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The Ugly Duckling
medical examination 5/17
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たった20分ほどだったけれど、外を歩くのはすごく気持ちがよかった。一青の家は大学からはさほど離れてはいない。そのくらいの時間ならばと、ずっと暗い部屋に閉じ込められていた翡翠の気持ちを推し量って、一青は迎えを断ってくれたのだ。
魔道ガラスは殆ど光を屈折させない。だから、ガラス越しとはいっても殆ど外にいるのと変わらない。コンピュータと魔道で制御された気候は作り物だけれど、頬に当たる風は心地いい。翡翠は少年時代をドームの中ではなく、外で過ごしたのだが、殆ど違いは感じられなかった。
「帰りに少し買い物していこうか? 着替えや日用品もほしいよな」
す。と、隣を歩いていた一青が少し身体を寄せてくる。別に道路が狭いわけではない。
「……でも。俺、お金ないし」
一青の言葉に、翡翠は俯いた。拉致される前には多少ではあるが、預貯金もあったのだが、失踪どころかおそらく死亡届すら出ているかもしれない。
「翡翠さんはゲートだから、政府から援助受けられるよ」
いつも、翡翠のほうばかりを見ている一青がす。と、視線を逸らす。一青は政府。というよりも、魔法庁にあまりいい印象を持ってはいないようだ。
「……けど、お役所に借りは作らないほうがいい。翡翠さんをそんなもんで縛らせたくない。俺が出すから、帰り服見てこ?」
そう言って翡翠に向けてくれる視線はどこまでも優しい。一青の顔を見上げるとちょうどその肩の向こうに太陽が輝いている。
だから、気づいた。一青が身体を寄せたのは、太陽の光から翡翠を守るためだ。一年以上暗い部屋で監禁されて、真っ白になってしまった翡翠の肌を守るためなのだ。
「でも。俺、一青君に頼ってばっかで……」
一青は何も言わずに、翡翠を守ってくれる。きっと、昨夜病院から出してもらえたのも、一青が交渉してくれたのだろう。窓はあるとはいえ、監禁されていた部屋のような無機質な部屋に一人残される翡翠を心配してくれたのだ。
「頼ってくれんのすげえうれしい。俺、翡翠さんが思ってるより稼いでるから大丈夫だよ」
ゲートキーパーは、扉の番人であり、ゲートを守護するものだ。だから、一青は殆ど本能的に翡翠を守ろうとする。それが、嬉しいような切ないような気持になる。
守ってもらえるのは嬉しい。けれど、彼が守っているのは翡翠の中のゲートだ。それが切ない。
「ありがと」
けれど、それでも、一青が自分のそばにいてくれるなら構わないと、思い始めている。大切にされているのはゲートでも、それは確実に翡翠の中に存在しているのだ。
だから、翡翠は手を伸ばして、一青の手を握った。
「翡翠さん?」
“外で手をつなぐのなんて、嫌かな?”と、一青は遠慮してくれていた。けれど、翡翠は触れていたかった。“魔光を逃がすため”とか、口実なんて何でもいい。
「……繋いでいて……いいかな?」
躊躇いがちに問うと、一青はものすごく嬉しそうに笑った。
「もちろん。大歓迎」
そう言った瞬間にぐい。と、一青の腕が翡翠を引っ張った。
「わ」
思わずよろけて、一青の腕に寄りかかる。次の瞬間に車がスピードをあげて二人の横を通り抜けた。
「あぶねえな」
翡翠を腕に収めたまま、一青は呟いた。
「大丈夫?」
それから、そのまま優しく優しく笑う。
「……へ……いき。あの……ありがと」
素直にお礼を言うと、一青は翡翠を腕の中から解放して、道路とは反対側に場所を変えてくれた。それから、自分の着ていた上着を脱いで翡翠の肩にかける。
「着てて。ちょっと暑いかもだけど、翡翠さん色白いから日焼けすると、あと辛いよ? こっちのが日影だけど、結構車通り激しいし」
そう言ってから、一青は翡翠の手を握りなおした。
「握ってていいなら、家からずっと繋いで来ればよかった」
そうして、そのまま手を引いて歩いてくれる。
病院の建物はもう、すぐそこに見えている。この道のりがもう少し続けばいいと願う翡翠だった。
魔道ガラスは殆ど光を屈折させない。だから、ガラス越しとはいっても殆ど外にいるのと変わらない。コンピュータと魔道で制御された気候は作り物だけれど、頬に当たる風は心地いい。翡翠は少年時代をドームの中ではなく、外で過ごしたのだが、殆ど違いは感じられなかった。
「帰りに少し買い物していこうか? 着替えや日用品もほしいよな」
す。と、隣を歩いていた一青が少し身体を寄せてくる。別に道路が狭いわけではない。
「……でも。俺、お金ないし」
一青の言葉に、翡翠は俯いた。拉致される前には多少ではあるが、預貯金もあったのだが、失踪どころかおそらく死亡届すら出ているかもしれない。
「翡翠さんはゲートだから、政府から援助受けられるよ」
いつも、翡翠のほうばかりを見ている一青がす。と、視線を逸らす。一青は政府。というよりも、魔法庁にあまりいい印象を持ってはいないようだ。
「……けど、お役所に借りは作らないほうがいい。翡翠さんをそんなもんで縛らせたくない。俺が出すから、帰り服見てこ?」
そう言って翡翠に向けてくれる視線はどこまでも優しい。一青の顔を見上げるとちょうどその肩の向こうに太陽が輝いている。
だから、気づいた。一青が身体を寄せたのは、太陽の光から翡翠を守るためだ。一年以上暗い部屋で監禁されて、真っ白になってしまった翡翠の肌を守るためなのだ。
「でも。俺、一青君に頼ってばっかで……」
一青は何も言わずに、翡翠を守ってくれる。きっと、昨夜病院から出してもらえたのも、一青が交渉してくれたのだろう。窓はあるとはいえ、監禁されていた部屋のような無機質な部屋に一人残される翡翠を心配してくれたのだ。
「頼ってくれんのすげえうれしい。俺、翡翠さんが思ってるより稼いでるから大丈夫だよ」
ゲートキーパーは、扉の番人であり、ゲートを守護するものだ。だから、一青は殆ど本能的に翡翠を守ろうとする。それが、嬉しいような切ないような気持になる。
守ってもらえるのは嬉しい。けれど、彼が守っているのは翡翠の中のゲートだ。それが切ない。
「ありがと」
けれど、それでも、一青が自分のそばにいてくれるなら構わないと、思い始めている。大切にされているのはゲートでも、それは確実に翡翠の中に存在しているのだ。
だから、翡翠は手を伸ばして、一青の手を握った。
「翡翠さん?」
“外で手をつなぐのなんて、嫌かな?”と、一青は遠慮してくれていた。けれど、翡翠は触れていたかった。“魔光を逃がすため”とか、口実なんて何でもいい。
「……繋いでいて……いいかな?」
躊躇いがちに問うと、一青はものすごく嬉しそうに笑った。
「もちろん。大歓迎」
そう言った瞬間にぐい。と、一青の腕が翡翠を引っ張った。
「わ」
思わずよろけて、一青の腕に寄りかかる。次の瞬間に車がスピードをあげて二人の横を通り抜けた。
「あぶねえな」
翡翠を腕に収めたまま、一青は呟いた。
「大丈夫?」
それから、そのまま優しく優しく笑う。
「……へ……いき。あの……ありがと」
素直にお礼を言うと、一青は翡翠を腕の中から解放して、道路とは反対側に場所を変えてくれた。それから、自分の着ていた上着を脱いで翡翠の肩にかける。
「着てて。ちょっと暑いかもだけど、翡翠さん色白いから日焼けすると、あと辛いよ? こっちのが日影だけど、結構車通り激しいし」
そう言ってから、一青は翡翠の手を握りなおした。
「握ってていいなら、家からずっと繋いで来ればよかった」
そうして、そのまま手を引いて歩いてくれる。
病院の建物はもう、すぐそこに見えている。この道のりがもう少し続けばいいと願う翡翠だった。
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