24 / 224
The Ugly Duckling
Holy Eyes 10/11
しおりを挟む
「俺、今まで兄貴が付き合ってきた人……正直好きじゃなかったけど。翡翠さんならいいよ。や。翡翠さんがいい。きっと、翡翠さんなら兄貴のこと幸せにしてくれる」
ぎゅ。と、翡翠の手を握ってから、“あ。やば”と、慌てて手を離して、紅二が言う。
今日であったばかりで自分の何がわかるのだろうと、自分の中の天邪鬼な部分が囁く。きっと、この兄弟は、あの緋色の髪の人に心からの愛情を注がれてきたのだろう。この世界が優しくて、温かいものでできていると信じているのだ。自分たちが選んだゲートを宿すレアな生き物が、本当はつまらないただの地味な男だと気付きもしないのだ。
同時に分かっていた。結界が消えて、初めて肌で感じたあの湧き上がる清浄な泉のような感覚。間違いようがない。翡翠の中のゲートは確実に一青が翡翠のゲートキーパーだと言っている。これはきっと、本能のようなものだ。だから、一青が翡翠を自分のゲートだと言った意味も分かる。
それなのに、どうして、踏み出せないのか。
「も、少し考えさせてくれるかな」
自分は一青には相応しくない。
一青が惹かれているのは翡翠の中のゲートだ。翡翠のゲートと同じくらいと一青が評した箱根ゲートは、安定的に魔昏を排出する中マイナス規模のゲートだ。魔道発電に利用されていて、横浜ドームクラスのドーム都市の半分の電力を賄える程度の魔昏排出量を誇る。
現在、日本に存在する人型ゲートで、中マイナス規模クラスのゲートを持っているのはただ一人。甲府ドームに暮らす20代のゲートで、波賀都の双子の姉だ。彼女はその人の身には巨大すぎるゲートと引き換えに、手足が木化する難病で自室を出ることすら不可能な身体だ。
そのほかの人型ゲートのほとんどは小規模や極小規模のゲートの持ち主である。とはいえ、極小規模でも、一人で高層マンションの電力を賄うくらいなら容易い。規模の大きなゲートと違い、長時間全開で魔光を放出することも可能だ。
しかし、もちろん、規模の大きなゲートが重要視されることは当然だ。
その点で言って、翡翠のゲートは人型ゲートでは最大クラスと言える。その人型ゲート最大規模のゲートにゲートキーパーが惹かれないわけがない。
「ちょっと。その……混乱していて」
自分を見てほしい。翡翠が嫉妬しているのは自分の中のゲートだ。
けれど、きっと、ゲートのない自分だったら、一青は振り向きもしないだろう。
翡翠は自分がその他大勢なのだと知っていた。物語の主人公になれるのは一青のような選ばれた人間だけだ。いや、その他大勢どころか、翡翠は石ころや道端の草や木と同じなのだ。そこにあることに誰も気づきはしない。
そんな自分が一青に相応しいわけがないのだ。
ずく。と、また、腹の刻印が疼く。それは、翡翠の出した結論が正しいと言っているようだった。
「翡翠さん」
翡翠が使うことになるはずの部屋のドアが開いて、リビングに一青が入ってきた。
「ベッドにシーツ敷いといたよ」
そのまま、翡翠の座るソファのところまで来て、隣に座る。もちろん、ソファには空きスペースなんていくらでもあるのだが、わざわざ隣に座って、顔を覗き込んでくるのだ。
「紅二。翡翠さんのこと困らせてねーだろうな?」
そ。っと、翡翠の手に自分の手を重ねて、そのまま柔らかく握ってから、紅二に向かって一青は言う。
「べ……別に困らせてなんか」
そう言ってから、紅二はちらり。と翡翠を見た。『困らせてなんていないよね?』と、ご主人様のご機嫌を窺う子犬のような瞳で見つめてくる。
「困らされてなんていないよ。アイスの話してただけ」
少し溶け始めたアイスを一口口に入れてから、翡翠は言った。さっきと違って少しほろ苦く感じる。
「あ。翡翠さん、チョコ派? 俺も」
取り繕っているのは分かったかもしれない。
けれど、一青は深く追求することはなかった。
「一口頂戴」
そう言って、スプーンを持った翡翠の手を上からぎゅっと握って、自分の口にアイスを入れる。
「ん。うまい」
にっこりと笑いかけてくれる顔が近い。思わず頬が熱くなってしまう。
「顔。赤いね。のぼせた?」
ぐい。と、身体を寄せて、一青は言う。恥ずかしくて、綺麗な青い瞳が見られない。
「……あ……や。へ……いき」
視線を逸らして俯くと、両手で頬を包み込むように挟まれて顔をあげさせられた。
「平気じゃねーだろ? 真っ赤じゃん。氷嚢出そうか?」
顔が近すぎる。もう、ほんの数センチで唇が触れてしまいそうだ。
「……え? そ……あの……大丈夫……だか……ら」
心臓がばくばく言って、思考が麻痺してしまう。
ぎゅ。と、翡翠の手を握ってから、“あ。やば”と、慌てて手を離して、紅二が言う。
今日であったばかりで自分の何がわかるのだろうと、自分の中の天邪鬼な部分が囁く。きっと、この兄弟は、あの緋色の髪の人に心からの愛情を注がれてきたのだろう。この世界が優しくて、温かいものでできていると信じているのだ。自分たちが選んだゲートを宿すレアな生き物が、本当はつまらないただの地味な男だと気付きもしないのだ。
同時に分かっていた。結界が消えて、初めて肌で感じたあの湧き上がる清浄な泉のような感覚。間違いようがない。翡翠の中のゲートは確実に一青が翡翠のゲートキーパーだと言っている。これはきっと、本能のようなものだ。だから、一青が翡翠を自分のゲートだと言った意味も分かる。
それなのに、どうして、踏み出せないのか。
「も、少し考えさせてくれるかな」
自分は一青には相応しくない。
一青が惹かれているのは翡翠の中のゲートだ。翡翠のゲートと同じくらいと一青が評した箱根ゲートは、安定的に魔昏を排出する中マイナス規模のゲートだ。魔道発電に利用されていて、横浜ドームクラスのドーム都市の半分の電力を賄える程度の魔昏排出量を誇る。
現在、日本に存在する人型ゲートで、中マイナス規模クラスのゲートを持っているのはただ一人。甲府ドームに暮らす20代のゲートで、波賀都の双子の姉だ。彼女はその人の身には巨大すぎるゲートと引き換えに、手足が木化する難病で自室を出ることすら不可能な身体だ。
そのほかの人型ゲートのほとんどは小規模や極小規模のゲートの持ち主である。とはいえ、極小規模でも、一人で高層マンションの電力を賄うくらいなら容易い。規模の大きなゲートと違い、長時間全開で魔光を放出することも可能だ。
しかし、もちろん、規模の大きなゲートが重要視されることは当然だ。
その点で言って、翡翠のゲートは人型ゲートでは最大クラスと言える。その人型ゲート最大規模のゲートにゲートキーパーが惹かれないわけがない。
「ちょっと。その……混乱していて」
自分を見てほしい。翡翠が嫉妬しているのは自分の中のゲートだ。
けれど、きっと、ゲートのない自分だったら、一青は振り向きもしないだろう。
翡翠は自分がその他大勢なのだと知っていた。物語の主人公になれるのは一青のような選ばれた人間だけだ。いや、その他大勢どころか、翡翠は石ころや道端の草や木と同じなのだ。そこにあることに誰も気づきはしない。
そんな自分が一青に相応しいわけがないのだ。
ずく。と、また、腹の刻印が疼く。それは、翡翠の出した結論が正しいと言っているようだった。
「翡翠さん」
翡翠が使うことになるはずの部屋のドアが開いて、リビングに一青が入ってきた。
「ベッドにシーツ敷いといたよ」
そのまま、翡翠の座るソファのところまで来て、隣に座る。もちろん、ソファには空きスペースなんていくらでもあるのだが、わざわざ隣に座って、顔を覗き込んでくるのだ。
「紅二。翡翠さんのこと困らせてねーだろうな?」
そ。っと、翡翠の手に自分の手を重ねて、そのまま柔らかく握ってから、紅二に向かって一青は言う。
「べ……別に困らせてなんか」
そう言ってから、紅二はちらり。と翡翠を見た。『困らせてなんていないよね?』と、ご主人様のご機嫌を窺う子犬のような瞳で見つめてくる。
「困らされてなんていないよ。アイスの話してただけ」
少し溶け始めたアイスを一口口に入れてから、翡翠は言った。さっきと違って少しほろ苦く感じる。
「あ。翡翠さん、チョコ派? 俺も」
取り繕っているのは分かったかもしれない。
けれど、一青は深く追求することはなかった。
「一口頂戴」
そう言って、スプーンを持った翡翠の手を上からぎゅっと握って、自分の口にアイスを入れる。
「ん。うまい」
にっこりと笑いかけてくれる顔が近い。思わず頬が熱くなってしまう。
「顔。赤いね。のぼせた?」
ぐい。と、身体を寄せて、一青は言う。恥ずかしくて、綺麗な青い瞳が見られない。
「……あ……や。へ……いき」
視線を逸らして俯くと、両手で頬を包み込むように挟まれて顔をあげさせられた。
「平気じゃねーだろ? 真っ赤じゃん。氷嚢出そうか?」
顔が近すぎる。もう、ほんの数センチで唇が触れてしまいそうだ。
「……え? そ……あの……大丈夫……だか……ら」
心臓がばくばく言って、思考が麻痺してしまう。
22
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる