84 / 411
第4章〜暗躍編〜
閑話:ある男の自惚れ
しおりを挟むムルガside
俺達、ーーーー俺は、ギルドランクがCに上がって、自惚れていたんだ。
自分の力を。
ギルドランクCと言う名に驕り、過信してしまっていたんだ。
「おい、見ろよ、ギルドランクCのムルガだぜ!」
「良いよな、ギルドランクC。稼げる金額も良くなるし、俺もギルドランクCに早くなりてぇな。」
俺へ向けられる周りからの憧憬。
その視線は、とても気持ちの良いものだった。
だからこそ、誤解する。
自分は強いと。
特別な人間なんだって。
「・・チッ、中々良い依頼がねぇな。」
どの依頼も旨味がねぇ。
ギルドランクCになったから、受けられる依頼が格段に増えた事は嬉しいが、その分危険が伴う。
金は欲しいが、死にたくはねぇ。
さて、どうするか。
「ムルガさん、どの依頼にしますか?」
「これなんか、楽そうだよな!」
「でも、その依頼だと支払額が少なくないか?」
「うーん、こんなに支払額が少ないなら、この依頼を受けても割に合わないよな。」
俺の取り巻き共がかしましく騒ぐ。
自分の力では、何一つ何もできない俺の腰巾着。
ただ使える駒だからから側に置いている。
「・・・本当、どうするかな。」
見慣れた風景。
いつもと同じ、朝の光景。
それは、いつものようにギルドで受ける依頼を物色していた時だった。
ーーーー・・その女が、俺の前に現れたのは。
女の容姿に目を見張る。
「・・・ほう、良い女じゃねぇか。」
銀色の髪に、薄紫色の瞳。
ギルド内に入った瞬間、緊張にか固くなった表情もそそられた。
あんなべっぴん、なかなか拝めねぇ。
それほどの容姿。
「くく、あんな上物を拝めるなんて滅多にいないぜ。」
周りの連中まで女に見惚れてる。
「どれ、あれほどの上物ならこの俺の女にしてやるか。」
舌舐めずりした。
運が良い。
ろくな依頼は無かったが、あんな良い女を見つけられたんだからな。
「くくく、ギルドランクがCである俺の女になれるんだ。あの女も泣いて喜ぶだろ。」
女なんて、皆同じ。
俺が高ランクであると知れば、靡くだろう。
だから、他の奴らの手垢がつく前に、強引にでも目の前の極上の女を自分の物にしようとした。
「よう、べっぴんな姉ちゃん。用が終わったんたら、これから俺達と遊ぼうぜ。」
だが、どうだ?
「・・・はぁ、お断りしましす。あなた達とは遊びません。忙しいので。」
誘う俺に冷たい目を向ける女。
こちらに全く興味がないと言わんばかりに俺の誘いをあっさりと断りやがる。
こんな屈辱は初めてだった。
この俺がわざわざ声をかけてやったんだぞ?
「あん?ちょっと顔が良いからって、スカしてんじゃねぇぞ!お前は、ただ大人しく俺の言う事だけを聞いてれば良いんだよ!!」
だから、無性にムカついた。
ーーーー・・それが、間違いだとも知らずに。
「分かった・・っっ、!?」
なかなかこちらの誘いに乗らない女に、俺の我慢が限界を迎えた瞬間だった。
目の前の女に、とてつもない寒気を感じたのは。
(・・・っっ、こ、殺される。)
視線が合っているだけ。
ただ視線が合っているだけなのに、身体の震えが止まらず、噴き上げる冷や汗。
「兄貴?」
「一体、どうしたんです?」
「まさか気分でも悪いんですか?」
黙りこくった俺に不審そうに腰巾着どもが何か喚いているが、頭の中には何も入ってこない。
そんな俺に見向きもせず、女はギルドから出て行った。
その瞬間、解かれる強張り。
「ムルガさん!?」
「ちょ、顔が真っ青じゃないですか!本当にどうしたんって言うんです?」
「っっ、うるせぇ!俺に構うな!!」
あんな威圧感があったのに、こいつらは何にも感じなかったのか?
あまりの異様さに、ゾッとする。
「・・・まさか、俺だけにあれだけの威圧を向けたのか?」
あの女に対して湧き上がる恐怖心。
だがーーーー
「・・・もし、あの女をーーーー」
俺が手に入れられたら。
それは、俺の胸の中に響く暗く甘い誘惑。
一滴の黒い染みが、俺の心の中にゆっくりと確実に広がっていった。
「・・?ムルガさん?」
「おい、しばらく依頼は受けねぇ。その代わり、あの女の事を調べて、監視しろ。」
「へ?」
「ムルガさん、あの女の事、本気なんですか?」
「良いから、言う事を聞け!」
喧しい奴らを一括し、あの女の事を調べて周辺を監視させた。
「どうやら、このまま迷宮に入るみたいだな。」
あの日から数日。
手下に監視させていたあの女、ディアレンシア・ソウルが数人の奴隷を購入し、レベル上げに勤しんでいたと思ったら、迷宮の方向へと向うとの連絡が入った。
どうやら、今度は購入した奴隷達と迷宮攻略に勤しむらしい。
女達の後をつけながら、思案する。
「ムルガさん、このまま俺達も迷宮に入るんですか?」
「迷宮に入る用意なんてしてませんよ?」
「うるせぇ、俺たちの実力なら問題ないだろ!今日さえ凌げば、迷宮に入るのに必要な物を揃える事も出来るんだよ!」
及び腰の奴らをひと睨みして黙らせた。
「良いから、黙って俺について来い。あんまり喧しいと、あの女にバレるだろうが。」
絶対に、あの女の事は俺が手に入れて見せる。
俺は知らない。
この時の決断が、自分の人生の分岐点となる事を。
4
お気に入りに追加
2,257
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる