リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第3章〜恋愛編〜

複雑な心境

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ご飯は、何かしらの理由が無い場合を除き全員で一緒に食べる。
そう決めた自分が恨めしい。


『心から愛してます、ディア様。貴方の事を、誰よりも。』


私の耳元で、昨日の夜に聞いたコクヨウの甘い声がした。
アディライトに身支度を整えてもらい、皆んなが待つリビングへ緊張をしながら向かう。


「おはようございます、ディア様。」


普通だった。
寝室からアディライトと出て来た私に気が付いたコクヨウの反応は。
昨日の事が嘘のよう。
全く動揺する様子もなく、顔色1つ変えないコクヨウ。


「・・おはよ、う、コクヨウ。」


俯く私。
コクヨウと目も合わせられず、アディライトが作った朝食を食べる為に無言で席に着く。
嫌な奴と、自分を険悪しながら。


「ディア様、おはようございます。少し、元気がありませんね?」
「・・そう、かな?疲れてるの、かも。」


心配そうに声をかけてくれたディオンに力ない笑みを向ける。
言えるわけない。
昨日、コクヨウとあんなことしたなんて。


「なら、ディア様は今日はゆっくりとお休み下さい。」
「・・うん、ありがとう、ディオン。」


嘘が心苦し。
フィリアとフィリオも心配そうな目を向けてくれているのに、何も言えない。
黙々と朝食を口に運ぶ。
ーーー・・今日食べたご飯は、何の味も感じなかった。


「ディア様、食後のお茶です。」
「・・アディライト、ありがとう。」


泣き出したい。
それでも、アディライトが入れてくれたカップに、平気な顔で口を付ける。


「ディア様。」


影の中から滑り出てくるリリス。
私の前に膝を折ったリリスは、手に持っていたカップを取り上げる。


「リリス・・?」
「お疲れのご様子ですね、ディア様。今日は、このまま、お休み下さい。」


労わるような眼差しのリリスに手を引かれ、そのまま寝室へと連れて行かれる私。
黙ったまま、リリスに手を引かれていく。
そんなに疲れたような、酷い顔を自分はしているのだろうか?
自覚はないが、皆んなが一様に心配しているって事は、私は酷い顔を自分はしているんだろうな。


「・・・皆んなに心配かけて、一体、自分は何をしているんだろう?」


不甲斐ない。
平常心を取り繕う事さえ出来ないなんて。
あちらの世界の私弥生ルビだったら、上手く周囲を誤魔化せたはずなのに。


「・・・ぬるま湯に浸かり過ぎたみたいね。」


幸せ過ぎた。
皆んなと過ごす日常は。
だからこそ、平常心を取り繕う事さえ忘れ、こんなにも動揺して心を乱している。


「ーーー・・戻らなきゃ。」


あの頃の自分に。
だって、皆んなに嫌われたくないもの。
唇を噛み締める。


「・・大丈夫、だよ。」


元に戻るだけ。
たったそれだけの事なんだから。
リリスに手を引かれるまま、寝室へ戻った私。
そのままベッドへと座らされる。


「さぁ、今日は1日何もせず、このままベットに横になって休んで下さい。」
「・・・私、眠くない、よ?」
「いいえ、今のディア様には休息が必要です。」
「・・・、でも、」
「大丈夫です、ディア様。眠るまで、ずっと私がディア様のお側におりますから。」


リリスに握られる私の手。


「このまま横になって目を瞑ってみて下さい、ディア様。」
「ん、」


自分でも全く気付かない内に、身体は休息を求めていたのだろうか?
言われた通りベッドに横になって目を瞑り、リリスに髪を撫でられた私の意識は次第に闇の中にゆっくりと沈んでいく。


「ーーー・・ディア様、何も怖がる事はありませんよ。」


薄れていく意識の中で、そんなリリスの呟く声を最後に聞いた気がした。
ぼんやりと夢の中を漂う。
寒さも暑さもない、私の夢の世界。


『ーーーー人生、リセットしてやり直しませんか?』


リデルは言う。
新しい世界で私の望む人生を選べるのだと。


『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』


お父さんは言う。
お母さんを殺した私が幸せになる事を絶対に許さないと。
お父さんにとって私は、愛する妻を殺した憎い子供で、忌むべき存在。
そんな私がお父さんに愛されるはずがなかった。


『ーーー・・お父さん。」


伸ばした私の手。


『・・お前は俺の子供なんかじゃない。』


振り払われたのは当然。
でも、お父さん、とても悲しかったんだよ。
受け入れて欲しかった。
例え私が全て悪いのだとしても、お父さんの娘として認めて欲しいと願った小さな私。


『愛ってなに?家族ってどんなもの?』


文字としてしか知らないもの。
夕方に親子で家に帰る光景を窓から見る度に切なさが胸を締め付けた。
期待は絶望へ。
いつしか絶望は無へと私の中で変わっていった。


『愛は時に人を不幸にする。』


怖かった。
また私が誰かを悲しませる事が。
お父さんの様に、愛する人を私が殺してしまったら?
奪ってしまったらどうなるの?


『ーーー・・それなら、このままで良い。』


変化なんか欲しくない。
このまま、変わらない穏やかな日常のままでーーー。


「・・んっっ、」


微睡む私の髪を誰かの手が撫でている。
優しくて、私の髪を撫でる、その手の暖かさに自然と頬が緩む。
誰、なのだろう?
私の髪を撫でる人は。


「・・・、ん、リリス・・?」


貴方なの?
うっすらと、目を開ける。


「ーーー・・お目覚め、ですか、ディア様?」
「っっ、」


至近距離にあるコクヨウの顔に、起き抜けの私は小さな悲鳴を上げた。
どくどくと鳴り響く心音。
ーーー・・なぜ、コクヨウがここにいるの?


「ディア様、顔色は大分良くなった様ですが、ご気分はどうですか?」
「っっ、だ、大丈夫。」


声が震える。
眠っていた私の頭を撫でていたのは、コクヨウなの?


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