リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第5章〜拠点編〜

閑話:大切な妹

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オリバーside



美しい容姿をした少女からコクヨウと呼ばれた黒い瞳をした少年に乱暴に地面に組み敷かれ、痛みに俺は顔を歪める。
痛みと混乱。
そしてーーーー


「ディア様に敵意を向けるとは、いかなる理由であれ許される事ではない。」
「っっ、」


少年から向けられる殺気に、俺の身体が震えた。
ーーー・・殺される。
俺の身体から吹き出す嫌な汗。
死を意識させられた。


「っっ、うっ、」


俺は、このまま死ぬのか?
クロエを守れず。
痛みと混乱、自分がいなくなった後のクロエの事を思い、俺の口から呻き声が零れ落ちる。


「兄さん!?っっ、ソウル様、ご主人様、どうか兄をお許し下さい!」


床に這い蹲り、俺の為に必死に許しを乞おうとするクロエ。
俺の大切な妹。


「私が、この身で兄の罰をお受けしましす!なにとぞ、兄をお許し下さい!」
「っっ、やめてくれ、妹は何も悪くない!罰なら俺が受ける!」


みっともなくて良い。
誰に笑われようとも、それで大事な妹が守れると言うのなら、俺はどんなにみっともなくとも足掻いてやる。
誓ったんだ。
どんな事があろうと俺が大事な妹、クロエを守ると。


「ーーー・・っっ、クロ、エ。」


どうしていつも、俺は大事なものを守れないのだろう。
大切な妹さえ守れる力さえない自分の無力さと悔しさに俺の目に涙が滲んだ。


「お兄ちゃん。」


舌ったらずな妹が俺を呼んだ時。
この小さな妹は俺が守るのだと、幸せにするのだと誓ったんだ。
それなのに、そのクロエが泣いている。
今も昔も。


「ーー・・お兄ちゃん、何も見えないの。」
「っっ、クロエ。」


田舎町の、あまり裕福ではない家庭で生まれた俺達兄妹。
4歳になった妹のクロエ。
その日、妹の目から一切の光がなくなった。


「・・高熱が失明の原因でしょう。言い難いですが、娘さんの目が治る事はないと思われます。」


お金がないと渋る父さんと母さんを説得し、何とか医者にクロエの事を見せた俺は絶望する。
目が治らない?
じゃあ、クロエは一生、何も見えないのか?


「・・・はぁ、クロエの目が全く見えなくなるなんて。」
「クロエもうちの大事な働き手になるはずだったんだがな。」


両親のクロエへの失望は大きく。


「っっ、なんで、なぁ、どうして、あんたらはクロエへ何も食べさせないんだよ!?」


両親は目の見えなくなったクロエへの一切の育児を放棄した。
憤慨する俺に向けられる両親の瞳は冷たい。


「はぁ?穀潰しのあの子に食べさせるものなんて、うちにある訳ないでしょう?」
「オリバー、何も出来ないクロエに食べさせられる余裕がこの家にあると思うのか?」
「っっ、」


この世界の全てが憎かった。
どうして、ただ目が見えないと言う理不尽な理由だけで、こんなにも俺の妹が不幸になるんだ?


「くそっ、」


強く自分の拳を握り締める。
早くクロエを守れる大人になりたい。
それからは、俺に与えられたご飯を両親の目を盗んでクロエへ分け与え、怯える妹と2人寄り添って眠る日々が始まった。


「・・・お兄ちゃん。」
「クロエ、大丈夫だ。兄ちゃんがクロエの側にいるから、心配しなくて良い。」


小さなクロエの身体を抱き締める。
自分の無力さが辛かった。
クロエの為に何も出来ない幼い自分。
ーーーー・・そんな日々も、あの日、呆気なく終わりを迎える事になる。


「クロエを売る事にした。」
「・・・は?」


最初、両親に言われた事が理解できなかった。
クロエを売る?
徐々に理解する、その意味。


「っっ、な、なぁ、冗談、だろ・・?」


声が震える。
この人達は何を言っているんだ?
理解が出来ない。
いや、その言葉の意味を理解をしたくないと、俺の脳が拒否をする。


「クロエは、あんた達の娘だろ?」


なぁ、嘘だと言ってくれ。
悪い冗談だと。


「うちにはこれから先も食べていけるお金さえないの。オリバー、分かるでしょう?」
「クロエを売ったお金で、お前も飯がいっぱい食べられるようになるんだ、納得しろ。」
「っっ、」


そう吐き捨てた目の前両親が俺には醜い化け物にしか見えなかった。
許せなくて。
ーーー・・大事な妹と離れたくなくて、俺は制止する両親の声を無視して、無理矢理クロエと一緒に奴隷へと落ちる事になる。


「・・・兄さん。」
「ん?」
「ごめん、ね?」
「何謝ってるんだ?クロエが謝る事は何一つないだろ?」
「・・うん。」


昔のように頭を撫でても、クロエの顔に笑顔が戻る事はなかった。
なぁ、神様。
あんたがこの世界にいるなら、頼むから俺の大切な妹を幸せにしてくれよ。
とても大切な可愛い妹なんだ。


「大丈夫だよ、クロエ。何があっても、兄ちゃんがクロエの事を守るから。」


俺は何があっても、両親の様にクロエの事を見捨てたりしない。
あんな奴らとは、俺は違うんだ。


「ーーー・・っっ、」


愕然とする。
クロエを守る事が、いつしか両親への当てつけへてなっていた事実に。
なんて、自分は浅ましいのだろうか。


「・・守る、大事な妹であるクロエの事を絶対に。」


それでも妹を守りたい。
この気持ちは、俺の嘘偽りの無いものだから。


「初めまして、2人とも。私の名前は、ディアレンシア・ソウルです。」


希望と諦め。


「ーー・・もちろん、オリバーを大切にするよ。それを望んでくれるなら。」


そのディアレンシア様の優しい声だけが、最後まで俺の耳に残った。

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