リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第6章〜宮廷編〜

ペガサス

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「どうして、あなたが……、ここに」

「決まってる……、お前を、迎えに来たんだよ」

 瞳孔が開ききっている。
 明らかに、テレンスはまともな状態ではない。

 ――薬の影響なのだろうか。

 どうあれ、一刻も早く、ここを離れなければならない。テレンスのそばにいるのは、危険だ。



 馬車から降りようと、扉に手を伸ばす。

「おっと……、逃げちゃ駄目だよ」
 テレンスは笑みを浮かべたまま、僕の腕を遮る。

「やめてください。人を、呼びますよ」

 言いながら、思う。


 ――本来いるはずの馬車の御者は一体、どこに行ったのだろう?
 ――テレンスは、彼に何をした?




「何を言っているんだ? ずっと、俺を待っていたんだろう?
知ってるんだ。ずっと、ずっと、俺を待っていてくれていただろう?」


 ――まただ。
 ――この、表情。

 ――湖でのパーティのあの後、豹変したテレンス。


「おっしゃっている意味が、わかりません」

「意地を張ったって、無駄だよ。俺には、全部わかってるんだ……ノエル」

「僕は、ノエルさんじゃないっ!」
 テレンスの肩を強く押す。

 そのまま、手を前に突き出し、扉側にまわる。

 身体の向きを変え、そのまま、外に出ようと扉に手を伸ばす。

 そのとき、右腕に嫌な違和感を覚える。


「……っ、何を!」


 テレンスは僕の腕に、注射器を突き刺していた。
 透明な液体が、針を通して僕の体内に入っていく。




「……一緒に天国に行こう。……ノエル」
 
意識が遠のいていく……。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 激しい頭痛と、吐き気とともに、僕は覚醒した。

「やっと起きた……。なかなか目を覚まさないから、心配したじゃないか」
 すぐ近くにテレンスの顔があった。

「ここは……」
 見覚えのない天井。

 身動きがとれない。
 僕はベッドに両手足をくくりつけられていた。

 部屋は豪華な内装で、どこかの屋敷の中のようだ。

「大丈夫。ここなら、誰も来ない……」
 僕の隣に寝そべるテレンスは、ゆっくりと僕の身体をなで始めた。

「やめろっ、僕に触るなっ!」

 僕は身をよじる。ギリギリとロープが手首に食い込んだ。

「恥ずかしがることないだろう? あんなに俺のこと好きだっていってくれたじゃないか?」

 コートを脱がせ、シャツのボタンを一つ一つはずしていく。

 テレンスの手が、僕の素肌に触れる。


「やめろっ……」

「綺麗だよ……」
 僕のあごをつかみ、自分に向けさせる。

 思わず僕は顔をそむける。

「ノエル、機嫌を直して。もう俺は、お前から逃げたりしない……」

「だからっ、僕はノエルじゃないんだ!」
 必死で訴えるが、テレンスは鼻先で笑うだけだった。

「何を言ってるんだ? ノエル。お前はノエルだよ。だって、俺が間違えるはずがない。この目を、俺が見間違えるはずがない……。俺は、お前の瞳が一番好きだった。まっすぐで、人を疑うことを知らない、汚れを知らない水色の瞳……」

 テレンスが頬を寄せる。

 避けようとするが、有無を言わさず押さえつけられる。

「んんっ、ん……」
 唇が重なる。

「愛してる……」
 テレンスの舌が、僕の舌に絡みつく。

「嫌だっ!」
 思わず、その舌に噛みついていた。

「ノエル……何で……」
 テレンスは口を手でぬぐう。

「目を覚ませよ! ノエルさんはもうこの世にいない。ノエルさんは、自殺したんだろう? 僕は、ルイ・ダグラスだ。ノエル・ホワイトさんじゃない!」

 テレンスの瞳に、一瞬強い光が宿った。


「嘘だ……。嘘だ……」
 テレンスは頭を抱え、首を振る。

 その光は、次の瞬間、狂気に変わっていた。


「この……っ、裏切り者……!!」
 テレンスが、僕の首に手を回す。

「ぐっ……、やめ……」
 手に少しずつ力を込め、僕の首を締め上げていく。

「俺以外の男に抱かれやがって……、この淫乱がっ……、何で、何で、死んだんだ。俺を置いて……。俺は、ずっとお前をっ、お前だけをっ……」

「苦しっ……」
 目の前がかすむ。

 四肢を縛られたこの状況では、抵抗らしい抵抗もできない。

 うすらぐ意識の中、部屋の扉のドアが開いたのが見えた。

 ぼんやりした黒いシルエットの人物が、僕とテレンスに近づいてくる。
 テレンスがその人物に気づく様子はない。



「もう、大丈夫ですよ」
 その人物は言うと、テレンスの首筋に一瞬のためらいも見せずに注射器を突き刺した。


 僕の首を絞める力が緩む。ほんの数秒で、テレンスは目を閉じベッドに突っ伏すように倒れこんだ。


「全く、馬鹿なことをして……。ノエルさんはもういないと、何度も言ったのに……」

 そう言って、テレンスの髪をいとおしげに撫でる。



「――可愛そうなお兄様……」


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