった。ただ、応えたくないことや、言いたくないことがあったら、遠慮なく拒否してくれ。それと、これは医療行為だ。もちろん守秘義務は守るよ」
大泉は優し気な顔に深い皺を刻んで笑う。
けれど、翡翠は首を振った。
「いえ。構いません。警察の方が来られたら……すべて話してください。……その。何度も同じことを話すのは……辛いので」
翡翠がそう言うと、大泉はわずかに顔を曇らせた。怒っているとか、不快だとかそういう類の表情ではない。その表情を言葉にするなら、多分”不憫”だ。けれど、彼は翡翠にそれを悟られないようにすぐに笑顔に戻る。
「わかったよ。君は確かスレイヤーだったな。覚悟はあるということか…」
独り言のように言ってから、老人は翡翠の前にボイスレコーダーを置いた。
「録っても構わないかね?」
「はい」
翡翠の言葉に、小さく、ピと音がして、ボイスレコーダーが動き出した。
だから、60歳の大家はかなりの高齢と言えた。
けれど、大泉は年齢を感じさせない矍鑠とした人物で、あと30年は生きるぞ。と、高らかに笑っていた。
「検査した限りでは、君の身体には取り立てて異常は見られないな」
デスクに向かって翡翠のカルテを確認して、大泉は言った。
現在は14時。午前は殆どを化学医療の検査に費やした。午後になって、魔道医療の検査も行われたけれど、ゲートへの影響を鑑みて最小限の検査にとどまっていた。
「問題は痩せ過ぎだけだ。脂を食いなさい。脂を」
かかか。と、高らかに大泉は笑う。嫌味や含みのない気持ちのいい笑い方をする人だった。
「異常がみられるのは…ゲートだな。ふむ。吸魔の十三か。まだ、使えるものがおったとは…」
腕組みをして、難しい表情を浮かべる大泉に翡翠はなんだか申し訳ないような気分になる。
「君のゲートは通常の生成過程意を経ていない。
君ももちろん知っていることとは思うが、ゲートが男性の身体に発生したという記録は今までに一例も報告されてはいない。少なくとも自然発生では男性体にゲートが発生することはない。
だから、今までの記録では君のゲートが何故安定しているのか、この先安定し続けることができるのかわからない。少しでも君のゲートのことを知るためにも、もし、君さえよければ、君のことを少し聞かせてほしいのだが……」
そこまで言って、大泉は手元のカルテから、顔をあげて、翡翠を見つめてきた。深い緑色の瞳だ。
「ああ。いや。しかし、君は昨日助け出されたばかりだと言ったな。もう少しゆっくりと……」
彼が翡翠を気遣ってくれているのは分かった。それはありがたかったけれど、正直嫌なことを後で思い出すよりも、早く終わらせてしまいたいと思う。
「あの……俺は大丈夫です。なんでも聞いてください」
だから、翡翠は言った。
「うむ。わかった。ただ、応えたくないことや、言いたくないことがあったら、遠慮なく拒否してくれ。それと、これは医療行為だ。もちろん守秘義務は守るよ」
大泉は優し気な顔に深い皺を刻んで笑う。
けれど、翡翠は首を振った。
「いえ。構いません。警察の方が来られたら……すべて話してください。……その。何度も同じことを話すのは……辛いので」
翡翠がそう言うと、大泉はわずかに顔を曇らせた。怒っているとか、不快だとかそういう類の表情ではない。その表情を言葉にするなら、多分”不憫”だ。けれど、彼は翡翠にそれを悟られないようにすぐに笑顔に戻る。
「わかったよ。君は確かスレイヤーだったな。覚悟はあるということか…」
独り言のように言ってから、老人は翡翠の前にボイスレコーダーを置いた。
「録っても構わないかね?」
「はい」
翡翠の言葉に、小さく、ピと音がして、ボイスレコーダーが動き出した。
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