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第5章〜拠点編〜
閑話:敵に回せない少女
しおりを挟むミハエルside
お菓子を美味しそうに頬張り、幸せそうな表情を浮かべる普通の少女。
ーーーー彼女は、本当に普通の少女のはずだった。
「魔族を倒した人間がいる?」
急遽面会を求めてきた冒険者ギルド長のルカリオから、そんな知らせが王である私に報告があったのが5日前。
初めは、その話が信じられなかった。
「っっ、これはッ!」
「その者が魔族を倒した証でございます。」
が、ルカリオから差し出された氷付けの魔族の身体を見て、その話を信じざる得なかった。
動き出した魔族。
その話は、俺に叛意を持つ連中にはこちらを攻撃する格好の餌となった。
「陛下、この国で魔族が暗躍していたとの話を聞きました。それを倒したのはただの冒険者の小娘だったとか。」
「本当に、その小娘は魔族を倒したのですか?とても信じられません。」
「魔族の暗躍を許すばかりか、小娘に助けてもらうとは王の資質を疑いますなぁ。」
「カーシュ公の言う通り。」
側室の子であったが為に、王位を継ぐ事ができなかった兄であるカーシュ公は何かと王となった俺を妬み自身の派閥の連中を煽って今のように攻撃してくる。
全ては己の野心の為。
この私を蹴落とし、己が次の王となる為に。
「陛下、その小娘は本当は魔族の手先なのではありませんか?」
上がる疑問の声。
カーシュ公がそう疑問に思うのも、魔族を倒した少女の情報があまりにも少なかった事も起因する。
兄が小娘と呼ぶ少女との邂逅は、波乱を巻き起こすだろう。
彼女との話次第では、この国の王として魔族を倒してくれた少女の平穏を守らねばならない。
そう思っていたのは、少女と会うまで。
『ご覧の通り私は災害級Sランクのフェンリルと九尾を従魔としております。その私が、策を練らずとも国を滅ぼす事が出来ると、お分りいただけるのではないでしょうか?』
カーシュ公達の悪意から守らねばと思っていた少女は、この国の王である私以上の力をその身に有していたのだから。
目の前の少女が魔族の手先?
その力を目の当たりにしたのなら、鼻で笑う事だろう。
あり得ない、と。
『実際に目の前で国1つ落とさせねば、フェンリルと九尾の力を、皆様はご理解いただけないのでしょうか?』
ーーー彼女の持つ力さえあれば、国1つ簡単に落とせるのだから。
それほど、彼女が従える従魔は強い。
厄災級と恐れられるフェンリルと九尾なのだから。
「・・陛下。」
この国の宰相である友、クレイシスが私へ囁く。
「宰相、分かっている。」
自分達が目の前の少女の逆鱗に触れた時、この国の未来はない。
未だ目の前の少女への恐怖心はある。
だが、私は王なのだ。
この国と民を守る義務が王である私にはある。
『ふふふ、ご安心下さいませ、カーシュ公。私は回復魔法も扱えますので、例えこの場で何があっても大丈夫ですから。』
『ふむ、我もディアの憂さ晴らしに付き合おうか?なんなら、ひと暴れしても構わぬ。』
『僭越ながら、アスラ同様、私も我が主人を愚弄する者達へ憤っております。えぇ、心底、不愉快ですね。』
だが、それ以上に兄を楽しげにやり込めた少女達への興味は尽きなかった。
この目の前の少女は、どれほどの力を有するのか。
それ次第では、彼女との付き合い方を変えねばならないのだから。
「これにて、この場は解散だ。ソウル嬢は、此度の褒賞のお金と土地の権利書などを渡すゆえ、控え室へ来るように。」
その場を解散させ、褒賞を渡す為に彼女達には別室へ移動してもらう。
私と共に彼女達が待つ別室へ行くのは側近である宰相のクレイシスと、近衛騎士団長のガルシオの2人。
謝罪した私に少女は告げたのだ。
『私の大事な子達に害が及ぶのであれば、国1つ滅ぼす事に躊躇いはないでしょう。』
と微笑んで。
美少女と言って良いほどの秀麗な容姿をしながら、こちらへ向けられた殺気は普通の人間が出せるものではない。
『こちらに未だに敵意を持つ自殺願望がある貴族の皆様へ、覚悟を持って私達へ刃を向けてください、と。私が持つ全力でお相手いたしますわ。』
自分の背中が泡立つのが分かった。
目の前の少女に、私は底知れぬ恐怖心が湧き上がる。
ダメだ。
この目の前の彼女の逆鱗に触れる事は許されない。
国を守る為にも。
『もしも、それを国が黙認するのであれば同罪と思ってもよろしいですよね?』
同罪となりたくなければ監視を徹底しろ言う。
『うふふ、国の為に頑張って一部の貴族がバカな事をしないよう監視してくださいね?ついでにお教えしますが、私にはフェンリルと九尾の他にも従魔がおりまして、その子は情報集めが得意なんですの。』
唾を飲む。
『隠し事はできませんよ?』
この国の王として、目の前の少女を敵に回せない。
痛感させられる。
「ソウル嬢、まずは此度の魔族討伐の報奨金と、これが土地の権利書と間取り図になる。」
なら、友好を深めるしかないよな?
私はこの国の王なのだから。
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