リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第3章〜恋愛編〜

コクヨウの決断

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恋愛対象として、コクヨウが私の事を好き?
こんな私を?


「っっ、う、嘘・・?」
「ディア様に、僕がそんな嘘をつくとでも?」
「ぐっ、」


言葉に詰まる。
・・確かに、コクヨウは私に嘘をつかないかも?


「っっ、で、でも!何で、私なの?わ、私が、コクヨウを買った主人だから?」
「何で?それはーーー」


コクヨウに腰を抱かれ、引き寄せられる。
近付く互いの顔。


「っっ、コ、コクヨウ!?」


何事!!?
吐息さえ触れてしまうほど近付く互いの距離に、私の頬が段々と熱を帯びる。


「・・・ディア様、貴方は気が付いていますか?」
「え?」
「貴方は、時々、寂しそうな目をする。」


涙の跡が残る私の目尻をなぞる、コクヨウのほっそりとした指先。


「直ぐに気が付きました。」
「・・・何、を?」
「ディア様も僕と同じで、他の誰からも愛されなかった人間なんだと。」


コクヨウの漆黒の瞳は、私の隠された本質を全て見透かしていく。
昔から、私は本心を隠すのが上手かった。
良く言われたものだ。


『弥生ちゃんは、いつも何を考えているか分からない。』


と。
それなのに、コクヨウにあっさりと見破られてしまった私の胸の内。


「っっ、」


口元が震える。
私の全てを見透かす様なコクヨウの瞳が怖かった。
暴かないで欲しい。


「誰よりも、ディア様、貴方は愛を欲している。」


でも、見つけて。
ーーー・・本当の、隠された私を。
本心を曝け出すことは怖い。
だって、自分の全てを見せるって事だから。
もしも、嫌われたら?
考えただけで吐き気がする。


「確かに、ディア様には買っていただいたご恩があります。だからと言って、自分の気持ちを偽りませんよ。」
「っっ、じゃ、じゃあ、」
「はい、心からお慕いしています。ディア様、貴方だけを。」


熱を孕むコクヨウの瞳。
その熱を怖いと感じると同時に、嬉しいと思う私がいる。


「ディア様は、僕の事を嫌いですか?」
「っっ、まさかッ!」


私がコクヨウを嫌うなんて、そんな事、絶対にありえない。
コクヨウも事は大切で、大好き。


「・・・でも、その好きがよく分からない。」


恋って何?
愛って、どんなもの?


『ーーーあいつを殺したお前を、俺は絶対に幸せにはさせない。』


私は、幸せになってはいけない人間。
きつく目を瞑る。


「・・・ディア様は、一体、何に怯えていらっしゃるのですか?」
「・・や、」


お願い、コクヨウ、今は私の心を暴かないで。
目を背け、口を噤み、耳を塞ぐ。
それが私の、心の守り方。


「・・っっ、もう、止めて、コクヨウ。」


小さい頃同様、私は蹲った。
コクヨウの告白は、私の心を酷く動揺させる。


「ディア、様?」
「っっ、や、めてッ。」


耳を塞ぎ蹲る。
もう、何もコクヨウから聞きたくなくて。
怖い。
これ以上、固く蓋をして隠している自分の心の内へ踏み込まれる事が。
逃げ出してしまいたい。


『っっ、何で、お前は生きているのに、あいつは死ななければならなかった!?』


忘れるな。


『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』


自分は、罪人だと言う事を。


「・・・幸せに、なんて、なれないよ。」


私は人殺し。
そんな私が、幸せになんかなれるはずがない。


『ディア様も僕と同じで、他の誰からも愛されなかった人間なんだと。』


図星だった。
私も皆んなと同じ、誰からも必要とされず、愛されなかった子供。
だからだと思う。
こんなにも、私が彼らに執着するのは。


「・・私、は、」


一体、何を望んでいるんだろう?
分からない。
自分の事なのに、何1つ。


「・・・僕のこの思いは、ディア様の迷惑、ですか?」
「違っ、」


思わず、顔を上げてしまう。
絡まる視線。


「でも、例えそうであったとしてもディア様へのこの思いは、捨てられそうに無いです。」
「・・・コクヨウ。」


コクヨウの指が私の髪を掬う。


「心から愛してます、ディア様。貴方の事を、誰よりも。」


私の髪に、愛おしそうにコクヨウが口付けを落とした。
かっと、羞恥に頬が朱に染まる。


「ですのでーーー」
「っっ、!?」


ベットに押し倒される私の身体。
その私の上には、コクヨウがのしかかる。


「へ・・?コク、ヨウ?」
「ちゃんと、ディア様には僕の気持ちを知ってもらいます。」
「!??」


驚愕する私の額に、頬に、落ちる口付け。
コクヨウの手によってはだける胸元。
目を剥く。


「っっ、コクーーーッ。」


私の言葉は、コクヨウのキスによって掻き消された。
身体中に落ちる口付け。
頭の中が沸騰してしまいそう。


「・・やっ、コクヨウ、まっ、待って、」
「待ちません。」
「あっ、っっ、」


私の口からは拒絶の言葉では無く、ただ甘い声だけが零れ落ちていく。
それは、なぜ?


「ディア様、本気で嫌なら、拒絶して。」
「んっ、」


・・・拒絶、したいのだろうか?
こうして、私の身体に優しく触れるコクヨウの手を。


『心から愛してます、ディア様。貴方の事を、誰よりも。』


コクヨウの気持ちを、私は拒みたいと思っているの?


「んんっ、あ、」


涙が滲む。


「っっ、コ、クヨウ、」


手を伸ばす。
私が縋り付くのは、目の前の彼。


「ーー・・怖、い。っっ、コクヨウ、怖いよ。」


怖くて堪らないの。


「ディア様、大丈夫です。」
「コクヨウ・・?」
「何があっても、貴方の事は守ります。」
「っっ、」


コクヨウの言葉に心が震えた。
目の前の存在を失う怖さと、求められる事の嬉しさ。


「・・、でも、」


私はーー


『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』


あの人に囚われたまま。
前に進めない。


「ディア様、今は何も考えないで。」


頬を撫でられる。
コクヨウによって、快楽の波に誘われる私の身体。
頭の中が掻き乱されていく。


「っっ、っっ、」
「・・・お休みなさい、ディア様。」


薄れゆく思考。
額に落ちる温もりとコクヨウの声を最後に、私の意識が闇に落ちた。

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