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The Ugly Duckling
Holy Eyes 4/11
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「あ。悪いけど、DDに連絡入れねーと。後でうるせーからな。紅二、少し翡翠さんの話し相手になっててくれ」
一青の手にはスマートフォンが握られている。DDというのは仕事の関係者だろうか。そういえば店にいた時もそんな名前が出ていた。
翡翠と紅二が頷くと、そ。っと、肩に触れてから、ゆったりと微笑んで一青は廊下に出て行った。
「鏑木紅二(かぶらぎこうじ)です。女神川学園中学の2年生です」
きらきらと綺麗な赤い瞳で紅二が見つめてくる。一青とはタイプがまったく違うけれど、きっと、中学ではキャーキャー言われるようなイケメンだ。中2にしては背も高い。
「水瀬です。水瀬……翡翠」
名前を言うのはやっぱり恥ずかしかったけれど、もう一青が言ってしまっていたから、翡翠は正直に名前を言った。
「……翡翠? ははは」
やっぱり笑われてしまった。この反応が普通だ。大体“翡翠”という名前は多分男につける名前ではない。
「まんまだな~。翡翠さんの両親って結構適当? 父ちゃんと一緒だ」
「え?」
笑われるのはいつものことだ。けれど、その後紅二が言っている意味が分からない。
「俺もね。見た目通り。紅で二番目の子供だから紅二。兄貴も一番子で青いから一青。適当だろ?」
人懐っこい笑顔を浮かべて紅二が言う。
いつの間にか敬語も外れている。でも、嫌な感じは全くしない。その子犬のような人懐っこさが心地いい。
「父ちゃん、めっちゃめんどくさがりだったらしいんだ。遺伝だよな~。父ちゃんも名前“緋色”だし。あ。これ」
窓辺に置かれていた写真立ての写真を持ってきて、見せてくれる。
そこには紅二によく似た青年と、青い髪の少年。おそらく一青だと思う。それと、赤い髪の赤ん坊が映っていた。きっと、赤ん坊は紅二だ。
「これ父ちゃん。緋色の髪だから緋色って……じいちゃんも適当過ぎ。だから、きっと翡翠さんの親もそのまんまつけたんだよな」
赤い髪の青年を指さして、紅二が言った。紅二に似ているけれど、線が細くて、でも、紅二と同じように人懐っこい笑顔をした男性だった。
それは、いいのだが、その後の“まんま”の意味がよくわからない。彼は翡翠という宝石を見たことがないのだろうか。
「紅二」
そのことを問いかけようとした時だった。ドアが開いて、一青が戻ってくる。
「兄貴。俺ちゃんと話し相手してたよ」
褒めて褒めてと、しっぽを振っているのが見えるようだった。
思春期の男の子にしては愛想がいい。よっぽど兄のことが好きなのだろう。
「ありがとな」
そう言って一青は紅二の頭を撫でる。小さな子供にするようなことなのに、紅二は嬉しそうに一青に頭を撫でられていた。
「紅二。翡翠さんはゲートだ。わかるな?」
不意に真面目な顔になった一青が言う。
わかるな。とは、どういうことだろうか。ゲートは普通に外見からわかるようなものではない。普段なら精神を集中して魔光を探ればわからないことはないだろうけれど、翡翠には現在、強力な識阻の魔法がかけられている。
「うん。ゲートって、男の人もいるんだ。
すごいね。箱根ゲートくらいは……あるかも……それから、なに? 吸魔……3つも? よく普通に生活できてるね」
じっと赤い瞳が見つめている。しかし、紅二の瞳は翡翠を見ていないように見える。何もない空間を見ているのだ。
一青が言っていたゲートの規模と、全く同じことを言っている。けれど、紅二がゲートキーパーでないことは翡翠にもわかる。翡翠の中のゲートが反応を示していない。それなのに、彼には何故ゲートが見えるのだろうか。
「俺は、この人のゲートキーパーになりたい」
一青の言葉に紅二は今度は一青をじっと見つめる。そのガーネットのような色の赤い瞳は何もかも見透かしてしまうように見えた。
「んー。俺はいいけどさー」
紅二の答えに翡翠はため息を吐きたくなった。彼は自分の親のことを“適当”と評したのだが、彼自身の答えも相当に適当だ。いや。多分、彼は人型ゲートのゲートキーパーになることの意味が分かっていないのだろう。兄がこんなどこの馬の骨とも分からない男に一生縛られることになるなんて、考えてもいないのだろう。
「兄貴強引だからさー。翡翠さんの意思はちゃんと聞いてんの? 無理矢理、契約の印描いちゃえばいいとか思ってんだったら、俺絶対反対だよ」
紅二の口から契約の印の話が出たことが驚きだった。彼は、ゲートとゲートキーパーの関係について、きちんと理解しているようだ。その上で、兄が男である自分のゲートキーパーになってもいいと言っているのだ。
「んなわけねえだろ。だから、契約する前にうちに連れてきたんだよ。
いきなり契約してほしいとか無理なことくらいわかってるよ。だから、あんま時間ねえけど、できるだけ一緒にいて、俺のこと知ってもらおうと思ったんだろ」
一青の返答に、紅二が少し疑わし気な目を向ける。
「そんなこと言って。やーらしーこと考えてるんじゃねーの? 翡翠さん、超兄貴の好みのタイプだよな~。兄貴が狙ってる人うちに連れ込むなんて初めてじゃん。キセイジジツつくって、結婚に持ち込む気だろ。うーわ。やーらしー」
完全に面白がっている紅二にため息を一つついて、一青はその頭に拳骨を一つくれた。
「いてっ。何すんだよ~。本当のことだろ? 翡翠さん。気を付けて、この人ケダモノだから。近づいたらすぐに妊娠させられるよ~」
ソファから立って、翡翠の後ろに回り込んで、耳元に紅二が言う。その表情はすっごく楽しそうだ。きっと、この兄弟はいつもこんな感じなのだろう。家族のことを何も覚えていない翡翠には羨ましかった。
「ざけんな。人聞きのわりーこというな。翡翠さん。こいつの言ってることは聞かなくていいからな」
一青の必死な弁解に翡翠は思わず微笑んだ。
一青の手にはスマートフォンが握られている。DDというのは仕事の関係者だろうか。そういえば店にいた時もそんな名前が出ていた。
翡翠と紅二が頷くと、そ。っと、肩に触れてから、ゆったりと微笑んで一青は廊下に出て行った。
「鏑木紅二(かぶらぎこうじ)です。女神川学園中学の2年生です」
きらきらと綺麗な赤い瞳で紅二が見つめてくる。一青とはタイプがまったく違うけれど、きっと、中学ではキャーキャー言われるようなイケメンだ。中2にしては背も高い。
「水瀬です。水瀬……翡翠」
名前を言うのはやっぱり恥ずかしかったけれど、もう一青が言ってしまっていたから、翡翠は正直に名前を言った。
「……翡翠? ははは」
やっぱり笑われてしまった。この反応が普通だ。大体“翡翠”という名前は多分男につける名前ではない。
「まんまだな~。翡翠さんの両親って結構適当? 父ちゃんと一緒だ」
「え?」
笑われるのはいつものことだ。けれど、その後紅二が言っている意味が分からない。
「俺もね。見た目通り。紅で二番目の子供だから紅二。兄貴も一番子で青いから一青。適当だろ?」
人懐っこい笑顔を浮かべて紅二が言う。
いつの間にか敬語も外れている。でも、嫌な感じは全くしない。その子犬のような人懐っこさが心地いい。
「父ちゃん、めっちゃめんどくさがりだったらしいんだ。遺伝だよな~。父ちゃんも名前“緋色”だし。あ。これ」
窓辺に置かれていた写真立ての写真を持ってきて、見せてくれる。
そこには紅二によく似た青年と、青い髪の少年。おそらく一青だと思う。それと、赤い髪の赤ん坊が映っていた。きっと、赤ん坊は紅二だ。
「これ父ちゃん。緋色の髪だから緋色って……じいちゃんも適当過ぎ。だから、きっと翡翠さんの親もそのまんまつけたんだよな」
赤い髪の青年を指さして、紅二が言った。紅二に似ているけれど、線が細くて、でも、紅二と同じように人懐っこい笑顔をした男性だった。
それは、いいのだが、その後の“まんま”の意味がよくわからない。彼は翡翠という宝石を見たことがないのだろうか。
「紅二」
そのことを問いかけようとした時だった。ドアが開いて、一青が戻ってくる。
「兄貴。俺ちゃんと話し相手してたよ」
褒めて褒めてと、しっぽを振っているのが見えるようだった。
思春期の男の子にしては愛想がいい。よっぽど兄のことが好きなのだろう。
「ありがとな」
そう言って一青は紅二の頭を撫でる。小さな子供にするようなことなのに、紅二は嬉しそうに一青に頭を撫でられていた。
「紅二。翡翠さんはゲートだ。わかるな?」
不意に真面目な顔になった一青が言う。
わかるな。とは、どういうことだろうか。ゲートは普通に外見からわかるようなものではない。普段なら精神を集中して魔光を探ればわからないことはないだろうけれど、翡翠には現在、強力な識阻の魔法がかけられている。
「うん。ゲートって、男の人もいるんだ。
すごいね。箱根ゲートくらいは……あるかも……それから、なに? 吸魔……3つも? よく普通に生活できてるね」
じっと赤い瞳が見つめている。しかし、紅二の瞳は翡翠を見ていないように見える。何もない空間を見ているのだ。
一青が言っていたゲートの規模と、全く同じことを言っている。けれど、紅二がゲートキーパーでないことは翡翠にもわかる。翡翠の中のゲートが反応を示していない。それなのに、彼には何故ゲートが見えるのだろうか。
「俺は、この人のゲートキーパーになりたい」
一青の言葉に紅二は今度は一青をじっと見つめる。そのガーネットのような色の赤い瞳は何もかも見透かしてしまうように見えた。
「んー。俺はいいけどさー」
紅二の答えに翡翠はため息を吐きたくなった。彼は自分の親のことを“適当”と評したのだが、彼自身の答えも相当に適当だ。いや。多分、彼は人型ゲートのゲートキーパーになることの意味が分かっていないのだろう。兄がこんなどこの馬の骨とも分からない男に一生縛られることになるなんて、考えてもいないのだろう。
「兄貴強引だからさー。翡翠さんの意思はちゃんと聞いてんの? 無理矢理、契約の印描いちゃえばいいとか思ってんだったら、俺絶対反対だよ」
紅二の口から契約の印の話が出たことが驚きだった。彼は、ゲートとゲートキーパーの関係について、きちんと理解しているようだ。その上で、兄が男である自分のゲートキーパーになってもいいと言っているのだ。
「んなわけねえだろ。だから、契約する前にうちに連れてきたんだよ。
いきなり契約してほしいとか無理なことくらいわかってるよ。だから、あんま時間ねえけど、できるだけ一緒にいて、俺のこと知ってもらおうと思ったんだろ」
一青の返答に、紅二が少し疑わし気な目を向ける。
「そんなこと言って。やーらしーこと考えてるんじゃねーの? 翡翠さん、超兄貴の好みのタイプだよな~。兄貴が狙ってる人うちに連れ込むなんて初めてじゃん。キセイジジツつくって、結婚に持ち込む気だろ。うーわ。やーらしー」
完全に面白がっている紅二にため息を一つついて、一青はその頭に拳骨を一つくれた。
「いてっ。何すんだよ~。本当のことだろ? 翡翠さん。気を付けて、この人ケダモノだから。近づいたらすぐに妊娠させられるよ~」
ソファから立って、翡翠の後ろに回り込んで、耳元に紅二が言う。その表情はすっごく楽しそうだ。きっと、この兄弟はいつもこんな感じなのだろう。家族のことを何も覚えていない翡翠には羨ましかった。
「ざけんな。人聞きのわりーこというな。翡翠さん。こいつの言ってることは聞かなくていいからな」
一青の必死な弁解に翡翠は思わず微笑んだ。
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