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The Ugly Duckling
Holy Eyes 8/11
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「翡翠さん?」
不意に、浴室のすりガラスの向こうから一青の声が聞こえて、翡翠はびくっ。と大きく身体を揺らした。
「……え? あ。なに?」
覆わず声が裏返る。
「着替え。明日の服は用意してもらったけど、パジャマないから、代わりに俺のスウェット置いとくから着て。それから、あんまり長湯するとのぼせるよ? 冷たいもの用意しとくからほどほどにして、あがってな」
相変わらず、優しい声だ。
あんなイケメンが、どうしてこんなに良くしてくれるのか、わかってはいるけれど、勘違いしそうだ。
そういえば、紅二が『翡翠さん、超兄貴の好みのタイプだよな』と、言っていた。もしかしたら、一青は本当にぶす専かも。とか、思ってしまう。
「翡翠さん? 大丈夫?」
返事のない翡翠に一青の心配げな声が聞こえる。
「あ。平気。も、あがる」
翡翠の言葉にほっと、息を吐いたような音が聞こえた。
「ん。よかった。じゃ、リビングにいるから」
そう言って、脱衣所のドアが閉まる音がする。
確かに少し長湯をしてしまったかもしれない。昼間ものぼせかけたのにまた、考え事をしてしまっていた。
浴槽に手をかけて立ち上がると、くらり。と、少し眩暈がする。
「あ」
傾きかけた身体を壁に縋って支えて、翡翠は浴室を出た。
やっぱり、疲れてはいるらしい。今日は一日でいろいろなことがありすぎたのだ。
久米木に身体を弄られて。
客に散々に犯されて。
風呂場でのぼせかけて。
突然現れた驚くほどのイケメンに助けられて。
プロポーズされて、家族紹介されて、お試しとはいえ同居することになって。
たった一日で翡翠の世界は全く別のものに変わってしまった。その変化は怖いくらいで、まだ、全く整理がつかない。娼館から助けられたばかりの被害者なら、きっともっと憔悴しているのだろう。けれど、全部が夢の中の出来事のようで、まだ自分はあの店にいる気がして、救出された喜びも、過去を振り返った恐怖も何も追いついてはくれなかった。
身体についた水滴をバスタオルで拭いて、下着を身に着ける。壁には大きな鏡がかかっているけれど、そちらは見られなかった。自分の醜さを再確認するのは嫌だった。
ボクパンとTシャツを着てから、一青が置いて行った彼のスウェットを手に取る。上着からした匂いと同じ匂いがする。涼やかな一青の匂い。
そっと袖を通すと、それはすごく大きくて、肩幅も、胸の厚さも、袖の長さも、裾の長さも全部ぶかぶかで、子供が大人の服を着ているようだった。まるで、ミニスカートを履いている女の子のように、すっぽりと太腿の半ばまで足が隠れて、袖は指先が全然出なくて、首周りは鎖骨が片方丸見えで恥ずかしいけれど、一青の匂いに包まれるのは悪くない気分だった。
「おおき……」
もちろん、続けて履いたズボンも何回折れば翡翠にあったサイズになるのかわからない。ウエストもぎゅーっとヒモを引き絞ってようやく止めているくらいだった。
「俺……ちびだしな」
翡翠の成長は紅二の歳のころにはもう止まっていた。
栄養状態も決して良かったとは言い難いし、精神的にも常に追い詰められていたし、魔光が増大するという触れ込みの怪しげな薬品を投与されていたし、人並みの成長を望むのは無理だっただろう。身長は何とか166センチまで伸びたのだが、体重は女子かと突っ込みを入れたくなる程度には軽かった。
また、ため息をついて、翡翠は脱衣所を出た。
不意に、浴室のすりガラスの向こうから一青の声が聞こえて、翡翠はびくっ。と大きく身体を揺らした。
「……え? あ。なに?」
覆わず声が裏返る。
「着替え。明日の服は用意してもらったけど、パジャマないから、代わりに俺のスウェット置いとくから着て。それから、あんまり長湯するとのぼせるよ? 冷たいもの用意しとくからほどほどにして、あがってな」
相変わらず、優しい声だ。
あんなイケメンが、どうしてこんなに良くしてくれるのか、わかってはいるけれど、勘違いしそうだ。
そういえば、紅二が『翡翠さん、超兄貴の好みのタイプだよな』と、言っていた。もしかしたら、一青は本当にぶす専かも。とか、思ってしまう。
「翡翠さん? 大丈夫?」
返事のない翡翠に一青の心配げな声が聞こえる。
「あ。平気。も、あがる」
翡翠の言葉にほっと、息を吐いたような音が聞こえた。
「ん。よかった。じゃ、リビングにいるから」
そう言って、脱衣所のドアが閉まる音がする。
確かに少し長湯をしてしまったかもしれない。昼間ものぼせかけたのにまた、考え事をしてしまっていた。
浴槽に手をかけて立ち上がると、くらり。と、少し眩暈がする。
「あ」
傾きかけた身体を壁に縋って支えて、翡翠は浴室を出た。
やっぱり、疲れてはいるらしい。今日は一日でいろいろなことがありすぎたのだ。
久米木に身体を弄られて。
客に散々に犯されて。
風呂場でのぼせかけて。
突然現れた驚くほどのイケメンに助けられて。
プロポーズされて、家族紹介されて、お試しとはいえ同居することになって。
たった一日で翡翠の世界は全く別のものに変わってしまった。その変化は怖いくらいで、まだ、全く整理がつかない。娼館から助けられたばかりの被害者なら、きっともっと憔悴しているのだろう。けれど、全部が夢の中の出来事のようで、まだ自分はあの店にいる気がして、救出された喜びも、過去を振り返った恐怖も何も追いついてはくれなかった。
身体についた水滴をバスタオルで拭いて、下着を身に着ける。壁には大きな鏡がかかっているけれど、そちらは見られなかった。自分の醜さを再確認するのは嫌だった。
ボクパンとTシャツを着てから、一青が置いて行った彼のスウェットを手に取る。上着からした匂いと同じ匂いがする。涼やかな一青の匂い。
そっと袖を通すと、それはすごく大きくて、肩幅も、胸の厚さも、袖の長さも、裾の長さも全部ぶかぶかで、子供が大人の服を着ているようだった。まるで、ミニスカートを履いている女の子のように、すっぽりと太腿の半ばまで足が隠れて、袖は指先が全然出なくて、首周りは鎖骨が片方丸見えで恥ずかしいけれど、一青の匂いに包まれるのは悪くない気分だった。
「おおき……」
もちろん、続けて履いたズボンも何回折れば翡翠にあったサイズになるのかわからない。ウエストもぎゅーっとヒモを引き絞ってようやく止めているくらいだった。
「俺……ちびだしな」
翡翠の成長は紅二の歳のころにはもう止まっていた。
栄養状態も決して良かったとは言い難いし、精神的にも常に追い詰められていたし、魔光が増大するという触れ込みの怪しげな薬品を投与されていたし、人並みの成長を望むのは無理だっただろう。身長は何とか166センチまで伸びたのだが、体重は女子かと突っ込みを入れたくなる程度には軽かった。
また、ため息をついて、翡翠は脱衣所を出た。
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