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The Ugly Duckling

Holy Eyes 6/11

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 結局、ありあわせで作った親子丼を一青も、紅二も喜んで食べてくれた。二人とも『美味い』と、何度も褒めてくれて、用意してあったご飯がなくなるまで、おかわりしてくれた。
 料理だけは本当に自信がある。だから、褒めてもらうと本当に嬉しくて、素直に“ありがとう”と言えた。紅二は『今度は生姜焼き作って!』とか、『手作りのコロッケ食べたい!』とか、すっかり懐いてくれて、唯一の趣味が気に入ってもらえたのが、すごく嬉しくて、なんだかここにいていいと言われているように感じられた。

 食後にはビルの上から下までを案内してもらった。
 1階は元花屋だったらしい。他に緋色が事務所代わりに使っていた応接室と給湯室。花屋のバックヤードと倉庫になっていた。
 2階は高校の寮をやっていたときの食堂。大きな風呂と洋室が1室だけあった。寮をしていただけあって、厨房も食堂も大きい。もとはソファセットはなくて大きな食卓があったらしい。
 3階は居室が何部屋かあった。トイレと、風呂は共同らしい。寮というよりどちらかというとシェアハウスのようなものだったのだろう。
 4階はそこだけで独立した2LDKの住居になっていて、元々鏑木親子はそこに住んでいたそうだ。ただ、寮をやめてから、4階まで上がるのが不便だということで、一青と紅二の居室は3階に。二人のリビングスペースは2階になっているということだった。

 普段は湯を張ることは殆どないという大きな浴槽に両足を長く伸ばして浸かって、翡翠は大きく息を吐いた。食事と、家の各所の紹介と、明日の予定を確認してから、一青は風呂を勧めてくれた。一青に助け出される前に店で入っているのだが、なんだか全部を洗い流してしまいたかったから、翡翠は素直に申し出を受け入れた。

「……ゆ……めみたい……だ」

 湯船の端に頭を預けて、天井を見上げる。たしか、昼にも同じように天井を見上げた。その時とは全く違った天井だ。まるで、ラブホテルみたいなガラスで仕切られた箱のような風呂場ではない。普通の家にしては大きすぎるけれど、どちらかというと温泉宿泊施設の大浴場のような天井だ。もちろん、大浴場というには小さいのだが。

「……でられた……んだ……」

 今日はいろいろなことがありすぎた。
 客が来る日は、必ず前日までに久米木に来客を知らされる。殆どは1日か2日おきだ。誰との接触もしないで魔光を貯めても、商品になる程度に魔光が溜まるのに時間がかかるからだ。
 客が来る日には、久米木が来る。翡翠と接触しても、吸魔の肆をかけた本人である久米木なら魔光の受け渡しを制限できる。折角貯めた魔光を準備段階で放出してしまうわけにはいかないし、無理矢理身体を売らされている翡翠が好き好んで自分で準備をするはずもない。だから、すべて久米木にされるのだ。
 今日も、久米木は朝から翡翠の元に来た。弱弱しく拒絶する翡翠を無理矢理拘束して風呂に入れ、後孔を丁寧に洗浄して、客を受け入れられるように解して、ローションを仕込む。その間、やめてと泣きながら懇願する翡翠の言葉は何一つ届いていない。しかも、久米木はその間ずっと、スラックスの上からも分かるくらいに勃起しているのだ。それなのに、吸魔の十三を翡翠に描くことに費やした1か月以来、久米木が翡翠を抱くことはなかった。
 客が来ると、久米木は黒いソファに座って、じっと翡翠が犯されれるのを見ている。嫌がる客もいるが、不測の事態があった場合、術者がいないと対処できないというのが久米木の言い分だ。
 けれど、違うと翡翠は思う。
 その感情が何というのかは知らない。けれど、久米木は純粋に(それを純粋という言葉で表現するのが正しいとは思えないのだが)翡翠が犯されているのを見たいだけなのだ。

「……っ」

 暗い部屋の隅から翡翠を見つめている黒い瞳を思い出して、翡翠はぞっとして首を振った。助け出されたというのに、未だにふとした瞬間にその目が自分をじっと見ているような感覚に包まれる。おそらくは、吸魔の十三が残ったままだからだ。
 浴槽に沈めた自分自身の身体を見る。そこに浮かぶ黒い文字。酷くグロテスクだ。これを一青に見られたのだと思うと、胸が痛む。きっと、醜いと目を逸らしたくなっただろう。
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