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The Ugly Duckling

Holy Eyes 9/11

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「あ。翡翠さん」

 待っていましたとばかりに、紅二が走り寄ってくる。

「ね。アイスあるよ。食べよ? ハーゲン〇ッツ。バニラとチョコとどっちがいい?」

 兄がいきなり連れてきたどこの馬の骨とも分からない男に、こんなに無防備でいいのかと、心配になるくらい紅二は人懐っこい。

「……あれ? ちょっと、のぼせた? 顔赤い。
 あ。じゃ、俺、アイス持ってくるから、そこ座ってて。
 あ。バニラ? チョコ?」

 ぐいぐいと翡翠の腕を掴んで引っ張って、リビングのソファに座らせて、ぱたぱたと紅二はキッチンのほうに駆けていく。それから、振り返って聞いた。

「じゃ、チョコで」

「あー。チョコ派? 兄貴と一緒だ。俺はバニラー」

 一度キッチンの中に引っ込んでから、ばたんばたんと冷凍庫のドアを開け閉めして、すぐに紅二は戻ってきた。手にはアイスのカップと、スプーンが二つ握られている。

「はい」

 それを片方翡翠に手渡して、紅二は翡翠の隣に座った。

「ぶかぶかだね」

 アイスのカップを開けながら、にこにこと笑って紅二が言った。きっと、一青のスウェットのことを言っているのだ。

「ん。俺ちさいし、一青君大きいから」

 同じようにカップを開けて、内蓋を取ろうとして悪戦苦闘していると、紅二がす。と、それを取って開けてくれた。

「俺のがサイズ近いのにさ。兄貴、そのスウェットでいいって聞かねーの。翡翠さんにほかのヤツの服着せるのやなんだぜ」

 翡翠の手にアイスのカップを戻してから、紅二はにやにやと笑って言った。

「やっぱ。バニラうまっ」

 それから、アイスを一口頬張って嬉しそうに笑う。
 つられて翡翠も一口食べると、すごく甘くて幸せな味がした。だから、翡翠も、嬉しくなって微笑んだ。

「なー。翡翠さん」

 ぐりぐりとアイスの表面をスプーンでほじくりながら、紅二は何でもないような口調で言った。けれど、なんとなく、わかる。少しの緊張。

「兄貴のこと……好き?」

 紅二は視線を寄越さない。人懐っこい笑顔も消えている。

「……友達になってほしいって意味では、好きだ。ゲートキーパーとしては、俺にはもったいない。……それ以上のことは……わからない」

 紅二はこんな答えを求めているのではないかもしれない。あんまり真面目過ぎる答えになんだか恥ずかしくなる。きっと、もっと、単純でいいのだ。でも、紅二の緊張が伝わってきて、不真面目な答えなんて出せなかった。

「あの……さ。さっきの冗談だから」

 少し困ったように唇を噛んで紅二が言う。

「さっきの?」

 どのことを言っているのかわからなくて、翡翠は問い返した。

「その……兄貴……ケダモノなんかじゃないよ? そりゃ、何人かは付き合ってた人もいるけど。どの人にもすんげー優しいから」

 そう言ってから、紅二は窺うように翡翠の顔をちら。と、見た。
 もしかしたら、翡翠がわからないといった理由が紅二の冗談にあると思ったのだろうか。

「わかってるよ。一青君はすごく優しいよな」

 答えながら、それでも翡翠の心に引っかかっていたのは、どちらかというと『何人かは付き合ってた人もいる』という言葉だった。当たり前のことなのだが、ちくり。と、小さく胸が痛む。

「そなんだ! 優しいし、強いし、イケメンだし、スレイヤーとしてだって、一流だよ? それに……それに……。いつだって……ずっと、ずっと。俺のことばっかで……自分のこと後回しで……」

 手に持っていたアイスのカップをぎゅっと握って、紅二は言う。

「全然、遊んだりとかもしてねーし。スレイヤーになるためにすげー勉強したり、俺のために毎日メシ作ってくれたり……とにかく……その」

 顔を上げた紅二はすごく真剣な表情だった。
 きっと、よっぽど一青のことが大切なのだ。兄は弟のために、弟は兄のために、何かをしてやらずにはいられないのだろう。

「兄貴、すげーいい男だよ? だから。翡翠さん。兄貴のこと……好きになって?
 兄貴な……うちに人連れてきたのなんて初めてなんだ。今まで、付き合ってるって人だって、うちに入れたことなんてないんだよ。
 きっと、翡翠さんは特別なんだ」

「紅二君」

 まっすぐで綺麗な赤い瞳に見つめられて、翡翠は頬を染めた。この少年が嘘をついているとは思えない。兄に幸せになってほしいと、お節介で拙いながらも、真剣そのものなのだ。
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