【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

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The Ugly Duckling

medical examination 2/17

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 その顔に、また何か失敗してしまったのだろうかと不安になる。勝手にキッチンを使ってしまって、ずうずうしかっただろうか。一青には別に予定があったのだろうか。手作りの朝食なんて重かっただろうか。

「あの……一青……く」

「……マジで…すげー嬉しい」

 弁解をしようとした翡翠の言葉を遮って、一青は少しハイテンションになって言った。それから、慌ててカウンタの向こうから、キッチンのほうへ入ってくる。

「わ。スープとかも作ってくれたの? すげ。うまそ」

 翡翠の後ろから抱きしめるみたいに首に腕を回して、調理台に並んだサラダやら、スープの鍋を見て、耳元に一青が言う。産毛に吐息がかかってくすぐったい。けれど、逃げようとかそんな気持ちは芥子粒ほどにもない。一青の温もりと、匂いが心地いい。

「俺、早起き苦手だから、朝は大抵パンと牛乳と目玉焼きだけなんだ。
 だから、こゆうのすげー嬉しい。まるでさ……新婚さんみたいだな」

 ちゅ。と、優しく翡翠の髪にキスをして、一青に腰を抱き寄せられる。本当に同棲中の恋人か、新婚さんみたいだ。いや、同棲していた時だって、翡翠はこんなふうに喜んでもらったことも、優しくしてもらったこともない。

「……あ、ええっと。あと……オムレツ……作ろうかな……って思ってる」

 確か(?)まだ、二人は恋人同士ですらない。プロポーズはされたけれど、好きだとすら返しはいない。
 多分(??)付き合っていない者同士の距離としては近すぎる。というか、もう、キスも受け入れてしまったし、もしかしたら、こういうのを付き合っているというのだろうかという気持ちになる。

「オムレツ? あー。俺、どうやっても上手くできねえんだよな。翡翠さん、見本見せてくれる?」

 ぐい。と、腰を抱いて、片手で顔をあげられて、一青の綺麗な青い瞳が覗き込んでいる。見本見せて。と言ったわりには、引き寄せる腕は力強くて、離してくれそうにはない。それどころか、上を向かされた顔のすぐそばに一青の顔があって、まるで、このままキスされてしまいそうな勢いだ。

「……い……いけど……その。一青君……ちか……い」

 顔を背けることができなくて、視線だけが一青の瞳を避けて宙を彷徨う。

「離してくれないと……見本……むり」

 と、言いながらも、翡翠の手ももちろん抵抗なんて一ミリたりともしてはいない。一青の服の胸のあたりを細い指でぎゅ。と、握って、一青の少し強引な抱擁を素直に受け入れていた。

「あー。じゃ、味見していい?」

 何か悪戯を思いついたように含み笑いをして、一青が言う。

「は……え? いいけど……」

 オムレツの。または、出来上がっている料理の。だと、翡翠は思ったのだ。だから、こくりと頷いたのだ。
 けれど、ぺろり。と、一青が舐めたのは翡翠の唇だった。それから、舐めたその場所にちゅ。と、可愛い音がするキスを落とす。

「甘い」

 悪戯がうまくいった少年のような笑顔で、一青は笑った。そして、もう一度、翡翠の唇にキスをする。

「ごちそうさま」

 そう言って、一青は翡翠も、翡翠の唇も、解放した。されたことの意味が頭に浸透してきて、翡翠の頬が真っ赤に染まる。

「い……一青君……っ。味見って。料理のことじゃ。俺、いいってキスのことだって……思わなくて……その。や……だから。……ずる……いよ」

 一青の唇は思ったより柔らかかった。一青は翡翠の唇が甘いと言ったけれど、翡翠には一青の唇がとても甘く感じた。そんなことで頭がいっぱいになっていた。だから、顔を真っ赤にした自分が一青に何と言っているかも、翡翠にはよくわからないほどだった。

「……いや? だった」

 けれど、少し心配げに一青がそう言ったから、翡翠は言葉を止めた。

「迷惑? 俺のこと、嫌い?」

 少し悲し気に一青が言う。

「……そんなっ。こと……あるわけない」

 一青の悲しい顔なんて見たくなかった。だから。翡翠は言った。
 一青が優しくしてくれたり、キスしたいとか、好きだとか思ってくれるのが嫌なわけがない。

「や。じゃない?」

 翡翠の返答に一青が嬉しそうに笑う。それから、確認するように問い返す。

「ん。や……じゃ。ない」

 一青が笑ってくれるのが嬉しくて、翡翠は答えた。
 けれど、その時だった。
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